午後八時前のメール
彼女とは幼なじみで、家が隣、親同士が親友で。私達は小さい頃からずっと一緒でした。
保育園も、幼稚園も、小中学校も、そして高校も。同じところに通うと約束を交わしたので、大学も一緒でした。授業もほとんど同じだったので、毎日インターホンを鳴らして肩を並べて歩けるという幸せがそこにはありました。
――出会ってからもう二十年を迎えようとしている。
お互いに好意があるはずなのに、いわゆる「友達以上・恋人未満」の関係だった。「想いを伝えて、この関係を崩したくない」という気持ちの方が大きくて、なかなか前に進めない。この上なくもどかしかった。
休日、私はある現場を目撃してしまった。
隣町で、咲弥が見ず知らずの男と親しげに話しているところを。ふんわりと笑みを浮かべている咲弥がいたところを。
その時からでしょうか。私の中の何かが音を立てて切れたのです。
月曜日の夕方、咲弥にメールを入れました。『今日の20時、空いていますか? 久しぶりに夜の散歩なんてどうでしょう』と。すると、数分後には『20時に玄関で待ち合わせね』と返信が来た。
「待った?」
「いいえ、さっき出てきたばかりです」
「よかった。じゃ、散歩に行こうー!」
「はい……行きましょう。ですが、もう真っ暗なので手を繋ぎましょう。危ないですから」
「う、うん」
咲弥といる時が本当に幸せだった。辛いこと、苦しいことがあっても、彼女の笑顔を見ればそれが吹き飛んで行ってしまう。
手放したくはない。
私とずっと、ずっと一緒でしょう?
それなのに、休日に見たあれは何です? 貴女を狙う魔の手が差しかかっていた。
私から奪おうとするあの男は誰なのです?
許しませんよ……私の、このささやかな幸せを奪う奴は、決して――。
狙われる貴女もです。万が一のことが起きたらどうするのですか?
何故、あの男になんか従うのです。私の許可なく従うのです……?
卑しい念が体内で渦を巻いた。
嗚呼、元には戻れそうにありません。
「どうしたの、六郎?」
汚らわしい名を、愛らしい音色で呼ぶ。
繋ぐ手を離さないで握る咲弥は、うわの空でいる私の顔を覗き込み心配そうにしていた。
「え、ええ。どうもしませんよ。ただの考え事です」
「ふーん。考え事かぁ……」
「私だって考え事くらいしますよ」
「そっかぁ。私でよければ相談に乗るよ!」
相変わらず、優しいですね貴女は。
ですが、そうはいかないのです。相談などできるはずもないでしょう。
――こんなにも好きなのに、どうして分かってくれないのかって。
「大丈夫ですよ。今日は行きたいところがあるので、着いてきてください」
「はーい」
これでいい。これで……。言わずとも、後で全てが分かりますから。
この場では上手くはぐらかし、私は彼女の手を引いてあるところへと連れて行った。
その「あるところ」というのは、独特な雰囲気を醸し出している建物で。
「あ、あのさ、六郎。ここって」
「はい、そうです。誰にも邪魔されることなく、ゆっくり話したいので……」
「うーん。六郎がそういうなら」
私を一切怪しむことはないのですね。ここは恋人たちが愛し合うホテルだというのに。
★選択★⇒
私のことを信頼しているから?⇒
下心なんてないと思っているから?⇒
むしろ、貴女にそのような気持ちがあるから?[12/03/13]
乙女ゲー風にしてみました。
R18手前のモノが二つ(甘めと狂愛)、ノーマルエンドです。
[終]