『振られちゃった〜!! 悲しい!!』
「辛かったなぁ、いちか。
今日はとことん付き合ったるから。気晴らししよな」
『ありがとう白石…!!』
今日、3か月付き合った彼から別れを告げられた。もうめっちゃ泣くかと思った。正直今からでも泣きたいくらい悲しい。
メンタルボロボロになった私をみかねて、傷心旅行ならぬ傷心お茶を、白石が提案してくれた。
そういった経緯で、私は今、おしゃれなカフェでお茶をしつつ、話を聞いてもらってる。
白石は仲のいい男友達って感じだ。聞き上手だし面倒見がよくて、つい今回も頼ってしまっている。
『はーー。本当全然気持ちの切り替えが付かない。
今でもまだ、別れたという現実が受け入れられない……。
なんで別れることになっちゃったんだろう?
あの人の運命の人は私じゃなかったのかなぁーー』
「運命の人、な。
ほんまに、好きな人の運命の人が、分かったらええんやけどな」
そういって同調してくれる白石は、本当に優しい。
ため息と共に机の上に伏せた私の頭を、優しく撫でてくれる。
白石の左手は、いつだって優しい。その手に、縋り付いてしまおうか。
なんて、考えてしまいそうになるほどだ。
優しい手がどかないように、そっと少しだけ顔を上げて白石を見てみる。
いつも通り、優しい目で見てくれてるのかな。
私に優しい、白石の表情を見たいと思った。
そんな出来心で顔を上げたら、びっくりした。
白石は驚くほど切なそうな表情をしていたから。
まさか。私の失恋話を聞いて、こんなに悲しそうな顔をするとは。
白石の感情共感力に感心していしまう。
それから、白石にいつまでも、私の悲しさを共感させるのは、申し訳ないと思った。
うん。立ち直ろう。白石に元気になってほしい。
私の目的が、私の元気から白石の元気へ、すり替わった瞬間だ。

『な、なんか白石に話聞いてもらってたらすっきりしてきちゃった!
今度は私が白石の話聞いてあげる。
白石は好きな人とかいないの?』
「え、なんや突然。
まぁ……、おるけど」
『えっ!! 嘘でしょ。聞いてない。聞かせて。
その子に告白はしたの?』
「あー…、や、その、な。
今やないねん」
白石が困ったように笑った。
今じゃない、とは?
「タイミングーゆうもんがあんねん。
例えば、俺がたこ焼きやったとするやろ?
俺がたこ焼き食べてもらいたいなー思うても、食べてもろたい子が、満腹やったら、食うてもらえへんやろ?」
『うーん。わからない。白石はもっと高級食材だと思う』
「なんでやねん。そこ今掘り下げとる場合ちゃうわ。
せやから、タイミングが大事っちゅー話や」
『ナイスツッコミ、流石白石。
でもさ? たこ焼きの気分にさせるって大事じゃない?
待つよりも、早く告白したほうがいいと、私は思う。
失恋すると落ち込むけどさ、恋してる時って、本当に楽しいし幸せなんだよね。
もし両想いになれたら、もっともっと、楽しくて幸せだよ。
私は白石にも、幸せになってほしいなぁ』
幸せな恋を思い出して、思わず笑顔になる私とは対極に、白石は相変わらず煮え切らない表情をしている。
これは、もう一押し必要かな?
『白石さ、もっと自信持ちなよ!
白石って優しいしかっこいいし、絶対大丈夫だよ!』
「ほんまに、いちかが、そう思うとる?」
ちょっと心配そうに上目遣いで、白石が私を見る。うわっ顔がいい。
私は大きく頷いて、答える。
『私はもちろん、世の中の女子もみんな、白石はかっこいいって思ってるよ。
絶対。私が保証する』
「……さよか。おーきに。ちょっと自信出てきたわ。
いちかのおかげやな。
いちかはほんまにいつも、笑顔が可愛くて明るくて、一緒にいるとめっちゃ元気になるわ。
いつもおおきに」
『あはは、いえいえ。私こそ、褒めてくれてありがとう。
っていうか白石、私を褒めてもダメじゃん。意味ないよ。
そういうことは好きな子に言わないと』
「いーや。意味ならある。
俺が好きなんは、いちかなんやから」
『……え!?』
白石がとろけそうな笑顔で、好きな人の名前として私の名前を挙げたから、もうびっくりして言葉が出なかった。
私? 私なの!? 
笑って茶化すべきなのか、どうすればいいのか全く分からない。
でも、この白石の優しい笑みは。
冗談とか、では、ない……、気がする。
「失恋に付け込むようで、男らしゅうないって思うとったけど。
いちかのおかげで目ぇ覚めたわ。
俺がいちかを、幸せにさしたる」
『え、えぇー…!!』
「あはは、いちか。自分顔真っ赤やで?」
自分、ほんま可愛えな、と白石が笑う。
甘い甘い、白石の笑みに、本当にもうどうしたらいいかわからなくなる。
混乱の中、一つの可能性がふわりと頭に浮かんだ。
……もしかして、運命の人は意外と近くにいたのかも?


もしも、赤い糸が見えたなら。

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -