丸井君は半ばパニックになっていた切原君を落ち着かせ、顔を洗いにいくよう指導。ごねる切原君に「しょうがねーから一緒に行ってやるよ。……もちろん、ジャッカルが」「俺かよっ」と丸め込み、切原君はジャッカル君と顔を洗いに行った。私はその間に、できるだけ簡潔に今まで起こったことを丸井君に伝えた。
「永山は平気か?」
『……切原君よりかは』
テケテケもなかなかショックだが、多分それだけではない。切原君はきっと二人を置いてきたことを後悔しているんだろう。
「そっか。まぁいくら心配でもよ、ずっと緊張してらんねえからな。
とりあえずクールダウンしとけよぃ。ほら、足伸ばしたり肩回したり。そうしねーと明日筋肉痛になるぜ?」
『それもそうですね』
今走った疲れもあるが、緊張で首や肩がぎしぎしする。首や肩を回してほぐし、それから腕や足を伸ばしたりなどしていたら、だいぶ楽になってきた。
「さて、これからどうすっかな」
『三階に、幸村君を探しに行くのはどうですか? ……真田君たちの、分担でしたが』
あの状況では、難しいだろう。誰かが代わりに行ったほうがいい。
私がそれを告げると、丸井君は気まずそうな声をあげた。
「あー、それなんだけどな。教室に居なかったぜ、幸村くん」
『もう教室に行かれたんですか?』
「そ。なんか真田達話してたし、居ても経っても居られなくてよぃ。行ってみたら、幸村くんは居なかった。
でも机とかロッカーとかには制服は無かったし、もう立ち寄った後だと思うんだよな。
だから多分、昇降口に向かってるんじゃねぇかな。どっかで迷うわけなんて無いし」
『目的地に辿り着けないのは、迷っているからじゃないかもしれません。
追われてる、隠れている、逃げている……、そういった可能性もあるんじゃないでしょうか?』
「げっ。教室付近に居ないってことかよ。なら二階を探すだけじゃ会えなくねぇ?」
『まっすぐ昇降口に向かったとは考えられませんが、教室までは辿り着いているという事実はあります。なので教室付近から昇降口への最短距離だけでなく、その周辺も探してみた方が良いかなと思います』
「ふーん、なるほど。じゃあ俺は一番あそこには近付きたくねえなぁ。《化学室の開かずの間》、永山は知ってるか?」
『そんなのありましたっけ?』
「化学準備室、そう呼ばれてるんだぜぃ。ま、幸村君が「化学は苦手」って言ってたから、そこには居ないと思うぜぃ」
『そうなんですか。ではやむを得ない事情がない限り、そこには居ないでしょうね』
私の含みのある言い方に対して丸井君は顔をしかめた。かなり嫌そうだ。熟考したあと、しぶしぶ口を開いた。
「……、あんま考えたくねぇけど。よし、そこに行ってみっか!
いっそ居て欲しくない所から探しちゃおうぜ。てかジャッカル達おせーなー」
丸井君が手を頭の後ろで組んで、歩き始める。私も彼に付いて教室を出た。
確か彼らはお手洗いに行ったはず。階段の前を通り過ぎて、お手洗いに向かおうとしたとき、《りん、りんりん》と鈴の音がした。この音は聞いたことがある。手毬をついた時の音だ。階段の上の方から聞こえた気がする。
つい惹かれて階段の方へ向かう。折り返しの踊り場へ上がり三階が見えてきた頃、上履きが転がっているのを見つけた。近づいて見るとかかとの部分には「幸村」と書かれていた。これはきっと幸村君のだ!
みんなに見せようと片手に上履きを持って階段を下りて二階へ。男子トイレへ向かったが、誰も居なかった。

……えっ。


 

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