その伝説は、奇跡と呼ばれるにふさわしかった。
 千年に一度、この世界には奇跡が起きる。
 それは、とてもとても寒い、空気も凍てつくような日。
 その漆黒の空に月が満ちた時。
 この世でもっとも美しく、甘く、残酷で、何よりも誰よりも優しい奇跡が。
 優しい、魔女が。
 伝説で、奇跡で、優しい魔女が、千年に一度だけ舞い降りる。
 魔女は、人を怖がらせたりなんかしなかった。
 本当の魔女は、人間なんかよりもよっぽど優しい生き物だった。
 でもある日、二大魔女の片割れが、人間に恋をした。
 今まで人間に対して平等に愛を振りまいていた魔女が、一人の人間を愛してしまった。
 人間は、優しかった。
 繋がれないはずの二人の手が、ふとした拍子にくっついてしまった。
 でも、魔女はやはり、魔女だった。
 人間はやはり人間で、奇跡はやはり奇跡で。
 愛に溺れた、一時だけの二人。
 恋をした魔女は、その時だけは、魔女ではなく少女だった。
 少年と少女の、恋物語。

 ――少年と少女の、甘く優しい、恋物語。

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