short 証拠隠滅に抜かりあり


夢を見ていた。
体の上には花京院がいて、肌はぴたりと密着している。
目を伏せている花京院の表情は、辛そうにも、悩ましげにも、何故だか恍惚としているようにも見えた。
私はというと、思考がふわふわとしていて定まらない。目なんかほとんど閉じている状態で、花京院からはきっと眠っているようにも見えるだろう。
あー、うん。胸、いいかも。
夢だからか、一つのことに集中できない。フィルターがかかっているような、見えた感じた情報が全て入ってきてくれない。下のほうは苦しいし、花京院の身体と共にぐらぐらと揺れてよく分からない。
けれど、なんだか気持ちがいいことはわかる。
ぼんやり考えているうちにも、花京院の顔が近付いてきた。
あ、キスだ。ゼロ距離になった彼にならい、私も瞼を落とし、受け入れた。
こんなのも、悪くないかもしれない。
重く感じる腕を動かして、花京院の背へまわした。



「おはよう、花京院」
「あ、ああ。おはよう、なまえ」
くあぁ、と大きなあくびをしながら朝食の席につく。少しばかりぎごちない挨拶に首をかしげる。
ちらり、花京院の耳を見る。ああやっぱり。
「花京院、ピアス無くしてたでしょう? 私の荷物にまぎれてたのかも。部屋に落ちてたんだよ」
手のひらにのせられた赤いピアスに、みるみるうちに花京院の血の気が引いていった。
 

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