黒子テツヤは天然ピュアである。
中学時代は学校で性行為について学んでないなんて言われた時は思わず日本の学校の教育を疑ったものだ。実際は授業中に寝こけていただけらしい。

勘違いされないように言っておくが俺は別に黒子に対して性的な感情は持ってない。だからといって性的にどうしようとも考えてない。
なら何故こんな話をするか、黒子の発言が全ての始まりだった。


「黄瀬君に、その、エッチの仕方、教えてもらったんです」


果たしてこれをどう捉えればいいのだろうか。恐らく生まれて初めて脳をフル活用した瞬間である。そもそも何故こんな会話に発展したのか今となっては覚えていない。
普通なら「あーテスト勉強対策か」くらいで済ませれる筈。
しかしニュアンスが、相手の名前が、何より無表情に定評のある黒子の恥じらう姿がそうさせてくれない訳である。

黄瀬涼太。コイツは言わずと知れた海常バスケ部の選手…ではなく黒子のストーカー。誠凛に馬鹿みたいに遊びに来るからいつの間にかバスケ部に違和感なく馴染んでいる。
黒子に彼女(黒神めだか)疑惑が浮上した時は、いの一番に誠凛に駆けつけて嘘だのなんだの騒ぎまくった。親友?に先に彼女を作られたのがそんなにショックなのかと思えば実は黄瀬と黒子は付き合っているらしい。
らしいと言うのは黄瀬は肯定するが黒子は否定する。
黄瀬が突然わけもわからん牽制をしてきた(相棒としてしかみてないので解決)時、黒子に付き合ってんのかと聞けば

「僕なんかが黄瀬君と付き合ってるなんておこがましいにも程があります」

きゃあ、と自分を卑下して交際否定。男同士に後ろめたさがあるのかと思いきや実際は砂を吐き出す所か新たに砂糖が生産されそうなくらいのラブラブっぷりで。この馬鹿ップルめがと小突きたくなった。


話を戻すが黒子のニュアンス的に教えてもらったイコール実戦したで間違いないだろう。普通に考えるとおかしい。中学生ってそんな事すんの?…いやいや待てよ、黒子の言葉選びが悪いだけかも知れない。コイツちょっと人に誤解させるような言葉使うもんな。黄瀬に性欲の発散の仕方を教えてもらっただけだろう。中学生男子の遊び半分好奇心半分みたいな。それもそれで問題あるが。まさか当時中学生で男同士でAVみたいなとこまでいくとは


「黄瀬君が、男でも女みたいに気持ちよくなれるからって、僕のお尻に指」
「いや、いい黒子ごめんなさい勘弁してください」

黒でしたよコンチクショウ。淡い期待を返してくれ。中学生にして身体の関係を持ったなんて暴露されても反応に困る。お前らの親きっと泣いてるぞ。この会話、俺帰国子女だからわかんないとか言って回避出来ないものだろうか。
聞いてますか火神君、とうっとりしながら話をする相棒をよそにげっそりと机に突っ伏した昼休み。そんなこんなで黒子と黄瀬のラブラブっぷりを両人に暴露され、以降マジバだろーが公園だろーが自重しろよってくらいの事を目の前で披露されるわけだが。あーんとか恋人繋ぎとかetc.


因みにキセキの世代は二人の関係を知らないらしい。付き合い始めたのは高校になってからだと。…という事は中学の時は一体なんだったんだと聞きたいが聞きたくない。
爛れた関係からカップルになったのかとしたくもない納得をして自己完結していたら人の心を読んだかのタイミングで黄瀬に否定され、更には

「黒子っちの身体開発とか夢だったんスよ。好きな子を自分色に染めるとか素敵じゃないッスか!気持ちいい事は俺としか出来ないってそれとなく刷り込んで愛を育んでいっただけッスよ!」








意味わからん。意味がわからん。いやマジで。そして最近わかった事があるが、たまに黄瀬と黒子の会話が噛み合ってない時がある。例えば

「ねぇ、黒子っち、黒子っちは二号のこと好き?」
「可愛くて大好きですよ」
「インターネットで募集しようねー」

とか

「黒子っちの好きな色ってなんスか」
「…赤と青…ですかね」
「じゃあ黄色になるね」

とか

「なんか今日の黒子っちの髪、いつにも増してふわふわして気持ちいいッス」
「そうですか?」
「鎖買いにいこっか黒子っち!」


会話だけ聞くと黄瀬お前本当に黒子の話聞いてんのかと。他の奴と話す時は本当に普通に会話のキャッチボールが出来ているのに黒子の時だと投げたボールがブーメランへ変化して本人に返ってきてる。しかしデレッデレの顔を晒しながら黒子と向き合って(黄瀬の太腿の上に黒子。ツッコムのは止めた)黒子の言葉を逃すまいと喋っていたから聞いてるには聞いてるみたいだが。
噛み合わない会話に黒子は困惑するどころか嬉しそうに相槌を打っているから会話は一応成立…してんのか?だめだ。自分で言ってる事矛盾だらけで頭パンクしそう。黄瀬のこの意味不明な会話は意外にも秀徳との合同練習の時、謎が解けた。

 黒子が休憩が終わっても体育館に戻って来ないから探して来いとカントクに言われ、ついでに高尾も付いてきた。

「黒子の奴、黄瀬君に絡まれてるんだろ?」
「ハァ?黄瀬?」
「気付いて無かった?休憩挟む前から体育館覗いて黒子のこと見てたぜ。ところで付き合ってんの?あの二人」
「……あー」

ストーカーは変わらず運行中。まあそうだよな場所誠凛だし。そうなると影の薄い黒子よりも無駄に目立つ黄色いのを探せば簡単に見つかるだろうと踏めば、案の定自動販売機を壁にした黒子と、黒子の顔の横に手をついた黄瀬の姿が。…なんだろうこのものっそいピンクな空気。

「なぁ、マジで付き合ってたの?」
「あー…おう」
「心配しなくても人にベラベラ喋らねーよ!あ、でも真ちゃんには喋るけど?」
「好きにしろよ」

俺に言われても困る。壁に隠れて二人の様子を見る。バレんじゃねーのかと思ったが「こんな時こそホークアイ!」だと。バスケに使え。


「黒子っち」


クッソ甘ったるい声で黄瀬が黒子を呼ぶ。鳥肌がめちゃくちゃ立った。黒子が答える変わりに顔を上げ、二人の距離が縮まる。恋人同士がさらけ出す雰囲気に次に何があるかなんて嫌でもわかる。何が悲しくて相棒が男と抱き合ってキスしている場面を目撃しなければならないのか。しかもdeepかよ。あれおかしいな既視感を感じるのは。ああそうかアレックスかハハハ。アイツは女子供に対してだけど。大丈夫だ。俺は何も見てない。
高尾は笑いをこらえながら携帯連写してるんだがお前はそれをどうする気だ。え、ネタ?緑間に?眼鏡が割れる?お前は何言ってんだ。


「黄瀬君、あの、先程の子は」
「ん?あぁ、俺のファンッス」

満足げに息を吐いた黒子が黄瀬の袖を掴みムスッとした口調で黄瀬に聞く。そういえばさっきここ来る前に女とすれ違ったけどソイツか。そういや黄瀬ってモデルだったな。黒子と一緒にいたときにファンに寄られたってとこか。
もしかして黒子、jealousyか?あ?発音がイラッとするって言われても本場にいたから仕方ねーだろ。


「本当に、ファンなんですか?黄瀬君に抱き付いたじゃないですか…恋人じゃないんですか?」
「何言ってんスか、俺の恋人は黒子っちだけっスよ!それに直ぐ離したっしょ?」
「本当に?ファンですか?」
「本当に、ただのファンっスよ」

ニコリと笑う黄瀬を見て、普段無表情がデフォルトの黒子もこのときばかりは崩してふにゃりと笑う。高尾は連写を止めないのは置いといて、誤解が解けてよかったな二人と――――

「黄瀬君、彼女作っていいんですよ?」







ど う い う こ と だ 。どうしてそうなった。どうしてそうなった!?おい黒子、それでいいのか?お前ら付き合ってるんだろ!?いや、黒子は否定してるが付き合ってるんだろ!なんで黒子そんないい笑顔でんな事言ってんの!?実は怒ってるとか?いや、あんなふにゃふにゃした顔で怒るとかそんな器用な事無理だよな。何があったし黒子。ドキドキハラハラ。高尾はワクテカしながら様子を見守る。

それまで茫然として黙っていた黄瀬が黒子の胸倉を掴み壁変わりにしている自販機に更に叩きつける。ほら変な事言うから黄瀬めっちゃ怒ってんじゃねーかよ!顔こえーよ。止めた方がいいよなこれ高尾邪魔すんな!ホモのもつれとか見たことないとか知るかよ!緑間の眼鏡飛ぶとこみたいからとか尚更知るかよ!眼鏡って飛ぶのかよ!
小声で攻防を行っているのをよそに黄瀬が黒子っちと口を開いた。


「ハァ?何それ何言ってんの?黒子っちはそれでいいの?満足出来ないとか意味わかんねーんだけど。それとも作らせたいの?俺に彼女作らせて何するつもり?俺と別れたいの?俺に彼女が出来た事口実に俺と別れる気?なんで?他に好きな奴でも出来た?俺がいない間にソイツと会うつもり?なんで他の奴に靡いてんの?男?女?どっちにしろぶっ殺すけどいつ会ったの?何処が気に入ったの?俺に足りないモノでも持ってたの?ソイツ以上になれば俺の事また見てくれる?その後監禁しようか?黒子っちもう他の奴見れないようにした方がいいよね?」


…ごめん黄瀬、呼吸してゆっくり喋ってくれ。俺そんな一気に喋られるとさすがに理解出来ない。取りあえず黒子の話から逸れているってのはわかった。ついでにそれまでワクワクしてた高尾の表情が一変して真っ青だから良くない事だというのはわかった。携帯落としたぞいいのか。なんて言ったんだと高尾に聞くが「し、知らぬが仏…?いやこれ意味違うよな?」いや疑問で返されてもその言葉自体わかんねーよ。
高尾がこんなんなら、間近で聞いた黒子はどうなんだと視線を向けるが


「黄瀬くん、そんなに僕の事…」


顔を真っ赤にして嬉しいですと黄瀬に抱き付く。途端に黄瀬もいつもの締まりのない顔(発動条件:黒子の前)でギュウギュウと黒子を抱き締める。
ハートマークめっちゃ飛んでるけど、え?何これハッピーエンド?よくわからんが良かったな。隣のホークアイ黙り込んでるけど。


「黒子ー!休憩終わってるぞダァホ!!」


クラッチタイムキャプテンの叫びが響く。そういえば俺等黒子探しに来てたんだっけ忘れてた。
高尾が今来たばっかりだと装って黒子ー、と呼べば黄瀬が耳元で何かを囁き、また後でと校門へと出て行った。
すみませんと寄って来た黒子が歩きながらぺしぺしと人の背中を叩いてくる。黒子なりの照れ隠しだと知っているので体育館に入るまで好きにさせておく。

「黄瀬君が思った以上に僕の事好きでいてくれていました。どうしましょう、恥ずかしいです」
「おーよかったな」

幸せですと緩んだ顔を両手でむにむにしている姿はなんかハムスターみてぇ。心配させんなよの意味を込めて頭をもみくちゃにしてやった。



「…なぁ黒子、黄瀬君っていつもあんな感じ?」

体育館に入る手前、扉を開ける寸前まで黙ってた高尾が黒子に質問。どうでもいいけど高尾の口めっちゃひきつってるぞ。
こてんと首を傾けた黒子はあんな感じ?とわかってない。
二人っきりの様子を見てたと口を挟むと、ああ、と黒子が納得。

「いつもじゃないですけど、そうですね。いつもは鎖とか首輪とかの単語が出てくるだけですけど」

僕愛されてますよね、と返す黒子にそうだなと高尾が笑って――――

「真ちゃぁああん!キセキの世代ってツンデレだけじゃ飽きたらずヤンデレも導入してんの!?」
「何を訳のわからない事を言っているのだよ。大体黒子を探しに行くのにお前らはどれだけ時間を」
「やだぁああああ怖いぃいいいいいい」
「話を遮るな高尾!」
「アイツおかしいって!アイツ絶対黒子の言葉を自分の中でおかしな方向に広げて変な解釈して結論だけ口に出すタイプだって!今日はなんか臨界点突破して全部喋ってたけど!」


体育館に入ると高尾がソッコーで緑間に詰め寄る。対戦中のような真剣過ぎる表情から察するに黄瀬と黒子は別にハッピーエンドじゃなかったらしい。
しかしなるほど、高尾のお陰で黄瀬の会話が噛み合わない理由がわかったのである。








でも何が凄いって黒子のスルースキル by高尾







黄瀬の会話の意味が知りたい方は支部へ。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -