異種と人間の娘 1


彼女を初めて目にしたとき、DIOのような妖艶さを持っていると感じた。吸い寄せられるような、不思議な甘さに眼が離せなくなる。それでも制服を身に纏い承太郎の隣を歩く姿はごく普通の高校生だ。彼女は承太郎の姉か妹だろうかと思った頃もあったが、ジョースターさんの娘だと聞いてひどく驚かされたものだ。

スタンド能力は傷の治癒、それだけだと彼女は笑う。彼女はスタンドの手を傷にかざして治癒を行った。
仲間たちは何度も彼女の治療を受けている。僕の額の肉の芽による傷も彼女が治したのだという。軽い症状なら病気すら治せるらしい。
そういえば、彼女が傷を負った姿を見たことがない。その都度治癒しているのだろうか。

鉱物に化けるスタンドとの戦いの後のことだった。治療の際になまえが初めて顔を曇らせた。首をかしげて名前を呼べば、はっとして治療を再開する。治癒に時間がかかっているようだ。以前なら跡形もなく治っていたのに、今回はうっすらと傷痕が残っていた。


水のスタンド使いに不意を狙われた。目前まで迫った水の爪に、隣にいたなまえが動いた。僕を突き飛ばし、代わりになまえが傷を負ってしまったのだ。
なまえの白い首筋から鮮血が舞った。なまえの身体が地面に落ちた。なまえが僕をかばったのは誰の目にも明らかだ。細長い二本の傷はぱくりと口を開けて、血を吐き出していた。
倒れたなまえは気を失っていたが、すぐに傷が塞がり始めた。血が止まったことに安堵する。しかし、なまえのスタンドは出ていない。スタンドが治癒を行っていないのに、なまえの傷は完全に塞がり、傷跡だけが残った。

流れた血の量から、傷は深かっただろうと推測された。そうでなくとも、傷が塞がっても流れ出た血の量が多いことに変わりない。もともと肌は白いが、今は青白くなっている。目を醒まさないなまえを病院へ運んだ。
僕はなまえが目を醒ますまで、あるいはDIOの館が見つかるまで病院に残ることにした。いつなまえが目を醒ますかわからない。しかし、いつまでもここにいるわけにはいかない。だから、遅くともDIOの館が見つかるまでと期限をつくった。
当然、ジョースターさんたちには先に行ってもらった。今はただでさえ時間がないとわかっている。ジョースターさんの娘であり、承太郎の母親であり、そしてなまえの姉妹であるホリィさんの残り時間はこうしている間にも着々と迫ってきている。
なまえが気を失っている間、どんな刺客が襲ってくるかわからない。なまえは僕のせいで怪我を負った。なまえの傍に残るなら、僕がするべきだと思った。しかし僕が残るのはその義務感からだけではなかった。
溢れ出た血を目にしたとき、なまえの命も流れていくように見えた。閉じた目が、二度と開かれないんじゃないかと感じた。それは大事な仲間だからという理由ではない。なまえを失うのが怖い。なまえが愛しい。もはやその感情に蓋をするべきではないのだ。なまえがいくら治癒が出来ようとも、これから先、誰がいつ死んでしまうかわからない。
なまえが死んでしまったら、僕は一生後悔する。



「花京院……?」
「なまえ!」

なまえはたっぷり一週間眠り続けて、ようやく目を醒ました。血色も戻ったようで安堵した。しかし、なまえが眠っている間ずっと考えていたことがある。

「どうして僕を庇ったりしたんだ。一歩間違えれば、君が……死んでいたかもしれないのに」

苦しげにそう言って、なまえの手を握った。真っ白な手の血色は戻っていたのに、なまえの手は冷たかった。

「……花京院、鏡、どこにある?」

質問には答えずになまえは僕を見つめた。僕はなにも言わず、以前なまえにあげた手鏡を渡した。
傷の塞がった箇所に包帯は巻かれていない。なまえは首筋に残った傷痕を鏡で見て、あぁと息を吐いた。

「どうして、なんて……」
「君が傷つくところをこれ以上見たくないんだ。もし、なまえが死んでしまったら……そう思うと胸が苦しくなる」
「……それこそ、『どうして』だわ、花京院」
「それは、……僕が、君のことが好きだから」
「……え?」
「僕は、なまえが好きなんだ」

確かめるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。なまえは僕の目を見据えたまま固まっていた。
 

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