嫉妬と恋は紙一重





「なあーテツー」

「……」

「テツってば」

「……」

「おいテツ」

「……」

「おいテツこのやろう」

「……」


いまだに俺の言葉を空気かのように無視し続けるテツに、
らしくもなくむぅ、と膨れてみせる。

きっとテツには気持ち悪いですよ、なんて毒を吐かれるんだろうけど俺を無視し続けるテツが悪い、そう言ってみる。


久しぶりのデート。しかも俺の家だっていうのにテツは本に夢中で
片時だって本から目を離さない。

俺がテレビ見てたってゲームやってたりしても話しかけてもテツはガン無視。


俺が黙っててもテツは本を読むことをやめず、ただ視線を上から下へと辿らせるだけで
静かな空間の中に、紙と指が擦れる音だけが響く。

おいテツこのやろう、そんな意味不明な単語がびっしり敷き詰められただけの紙見て楽しいか?
俺といちゃつくより楽しいのかよ。


そう心の中でテツに言ってみるけどもちろん聞こえるわけはなくて
テツは自分と本だけの世界を造り上げていく。

(……そういや、こう見るとテツって儚げなんだな…)

そうテツの横顔を見ながらふと思う。


今言われて見れば紫原の「守ってあげたくなる感じ」というのは何となく理解できる気がした。
見た目は儚げで気弱そうだけど性格は誰よりも男前。

でも体力とか力は皆無といっていいほど無い。だからいつも不良に絡まれているところを俺が助けにいってあげてるんだけど。


(……あれ、もしかして俺すっげーテツに感謝されるべきじゃね?)


思えばそうだ。

テツがバスケ部を続けようと思えたのも俺のおかげだし、テツが一軍に入れたのも俺と練習したおかげだ。
しかも俺っていう光が無ければテツはパスを活かせてないし、強くなれていない。


「え、俺って感謝されるべきじゃん」
そんな自画自賛的な勘違いを一人で展開させて一人でそれを膨らませる。

テツは俺がいなかったらあんなバスケ、出来てなかったんだよ

最終的にはそんな勘違いまで至って、ふとテツの方に視線を傾けてみる。


(…まだ読書かよ…)

もちろんそれをやめているはず、なんて思いはしなかったけれど
俺の淡い期待は粉々に打ち砕かれた。

本なんてただの紙切れなのに俺よりそっちの方がいいのかよ、
そんな苛立ちがふつふつと沸き上がって衝動的にテツね本を奪い去っていた。


テツが珍しく眉間にしわを寄せて俺を見上げる。


「…ちょっと、何するんですか青峰くん」

「何するんですかじゃねーよテツ、本ばっか読んでないで俺の相手もしろよ」

「…嫌です。青峰くんだんだんボディタッチが激しくなってくるんですもん」

「何だよ、恋人だろーが。……俺がどんな気持ちでいたと思ってんだよ」


苛立ちをぶつけるように本を乱雑に机に置くとテツがその言葉に不意を突かれたように「え?」と首を傾げた。


「…もしかして青峰くんずっと嫉妬してたんですか?…この本に?」

「……。…………悪いかよ紙の束に嫉妬して」


テツが好きなんだからしょうがねーだろ
そう呟きながら縮こまるようにテツに抱きつく。

テツはそんな俺に驚いたのか分からないけれど、一瞬身をびくつかせた後
子供を扱うように優しく頭を撫でてきた。


…おい俺はガキじゃねーぞテツ。


そう内心毒づきながらも優しく撫でてくるテツの手が心地よくて静かに身を任せてみると
テツは呆れたように一度ため息をついた。


「…バカですね青峰くんは」

「…なんだよバカっておい」

「……君が本より下なわけがないでしょう」


テツはそう言って肩を揺らしながらくすくすと笑うと
肩に回されている俺の手をそのままに、自分の手を俺の背に回した。



「君は僕の中じゃ好きとか、そんな領域じゃないんですよ」



そう言って抱き締める力を強くしたテツに不覚にも、というより改めて?
惚れ直した俺は
テツの頭を抱え込むように抱いて「好きだ」と呟いた。

それにテツはいつもより少しだけ優しい声で少しだけ優しい顔つきで
「そんなの知ってますよ」と笑って返した。













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つまり二人は愛し合ってるぜ!みたいな




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