風が強い。風が冷たい。
遮るものは何もないから、湖風を直に浴びる。
寒いね、と笑いかけると、赤也くんは慌てて自分が巻いていたマフラーを外して、私に巻いてくれた。
沈みそうな夕日と湖を、なぜ私がマフラーも持たずに訪れているかと言うと、話は数時間前にさかのぼる。

今日は私の立海最後の登校日だった。
帰り道、駅のホームで赤也くんを見かけたので、手短に引っ越すことを伝えた。
すると赤也くんはあろうことか、私の手を引っ張って、やってきた電車に乗り込んだ。
乗ったことのない電車だった。
終着駅は、どこかもわからない。
私の手を握ったまま、空いている座席に座る。
手はつないだままだ。
最後の日くらい、いいかな、と私は電車に揺られることにした。

私と赤也くんは、付き合っている。……多分。
自信を持って言えないのは、赤也くんから告白してきたくせに、
私の一方的な思いしか、見えなかったからだ。

『どうして私をここに連れて来たの?』
「……わかんね」
湖を前に、私は赤也くんに問いかけてみた。
赤也くんは私と付き合ってるけど、私といるとあんまり笑わない。
理由はなんとなくわかっている。
赤也くんは私のことが好きじゃないから。
私に告白した時、赤也くんは「彼女が欲しいから」と言った。

風に混じって小さい声が聞こえた。
「もっと、木之本の事、大事にすればよかった」
私の方を見もせず、赤也くんは言った。
少しでも、私に感情があったのだと、初めて知って驚いた。
風が煽る髪を耳にかけて、私は言った。
『でも、明日からもう会えないね』
赤也くんが私の言葉に苦しげに顔を歪めた。
私を見つめる大きい瞳が泣きそうだ。後悔したってもう遅い。
『別れようか』
これがたった一つの、私たちを幸せにする答えだ。


逃避行

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