好きならば応援しましょう




「おい高尾、てめえほどほどにしろっつったろ」
「…何がッスか?宮地先輩」

胸ぐらを掴んでロッカーに押し付ける俺に挑発的な視線を向ける高尾は
さも言っていることが分からないというようにとぼけて見せる。

ああ、ムカつく。

何でもかんでも逃げようとするところが。ムカつく。俺が手に入れたかったものを持っているくせに。


疲れたようにため息をつく高尾のそれが気に入らなくて、胸ぐらを掴んだ手を一度こちらに引き寄せると
ぎゅうと握りしめた拳を、そのにくったらしい顔面に強く叩きつけた。

骨を人の肉にぶつける感覚はやっぱり好きになれなくて、噛み締めるように口角をひきつらせる。

唐突に殴られた高尾は力なくゆらゆらと立ち上がると怒鳴るでもなく上目で俺を睨み付ける。
はん、それが先輩に対する態度かよ高尾
拳を広げてぷらぷらと揺らしながら言えば高尾は小さく舌を打った。

高尾は俺を一瞥するように視線を向けて、再び俯かせると「宮地先輩には関係ねーッスよ」と行き場のない怒りをこめるように部室のゴミ箱を蹴りあげた。


「…関係なくねーよ」
「……は…?」
「いつまでも嫉妬してくれるだとか何とか言ってんなタラシ男」

顔をしかめるように目を細めて高尾を見やれば、
高尾は自分がやったことと俺が以前言ったことを思い出したのか、表情を微かに歪めて視線を落とした。

「…緑間が、どんな気持ちで今のお前を見てるか分かってんのか」
「……」
「自分と付き合ってるっつーのに女遊びは絶えねー、なのに自分には好き好きって。そりゃあいつも疲れるわ」
「……緑間、が言ってたんスか」

ああ、と頷けば高尾は苦い顔をした。
俗にいうなれば苦虫を噛み潰した、みたいな。


正直高尾はモテるんだと思う。

部活の休憩に呼び出されるなんてざらにあるし、告白されてる場面を見ることなんて意外と珍しくなかったりする。
それでもあいつは緑間が好きで、毎日毎日リヤカーで送迎したりさりげなく好きだなんて言ってみたり。

意外と尽くすタイプなんだなと少し感心した。

でも意中だった相手と付き合いはじめてから高尾は変わった。
緑間が係やら委員会絡みでクラスメイトと話を交わせば相手に圧力をかけて緑間が自分のことしか見られないようにするようになって。

結果的、毎日緑間の隣には高尾がいて、きっと緑間は高尾のことしか見られなくなっていたんだと思う。


そんな緑間と高尾の様子がおかしくなったのはついこの間。

いつもなら部活に一緒に来る二人がまるで示しあわせたかの様に別々にやってきた。
先に来た緑間はいつも通りの様に見えたが、ぼんやりとどこか一点を見つめて
俺の怒声にも反応を返さずただただやることをこなすだけだった。


「お前、緑間とどうしたんだよ」


その後女と体育館前で談笑していた高尾を呼び出して軽く問い詰めれば
高尾はへらりと笑ってどうもしないッスよ?と首を傾げた。

あの女は遊びッスよ。真ちゃんと別れたつもりもない。第一あんな女が真ちゃんに敵うわけないし俺は真ちゃんが大好きだし。
ほら、やっぱり男同士だと真ちゃんがほんとに俺のこと好きなのかなーなんて心配になるでしょ?だからそれの確認ッスよ。
俺が女とイチャイチャしてて真ちゃん嫉妬するかなーみたいな。

息継ぎもなしに饒舌な高尾はそういって見せると真ちゃんどうでした?
なんて目を輝かせて俺につめよった。


俺が緑間の様子がおかしかったことのすべてを話せば高尾は満足そうに歯を見せて微笑んだ。

良かった、真ちゃん嫉妬してくれたんだ。なんて高尾が満足してるうちは、まだよかった。
高尾もそのあと緑間にごめんね、あれ遊びだからって謝れば緑間もホッとしたような表情で頷いた。
「ほどほどにしろよ」
そう高尾に声をかければ
「大丈夫ッスよ宮地先輩!」
そう答えが返ってくるまでは良かった。


俺が今高尾を呼び出し、押し付けて殴って説教するのはそれの何日か後になったころだった。

「宮地先輩」

そう俺を呼んだ緑間は、いつもの無愛想でもなくって真剣な表情でもなくて、
例えるなら、そう。


「…もう、疲れました」


何かに絶望したようなそれで。

緑間は俺が事情を知っているのを踏まえた上でそう言ってきた。
そして何か諦めたように目を細めて弱々しく言葉を溢した。


そして冒頭に遡り、今に至る。

高尾が、ただ羨ましかった。
緑間を手に入れられて、触れられて、
俺にはできない表情をさせるのが。

(緑間には俺じゃダメなんだよ)

緑間は俺じゃなくて、誰でもない高尾がいないとダメだ。
好きだと言っても俺にしとけと言っても、いつもの俺じゃ言わないことを言ってみても
緑間はすみません、すみませんと申し訳なさそうに目を伏せるだけで
いつでも心そのものは高尾にあった。


なのに、俺にないものをもってるのに、
緑間を弄ぶような高尾が嫌だった。

いくら緑間の気持ちが不安だからって緑間が何も知らず切ない表情をするところは見てられなかった。
試合中は誰よりも諦めが悪くて誰よりも強い、緑間の弱いところを。


「…高尾、」
「……何スか」
「……俺さ、好きなんだよ」
「…なにが、ッスか?」
「…緑間が。お前みたいな意味で緑間が好きなんだよ」
「……えっ」

包み隠さずはっきりと言えば高尾は表情を驚愕に染める。

俺は人に好きな人を言う主義ではないからそう聞いて驚くことはおかしいことではないと思う。
加えその事を唯一無二知っているのは好意を寄せる相手の緑間だけというのが何ともおかしい話だ。


「…お前、好きなんだろ。緑間のこと」
「……はい、」
「ま、俺の方が好きだと思うけど」
「…っ俺の方が好きッスよ!」
「……へぇ、」
「……」

高尾の強い視線を一身に受けてやっぱりこいつは緑間のことが好きなのだと思う。
そんな高尾を一瞥するとふと窓に視線をずらす。

何メートルだろう、少し離れた木の木陰にエメラルドの髪が風に揺れる。

揺れるそれの隙間から覗いた横顔は何か思い詰めていて、
視線を元に戻すと今だ視線を注ぐ高尾を蹴り飛ばした。


「ったー!いきなり何するんスか宮地先輩!」
「うっせーいいからさっさと緑間んとこ言ってこい。そんでもって仲直りしてこい」
「…べ、別にケンカなんか」
「あーうるせーうるせー。それ以上言ったら轢くぞお前」
「……」
「……早く行けよ」

緑間が壊れちまう。
付け足して言えば高尾は何も言わないまま勢いよく立ち上がった。
そして俺に頭を下げる。

「あざっス。宮地先輩」
「やめろ。早く行ってこっぴどくフラれてこい」
「ひどっ!フラれる前提ッスか!?」
「お前がフラれたら緑間は俺が貰うから」
「ダメッス!」

うう、でもフラれたらどうしよう。俺ひどいことしたし、嫌われてたら死んじゃう…
一人泣き顔になる高尾に呆れて肩を突き飛ばすように押した。

そこの木陰にいる、と指で指して言えば高尾はただはい、と呟いてもう一度俺に頭を下げた。
(お前が羨ましい)
そんな言葉は聞こえてないはずだ。

(…俺に手に入れられなかったものを持ってる)


俺はただ緑間が好きだった。

言ってることは意味不明だし偏屈だし、何よりも変人だし。
でもたまに見せる笑ってるわけではないけど柔らかくなる表情がただ好きで。

アプローチはしてたつもりだ。
ただ単に高尾の方が緑間にとって大きい存在だったわけで。

俺は今でも緑間が好きだ。
あいつが幸せだったら形はどーでもいい。
あいつが幸せになるんだったら俺はそれを応援するだけだ。


高尾は頭を深く下げた後ダッシュで部室を飛び出していく。

それから木陰の緑間のとこに行って、何回も頭下げて緑間に平手打ち喰らって説教されてそれから抱き締めあってそれから。

そこまできて俺は窓に背を向けた。
何だか気恥ずかしくなったんだ。だってあんな生意気な後輩のために俺はキレて殴って説教して。


「俺に献身的とか似合わねーからやめろっつーの」


ふてくされたように呟くと、
そうだ後で轢いてしまえ。なんて思って二人がうまくいくことを願いながらも自らの鬱憤はらしのために木村がいるであろう体育館に歩いていった。









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高緑←宮とか何それ誰得?
すみません私得です。
SSSにするつもりがseriesさながらのこの長さ、一体何が。






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