魔王様のご提案




「テツヤ」

そうあの時から僕たちバスケ部メンバーにとって嫌な予感しかしていなかった。
けれど我らが赤司征十郎基赤司様の、
目に写らぬどす黒いオーラを前に、僕たちは前に出ることなど出来るわけがなかった。

そう、それはある昼下がりのこと。


「僕と結婚しよう」


そんな魔王様の言葉に一軍メンバーは一斉にスポーツドリンクを吹き出した。





「……え?」
「結婚しよう、テツヤ」
「…あ、赤司くん…それはどういう冗談で…」
「テツヤ、お前は冗談が苦手だろう?冗談なんかじゃないよ。本気だ」


にっこりと爽やかな笑みを浮かべる赤司くんとは相反して僕の顔はきっと焦りや動揺、困惑が入り交じった複雑なものだったと思う。
だってあの赤司くんが。我らが魔王が。

笑ってるんですから。

赤司くん以外の一軍メンバーは大きく目を見開いてつつけば倒れてしまう、と形容しても過言ではないほどに固まっている。
唐突に求婚された僕も、こんな冷静に実況できる心境なわけがなくて
この世の終わりを間のあたりにしたような気分で、赤司くんを真っ直ぐ見つめた。


「あ、赤司くんしっかりしてください。僕は男で君も…」
「男だよ?」
「…だ、だったら何で」
「何でって…。テツヤが好きだから、それじゃダメなのか?」
「……え、えーっと…」

僕の手を握りながら尚も詰めよってくる赤司くんの目は至って真剣で視線を青峰くんたちに移す。
と、途端に僕から目をそらし
あたかも気づいていないかのようにシュート練習を始めるキセキたち。

くそ、覚えてろコノヤロウ。


「…赤司くん。結婚するも何も僕たち付き合ってませんよね?」
「そうだね、付き合ってないけどそれがどうかした?」
「…」

まったくもってイエスという答えしか待たない赤司くんにはあ、とため息をつく。
赤司くんは知っているのだろうか。
世の中では、結婚する前に交際をするということを。

そう相も変わらずニコニコと僕の手をとる赤司くんを見て僕は一人項垂れた。
彼の考えは前々から吹っ飛んでいる、と思ったけれどここまで常識が無い人だとは思わなかった。


「…僕は、君のプロポーズを受けとることはできません」
「……」
「僕は君を大切なチームメイトだと思ってますし、大事な友達です。だけど」


それ以上には見られません。
そう呟くように彼に伝えれば、呆れたように深いため息をつくと、いつもより少し低く何かを含んだ声で「テツヤ」と呼ばれた。

「…はい」
「お前はきっと、友達などのこと以前に男同士では愛は生まれないと思っているんだろう」
「……う、」

赤司くんのピンポイントをついた言葉に息詰まった声を出すと、小さな声で「…はい」と呟けば目の前の彼はやっぱりな、と嘲笑うように言った。

「いいかテツヤ。…確かに世の中では異性交際というのが常識だが、同性同士で愛しあえないとは限らない。実際にほら、僕だってテツヤの事を愛してる」

そうにこりと微笑んで言う赤司くんの言葉に自分の頬が紅潮するのがよく分かる。
その火照った頬に低体温な赤司くんの掌がひやりと当てられれば
冷点がじわりと刺激されて快い感覚に捕らわれる。

目の前の彼は「出来ればしたくなかったんだけど」と言葉を漏らすと僕の顔と自分の顔の距離を詰めた。



「…僕と結婚しろ、テツヤ。これは命令だ」



そう不敵に笑って僕に口付ける赤司くんが不覚にもかっこよく見えて
「…はい」と躊躇いながらも頷いた。


その後「じゃあまずは邪魔者を消さないとね」とキセキたちに鋏を向けたとき
未来の夫(仮)を僕が全力で止めにいくのはまだ遠くない未来。











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初めは第三者視点にしようと思ったんですけど
見事撃沈




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