願わくば 4


やはりスタンドが原因かもしれないので、ジョセフには伝えておいた。
勿論、今朝開かれた扉のことである。
ニューヨークにいるジョセフと通話をしながら、関わらないと言ったことをぼんやりと思い出す。
何もなければそれでいい。そう言うと納得のいかない声色で、この扉についてわかったことがあれば伝えてくれと言われた。


「いやぁぁぁっ!!――――」

突然、静寂を切り裂いた声は紛れもなく今朝聴いた女のもの。
手にした受話器を放り投げ、クローゼットを開ける。ジョセフが名を呼ぶ声が背中にかかったが振り向かない。扉を隠すように掛けていた衣服を横に退ける手間さえもどかしい。

すぐに扉を開けると広がった光景は、散らかった、と形容するにはあまりにも荒れたものだった。
向こう側のクローゼットは開け放してあり、部屋の様子が承太郎の目に直接飛び込んでくる。

太陽が沈み始めて薄暗い部屋の中、その背中だけが浮いて見えた。
ゆらり、と近付いていっても気付かない男は部屋の住民の腕を掴まえて体をまさぐっており、恋人同士の情事で無いことは明らかだ。
押さえ付けられて恐怖と混乱と侮蔑が渦巻く瞳から滴が溢れたのを見た瞬間、


考えるよりも先に体が動いた。
気がつけば男は部屋の隅に飛ばされていて、握った拳の感覚から自分が殴ったのだと理解する。
拳を降ろし女に向き直る。
大丈夫かと言おうとして、乱れた服の裾を押さえぽろぽろと涙を流している姿が目に入る。どう見ても大丈夫じゃあない。

一瞬迷った結果、無事か、と喉から絞り出した。
途端にさらに嗚咽を漏らした姿に、頭を撫でようとして伸ばした手が止まる。
男に襲われた直後の女性の扱い方など、承太郎は心得ていなかった。今、男に触れられたら余計に混乱するのではないか、触れていいものかと迷い小さく手が揺れた。

しかし伸ばされた手にすがるようにして、彼女は承太郎の胸にしがみついてきた。
自分のものより小さく軽い背中に手を添えると、安心したように声をあげて泣き出した。

その体の震えを感じ、承太郎は確信する。
それは、悲惨な光景を目にした罪悪感でも助けた責任感からくるものでもなかった。

ただ、俺はこいつを守りたいのだ、と。

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