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 君の嫌いなところ十個


 よーく聞けよ、咲弥。俺はお前の嫌いなところ十個言えらぁ。
(そこは普通好きなところ十個だろ、なんて言うなよな)


 まずは、お前は“ワガママで生意気”だ。どーしようもねえ位だ。
 朝っぱらから「散歩行こう」だの、「鍛練しよう」だのうるせえんだよ。俺は寝てるんだ。日も出ていない時間に起こしに来るんじゃねえ。
 ったく、真昼間に来りゃいいものを。
 んで、夜になるとアイツはまた性懲りもなく来るんだ。「お菓子食べない?」だの「夜の散歩行こう」って。ちったぁ俺のことも考えろってんだ。
 バカだろ、アイツ。
 俺が行かねえって一言言っただけで「才蔵のいじわる」って幼子のようにすねる。ひでえ時なんか、「才蔵のばかー!」って泣き叫びながら廊下を走って行くんだ。アンタ、伊佐那海より性質悪イ。
 仕方ねえから、たまには付き合ってあげるんだけどな。その時のアイツの顔がたまらなくまぶしいくらいの笑顔だから。
 だが、「ありがとう」って素直には言わねえ。「才蔵あ、ありが……と――私と付き合えてありがたく思いなさいよね」だとさ。
 は? ふざけんな。
 ――ありがとう、と言葉になかなか出せないってわかってるから許しちまう俺って甘いよな。
 ホント、アイツはワガママで生意気だ。

 こんなアイツだから、“すっかり俺を変えてしまった”んだ。
 ほっとけねえっつうか……そういう感情が湧いてくるんだよ。
 俺は忍なんだが。
 この責任はちゃんと取ってもらうからな。

 ま、咲弥はいわゆるツンデレ属性なんだが“無自覚で無防備なところ”もあったりする。
 お前誘ってんのか? ってぐらいに。
 いくらなんでも、太ももやら胸元が見えそうで見えねえギリギリなのを着て夜中に俺の部屋に来るって、ねえだろ?
 心臓に悪いからやめてくれ。「才蔵に気を許してるの」って言われてもなあ……。

 そろそろ俺ももう限界だったから、「この無自覚で無防備なバカ」って忠告しておいてやったってのに「才蔵なんか嫌い。この女たらし&男たらしー!」だとさ。“この言い方はないだろう”

 そしたら、三日後の夜中には普通の格好で来た。
 なら問題はねえ。が……“俺の夜から睡眠を奪う”のはやめろ。
 俺のことが好きなのはよーくわかっている。ちゃんとわかってるから……頼むから、同じ布団に入ってこないでくれ。しかも、べったり抱き着いて胸まで押しつけてこないでくれ。
 やばいから、マジで。
 せめて、自分の布団を持ってこい。一緒に寝てもいいから。布団と布団ならひっつけていいから。な?
 これじゃあ、ツンデレなのかデレデレなのかわかんねえだろ――。

 こんなお前は、“弱さを俺に見せようとしない”んだ。
 夜中に俺の部屋にやってくるのが日課になっていたが、ある日、来なかった。
 気になって気になってどうしようもなかったからアイツのところに行ってみると、すすり泣くアイツとそれを慰める伊佐那海がいた。
 大丈夫だよ。才蔵が好きなのは……、とアイツの背をさする伊佐那海。怖い、怖いのと同じ言葉を繰り返すアイツ。それを、俺は襖の隙間から覗いてたいたんだ。
 バカだろ、咲弥。俺に直接聞きゃいいのに。
 俺はお前しか見てねえってのに。

 その後の夜は俺がひどく落ち込んだ。すると、お前が屋根で昼寝してる俺の目の前にひょっこり現れて「どうしたの?」と問いかけてくる。
 あぁ、あんなに昨日の夜はああだったってーのに、“そのくせ人の痛みに敏感なんだ”よな。
 なんでもねえよ。
 ただそういうことしかできなかった。
 言えるわけねえだろ。お前のことばかり考えて、苦しいって。

 だから、もう、しらっと言ってやった。「咲弥は俺のことが好きなんだろ?」ってな。
 あ、予想通りの反応しやがった。顔も真っ赤、耳も真っ赤だ。頭のてっぺんからそのうち湯気が出てきそうだ。
 ほら、言い返してみろよ。「好きで悪い?!」って。
 俺は「いいや。悪くねえ」って返してやる。 
 シナリオを考えてたのに、こっちは予想が外れた。「だ、誰が……あんたのこと好きだって? あ、ああ、ありえないもん」とさ。
 はぁ……“意地の張りすぎ、カワイクナイ”

 おまけに、「私が好きなのは、さ、さ……才蔵じゃないもん。伊佐那海だもんね!」と言い残し、下に降りて行った。
 あのなぁ、なんで女の名前を出すんだよ。そこは佐助とでも言っとけよ。“優しい嘘すらつけない”のかよ。
 ため息が出るぜ。

 “それだけたくさん、嫌いなのに”


 ――それ以上に、咲弥を愛しく思っちまうんだよ。

[12/03/02]
君の好きなところ十個の逆バージョンです。やっぱり管理人は独白が好き。

[終]



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