ジリリリ。騒がしい音でぼくは目を覚ました。ベットから出る。とてもしんどい。悪い夢を見た気がする。あれは、夢?
少しの望みをかけて、ぼくはふらふらとノボリの部屋に向かった。手の甲でドアを叩いてから呼びかける。「ノボリ、いる?」返事はない。鍵もかかっている。そうだ、昨日ヒカリが鍵を閉めて持って行ったんだ。
リビングに入るといつもはノボリが開けるはずの窓が閉まっていて、部屋には昨日の生温かい空気が詰まっていた。これからぼくは、どうなってしまうんだろう。

いつもと同じようにギアステに出勤。ノボリの席はもちろんからっぽだった。ぼーっとノボリのいない席を見ていると、ヒカリがこそっとやってきた。
『ノボリさんは来ませんよ』小さい声だった。わずかに、寂しそうな顔にも見えた。
『なんか、申し訳ありませんね。クダリさん』
えへへと弱々しくヒカリが笑って『慣れるまでの辛抱です、頑張りましょう』とぼくの背中を軽く叩いて去っていった。
な、なにそれ……? ぼくは冷たい汗がコートの中の背中を伝うのを感じて、震えた。ヒカリ、やけに普通すぎない?
どうかしてるよ、君!

ノボリが居ない。この非常時なのにギアステはいつもと変わらない。こんなの、おかしくない?
でもぼく、ヒカリのことも好き。ヒカリはぼくの彼女。だから、ヒカリのこと守りたいと思う。でも、死んじゃったノボリはどうなるの? あっどうしよう、お弁当食べてる途中だったんだ。一気に食欲なくなっちゃった。
せめて、今のノボリの不在が、どんな扱いになってるのか知りたい。ぼくは暇そうなカズマサを、ちょっと、と呼んだ。
「どうしたんですかボス、食欲ないみたいですね」
「ねね、今ノボリって、どうしてるかな」
キョトンとした後、心配なんですね、とカズマサが笑った。なんの含みもない≪兄弟を心配するぼく≫を見る表情。
「ノボリさん、今はちょっと旅行に行ってるみたいですよ。クダリさん聞いてなかったんですか?」
どきっとする。ぼくが聞いてないなんて、おかしいよね。
「ううん、知ってたよ! でもちょっと心配」
「ノボリさんだって子供じゃないんですから、大丈夫ですよ」
大丈夫じゃないよ、だって、だって、あんなに血を流して冷たくなって。
そんな言葉を飲み込んで、そうだよねとぼくは笑った。カズマサは何も知らない顔で笑って去っていった。
旅行に行ってることになってるんだ……。その間にヒカリはどうするつもりなんだろう。ノボリの、死体を。
ぼくは食べかけのサンドイッチを眺めた。たまごサンド、ハムレタスサンド、それからカツサンド。カツもお肉だよね。ぼくは食欲がなくなるどころか気分が悪くなってきちゃったから、サンドイッチを箱ごと捨てて、腕を枕にしてゆるく目を閉じた。嫌な夢なら早く覚めてほしいよ。

『クダリさんクダリさん、今日の夕飯は私が作ってみました。クダリさん、私の手料理好きですよね? 私知ってるんですから。
今日の献立は豆腐ハンバーグ、胸肉の照り焼き、唐揚げ、ピーマンの肉詰め、紅茶豚です!
えへへ、張り切っちゃいました。クダリさん、いっぱい食べてくださいね?』




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