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 美形三人組の逆襲


 しまった――。
 あの美形三人組に捕まってしまった。
 髪がツンツン・性格も少しばかりツンツンだけど本当は優しいお兄さんと、クールビューティーでいつもは内気なのにこういうときだけ攻めになるお兄さんと、こういうのに全く興味がなさそうなのにこの中では一番に目を輝かせているお兄さんに。



 時はお昼頃に遡る。


 私は真田幸村さまにお仕えする者のうちの一人。日中は鍛練をしたり、休息時には時々甘味処に行ったりするごく普通の女子だ。
 そんな今日は雲一つもない晴天日より。
 こんな日は何をしよう。もう決まっている――

「お昼寝に限る!」 

 もちろん、少しの間だけだけど。
 だって、ぽかぽかと暖かい陽気は動物も人間も眠りの世界へと導いて行ってしまうものなのだ。
 でも自室で寝るのはもったいない。ここ、上田城の一番のいい昼寝場所と言ったら私的には自室の近くの縁側だもの。さあ、行こうか。
 外との隔たりである障子をあけ、外に出ると何とも心地が良いものだった。

「あ、あれは……」 

 ほら、お昼寝の常連さんが早速ここで寝ている。その常連さんの後ろ側には、何とも珍しい人達も一緒だった。
 三人並んで仲良くお昼寝している。
 あの三人が一緒に、なんてなんということだ。
 美形三人組、絵になるくらい綺麗すぎる。
 かわいい恰好をさせたい、なんて言ってもさせてくれない。でも、寝ている今のうちならちょこっとだけでも出来る。
 ごめんなさい。
 いじらせてください。
 いじった後に幸村さまをお呼びしてから、ちゃんと元通りにしますから。
 さて、幸村さまをお呼びしなければ。

「ゆ、ゆき……っ」

 いや、だ、だめだ。そんなことをしていたらこの人たちが起きてしまう。何て言ったって有能な忍と小姓だ。ここは手際よくやって私が見納めて、報告するだけでも――。
 
「美形三人組さん、覚悟ー!」

 小声で呟き意気込んだ私は胸元からお化粧道具やらを取出し、三対一の静かなる戦いに挑んだのだった。


 よしっ、これで、私と幸村さまの願いが一つ叶う!

 そう思っていたのに。
 筆を手に取り、まずは一番近くですやすやお昼寝中の才蔵の唇を色付けようとした時――。

「おい、何やってんだ?」

 あ。閉じられているはずの彼の目と焦点が合った。

「はっ、はいぃっ!」

 びっくりして間抜けな声が出てしまう。
 そんな私とは対照的に、目の前の男はにやりと笑っている。
 これは、まずい状況だ。人間の本能、というやつが危険信号を出している。真っ赤に点滅して、もう耐えきれなくなって壊れそうなくらいに。
 その中、奥側の影がもぞもぞ動き、姿を現す。

「我、寝てない。咲弥、危険……」
「若に言われて、私たちを着飾ろうとしていたようですね……覚悟はできていますか?」

 もう、だめだ。こうなったら、逃げるが勝ちだ! 

「おいっ! ま、待て、逃げんな!」

 伸びてくる才蔵の手を何とか振り切り、脱兎のごとくその場から逃げたもののあの人たちに敵うはずもなく――。



「い、痛っ!」

 数十歩先の自室でお縄となってしまった。
 ツンツンなお兄さんには腕を捕まれ、攻めモードになったお兄さんには足を押さえられ、クールビューティーなお兄さんにはまだ何もされてはいないけれど、これからされるってことはわかる。

「咲弥、わかってんだろうな?」
「え……? な、なな何にを?」
「とぼけんな。てめぇが悪いんだからな。さっき、俺達に何をしたか覚えてるよなぁ?」
「あ、えっと……それは、その……ごめんなさい」

 普段よりも低い声で言い、私を真上から見下ろす才蔵。
 その表情は、にやりと笑うよりももっと進化した笑み。

「我、咲弥に、仕返しする」

 普段よりも積極的・攻撃的な瞳で、私の足元を押さえつけて下から見上げる佐助。 
 その表情は、腹を空かした動物が獲物を見つけた時のよろこびのような笑み。
 
「咲弥、準備はいいですか?」

 普段よりも、いや、普段以上に冷静沈着な感じを出しつつも、私の横に座って自分の手先をうねうねとほぐしている六郎。
 その表情は、いい大人が面白い玩具を手に入れた時のような至極の笑み。
 もしかして、こ、これは……。

「ちょっ、待って!」
「待ったは使えませんよ」
「本当にごめんなさい、もうしませんから!」
「はぁ? 同じ言葉を何回聞いたと思ってんだよ! もう我慢ならねぇ。なぁ、佐助」
「……諾」
「いやっ! さ、佐助! って、いつの間に縄で足しばってるのよ。しかも、杭まで……。ちょっと佐助! うわっ、ろ、六郎っ!」

 ひやり。
 横腹に冷たい感触がした。その方向を見やると、私の着物をはだけさせて中に手を入れる六郎の姿が。

「いつまで無駄口をたたいているのです? お仕置きです」


 その後、上田城内に私の叫び声と笑い声が響き渡ったことは言うまでもない。

[12/02/23]
三人にいじられたい。続きが書けそう……。

[終]



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