気がつくとベッドの上だった。部屋の中は薄暗く、カーテンの向こうももう暗くて、今日は一日中寝て過ごしちゃったんだなんて思った。それよりも、確かめなくちゃいけないことがある。ノボリは生きてるのかどうかを。あの生きてるノボリは本物じゃないかもしれない。
上半身を起こして気だるさにびっくりした。これは、立ち上がるのなんてもってのほかなんじゃない? 諦めて布団に寝っころがる。ぐるる、とお腹が鳴ってぼくは朝から何も食べてないことを思い出した。ノボリの手料理食べたい……。ヒカリの作ったもの、ぼくのことを思って作ってくれたと思うと美味しいんだけど。技術面とか栄養バランスとか色々、ノボリのほうが上手だったんだ。あ、泣きそう。もそりと布団に戻ると、控えめなノックの音が聞こえた。「クダリ、起きていますか?」ノックと似た、恐る恐るな声色の、ノボリの声。
「起きてるよ、本物だったら入ってきて」
布団の中から返事をすると、ドアが開いてノボリが入ってきた。
「あなたの好きな卵粥を持ってきました。食べられますか?」
「食べる……」
ノボリのたまご粥! ぼくの大好物!
上半身を起こしてお椀とスプーンを受け取った。卵と出汁醤油の美味しそうな匂いを思いっきり吸って、安心した。いつものノボリのご飯だ。いただきますと一言呟いてから、おかゆを口に含む。うん、美味しい!
「クダリ、申し訳ありませんでした」
「え?」
「わたくしが家出をする前に、喧嘩をしたでしょう。その事をずっと謝ろうと思ってたのです」
そんなことあったっけ? ぼくはスプーンを咥えたまま首をひねる。熱もあったし混乱しているのでしょう、とノボリは説明してくれた。

まずノボリは死んでいなくて、家出をしていたこと。原因はぼくとノボリが、ヒカリのことで喧嘩したから。ヒカリのことでといっても、ヒカリを取り合ったというより、ノボリはヒカリをぼくの彼女として認めない、みたいなことを言うから、ぼくの好きにさせてよ!ということで、手も足も出る喧嘩をしたらしい。「あとで脇腹を見てみるといいです、きっとわたくしの蹴った跡があるはずですから」なんて淡々というノボリの背中にも、痣があるんじゃないかということを、ぼくは段々と思い出してきた。

そういえばノボリが家出から帰ってきたのは、ぼくの様子がおかしいからとヒカリが連絡を取ってくれたかららしい。実際ノボリは死んでなかったし、全部ぼくの勘違いで色々な不運が重なっただけらしい。
「ヒカリには迷惑かけちゃったなぁ」
「全くですよ。少し落ち込んでました。どうしてわたくしがフォローしなきゃならないのです」
予想外の言葉に、ぼくはちょっと驚いてノボリをみた。あれだけ反対していただけあって、ノボリはバツの悪そうな顔をしている。
「ノボリ、フォローしてくれたの?」
「あなたの異変に気がついて、わたくしに連絡してくれたのですよ。それがなければ今頃どうなっていたことか。彼女はいい働きと言えるでしょう」
「じゃあヒカリのこと認めてくれるの?」
「……そうせざるを得ないでしょう」
言葉と顔が全然合ってない。ノボリって、たまに全然素直じゃないところある! なんだかそれが凄く懐かしくて、ぼくは久しぶりに笑った。 
「ふふっ、よかった! ぼく、ノボリもヒカリも大好き! 二人に仲良くしてほしいな」
「……えぇ、わたくしの大好きな弟がそう願うなら、仕方ないですね。
さぁ、早く体を治して一緒にマルチバトルを楽しみましょう、サブウェイマスター」



後日談、というか今回のオチ。

あの後ノボリと入れ替わりで、ヒカリが部屋に入ってきた。疑ったことを謝ろうかと思って顔を見たら、ヒカリは泣き腫らした顔をしていたからびっくりした。『ちゃんとノボリさんとも仲良くするから、私のこと嫌いにならないでください』って。本当ヒカリは可愛過ぎでしょ。抱きしめて謝ってから、ぼくの勘違いを話したら『それもアリですね』なんて真顔で言うから、それはちょっと叱っておいた。
こっちの勘違いで思い出したくない痴態を晒したわけだが、二人は体調不良のせいだろう、と気にしないでくれるらしい。いい兄と恋人を持ったものだ。サブウェイマスターはこれからも二両編成だし、ヒカリのことも大事な恋人として愛していこうと思う。





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