君の好きなところ十個
私は、貴女に対しての恋というものを覚えました。
それを証拠に、あなたの好きなところを十は言えますよ。
大好物のくずもちを頬張っておいしそうに食べる貴女は、「六郎、コレおいしい!」と黄な粉を口のまわりにつけて微笑む。
大好物ではなくとも、私が注ぐただのお茶にも「六郎の淹れるお茶は最高! おかわり!」と。私の買ってきたただのお菓子にもおいしいおいしいと言うのです。
その度に胸が高まります。
本当に、“笑うと世界一可愛い”のです。
そんな貴女が私と出会ったのは幼かった頃。
若が一人ぼっちで途方に暮れていた貴女を拾い、城に連れてきた。あったかい場所へ連れてこられて安心したのか泣きわめき、私はそっと抱きしめた。不思議と、目の前の小さな貴女の姿が、心細かった私の日々と重なったのです。
「あまり泣かないでください。綺麗な瞳が真っ赤になってしまいますよ」
自然と語りかけるような優しい声が出て自分でも驚くものの、些細なことはどうでもよくなって貴女を慰め続けたのです。
それは、今でも変わらず、悲しいことや不安なことがあると真っ先に私のもとへ訪ね、腕の中へとおさまって泣くのです。
“出会った頃から変わらない”ですね。
そして、貴女は“他人のために本気になれる”のです。
道行く人に尋ねられると放ってはおけず、一緒になって行先を探します。たまに自分までも迷子になってしまうのですが、それはそれでかわいらしい話ですね。
貴女が迷子になっても、私が必ず捜し出すので心配には及びませんが。
ですが、私の心が痛むので、あまり迷子にならないでくださいね、咲弥。
このような方には“初めて会った”ようなものですよ。国中を探しても、貴女みたいな方はいないでしょう。貴女という“人柄”が素敵なのです。
されど、貴女は“落ち込む姿とその理由”をあまり教えてはくれませんよね。
素直な人なのに、このことだけは素直ではありません。
何故でしょう。
私には言えないことなのでしょうか。
と疑問符を浮かべつつも、皆目見当は付きます。
それは、私に関することなのです。
私がお香のにおいをさせて帰ってくると必ず貴女は落ち込みます。私が座敷遊びに一人で行ったのだと思い込んでいるからか、と。貴女がいるのに、私があのようなところに一人で行くはずはないのに(若に連れられて仕方なく行っているのです)。
ふふっ。かわいいですね。ヤキモチ、ですね。
そういうところも好きですよ。
貴女の“その顔、その声、その仕草”に私は囚われているのです。
さすがの貴女も油断くらいはします。
“油断した頃に見せる意外性”が案外好きです。
背後からゆっくり近づいて脅かすと、「ひやぁっ!」などとすっとんきょんな声を出すのです。あれが何とも愛らしい。
またいじめてみたくなってしまうのです。
油断、の次に“器用なくせに不器用なところ”もありますね。
料理をてきぱきとし終えたかと思えば、味噌汁をつぐ入れ物に麦飯を入れるのですから。
微笑ましいです。
咲弥という人は、時に性格の悪い部分を見せます。
寝ている私の部屋に忍び込んでは、「髪さらさら〜」と鼻歌付きで髪をもてあそんでそのままの状態で帰るのです。
私が知らないとでも思いましたか?
けれども、“性格の悪さも魅力の一つ”ということですね。
されて嫌ではないのですから。
これが貴女なのですから。
“そんな「君らしい」ところ”が大好きですよ、咲弥。
[12/03/01]
六郎の独白です。こういう夢も私的には好きです。
[終]