純愛リライアンス
僕にとっての存在というのは
誰かに求めてもらえることであり、誰かに自分を見つけられてもらえることだった。
もしそうで無ければ自分の存在は無くなったも同然でいつかは皆から忘れられてしまう。
それが僕にとっての「存在」の意味だった。
とか何とかかっこつけたことを言ってみても、僕はその「存在の証」が無いに等しかった。
通常の人より何倍も影が薄くて何しても何されても気付かれない。
そのお陰で今の僕のバスケが確立できたと言えばそうだけれど、
それがとても悲しくてちっぽけなものだと思い始めたのはいつだろう。
…ああ、きっとあの日だ。
僕を認めてくれて、初めて僕を見つけてくれた仲間に、
捨てられた日。
あの時僕は存在価値を改めて失った。
誰も僕を見つけてくれなくて
誰もが僕を忘れ、
疎遠した仲間にさえも見つけてもらえなくなって、
僕は自分の存在の薄さにさえ呆れた。
誰にも見つけてもらえない感覚は
そう、ゲームでたまに出てくる何もない部屋に閉じ込められたようだった。
暗くて冷たくて光も何も差し込まない部屋。
誰もが見つけられることができない秘密でとっても孤独な部屋。
いや、もしかしたら部屋というより牢屋に近いのかもしれない。
息苦しくて、生きた心地のしないような。
海に沈んでいくようにどんどんと息がつまる世界。
冷たくなっていく世界。
ごぽごぽと酸素が薄れゆくそんな世界から
僕をすくいだしてくれたのは
君だった。
「みつけた、テッちゃん」
ああそんな君の笑顔が眩しい。
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「てーっちゃん、テッちゃんてば起きてー」
「…ん、」
気づいた時には夢の息苦しさから解放されて、高尾くんに揺り起こされていた。
ぱちりと瞼を押し上げてみれば高尾くんが苦笑しながら「おはよ」とさりげないキスを送ってくれた。
「…もしかして僕寝てましたか」
「うん。熟睡してた」
てかこんな街中で寝られるなんてテッちゃん凄すぎ、
そうケラケラと笑う高尾くんの言葉を聞いて、はたと回りを見回してみる。
道行く人々。街中の喧騒。行き交う車の騒音。
よくよく思えばいくらベンチだと言っても、どうしてこんな騒音だらけの街中で寝られたのか自分でも不思議だ。
「というか高尾くん、よく僕を見つけられましたね」
そうふとした疑問を彼にぶつければ、高尾くんは「んー」と唸りながら
僕の座っているベンチに腰を下ろした。
「別にそんな探したわけじゃないんだよなーただ普通に見つかっちゃっただけでさ」
そう肩を竦めて笑う高尾くんの言葉にどこか新鮮味を感じて「へぇ、」と思わず感嘆の声を漏らした。
高尾くんには他の人にない鷹の目というのがあって、360度どこでも見渡せるという異質な能力を持っている。
僕を見つけられるのはその能力のおかげだ。
「てかさ、俺分かんないんだよね」
「何がですか?」
「…みんながテッちゃんを見つけられないことがさ」
そう呟くように言った高尾くんに「それは鷹の目があるからじゃないんですか?」と言うと、「そうじゃないだよなそれがー」と楽しそうに僕の指をいじりながら言った。
「実はさ、テッちゃん探すとき俺あんま鷹の目使ってねーんだよなー。何でだろ」
「え?そうなんですか?」
「おう。なのに何でテッちゃん見つけられるんだろうな」
そんな彼の言葉に僕は目を丸くした。
今まで「何で黒子を見つけられないんだ」という輩は何人といたけれど
「どうして見つけられるのか」と不思議に思う人は一人といなかった。
彼自身もよく分からないのか再び「んー」と悩ましく唸る。
そして数秒後、唐突に何かを思い付いたように「あ!」と声をあげた。
「もしかして、俺はテッちゃんを探すために在るのかもね!」
そう僕の手を握りしめながら言葉を発した高尾くんは心底楽しそうに声を弾ませて僕を見つめた。
初めはまったく意味が分からなくて頭の中が疑問符だらけだったけれど
ニコニコと笑顔をばらまく高尾くんにつられるように僕も頬を緩めた。
「じゃあ僕は高尾くんに探されるために在るんですね」
僕達はお互いにとって必要不可欠な存在ですね
そう口元を綻ばせて言えば、彼も一瞬静止したのち
だな、と言って笑った。
「じゃあ俺たちずっと一緒にいなきゃ駄目じゃん」
「ふふ、確かにそうですね」
「だったらテッちゃん、ずっと俺の傍にいてよ?」
「はい。その代わり高尾くんも僕をいつでも見つけてくださいね」
「任せてよテッちゃん!」
そう親指をたてて高尾くんが微笑むと僕もそれと同じように微笑んでみる。
それから高尾くんに抱き締められて
口付けられてふいに思う。
(ようやく孤独から解放された、)
それが僕にとってはとても幸せなことに思えて
俺の家行こう、と僕の手を引く高尾くんの背中に、すがるように抱きついた。
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短くするつもりがこの長さに…
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