涙は涙でもそれはきっと、





どうして、どうしてできないんだ。

そう、情けない自分を不甲斐なく思う。


(…僕には、パスしかないのに)

そんな考えが脳裏を横切る度に、瞳からは雨粒のような涙が止めどなく溢れだす。

その透き通った涙は膝にかけたタオルにパタリパタリとこぼれ落ちていって、
白くふわふわだったタオルはすっかり重くなった。


みんなの優しい言葉はもっと僕を辛くさせた。

そう例えるなら深い海の底へ突き落とされるような。
深く、暗い底へ。


主将にも火神くんにも先輩たちにも「大丈夫だ」なんていってもらえたけれどそれが更に胸の息苦しさを煽った。

「ありがとうございます」
そう言って笑ったつもりだったけれど、僕はうまく笑えてただろうか。


(どうしましょう、涙が止まりません)


自分の失敗や先輩たちの言葉を思い出す度に涙は頬をずっと伝っていく。

拭っても拭ってもそれは止まることを知らず、
強く擦った目元はヒリヒリと鈍い痛みを訴えていた。

こんな顔じゃ練習に戻れない、そう思って自分の心が落ち着くまでここで泣いてようとタオルで目元を押さえ、下を俯いた瞬間、
いきなり肩口を柔らかいものに押さえつけられた。


「くーろこ」

「っ!?」

「すまんすまん驚いたか?」


いつもお前に驚かされてる仕返しだ、
そう頬をだらしなく歪めて笑うのは無冠の五将と呼ばれた木吉先輩で
先輩は僕の頭を一度ぽん、と叩くと僕の座っていたベンチの隣に腰かけた。


「…いきなりどうしたんですか」

「どうしたって…何が?」

「…今までコートで練習してたのに僕に話しかけてきたので…」

「あーそういうことか」


僕が極力泣いてることを悟られないように横目で木吉先輩を見やると
んー、と唸りにも近い声をあげながら宙をねめまわすと僕の顔で視線をとめ、笑った。


「何でだろうな?」

「………何でだろうなって…」

「んーよく分からんが単にお前が追い詰められてたような顔してたからかな」


そうへらり、とだらしなく笑って木吉先輩は僕の顔を無理矢理自分の方に向けて、
目元を痛めないようにか優しく拭った。

(…木吉先輩にはお見通しだったんですね)

木吉先輩はいつもそうだった。


僕が悩んでいたり、困っていたり、はたまた嬉しかったりすれば
誰よりも早くそれを理解してくれる。

だからこそ今回もすぐバレるんじゃないか、なんて薄々思っていたりした。


木吉先輩は自分の綺麗なタオルで僕の顔を撫でるように再び拭わせると
「俺もさ、」と唐突に口を開いた。


「黒子みたいな壁にぶち当たった時期があったんだよな」

「…木吉先輩も、壁に?」

「ああ。自分のスタイルが確立できなくて、自分には何が出来るかも分からなくてみんなに迷惑ばっかかけてた」

「…本当、今の僕みたいですね」


そう今までのように涙をこぼすことなくクスリと笑えば、木吉先輩もそれにつられたように笑って「だろ?」と首を傾げた。

「でもさ、やっぱりそういうとき仲間が必要なんだなーって思ったんだよ」

「日向先輩…とかですか?」

「そうだな。もちろんリコだってそうだし伊月とかコガも。みんなのお蔭で今の俺があるんだ」


そう言うと木吉先輩は誇らしげに胸を叩いてはにかむように微笑んだ。

その笑顔を一言で形容するなら、そう太陽がぴったりだと一人納得する。


みんなに平等に優しくて、平等に暖かい。
明るくて一緒にいて悲しむことのない人。

気がつけば、止めどなく溢れていた涙は止まっていた。


「……じゃあ僕もみんなを頼っていいってことですか?」

「ああ。もちろんだ」

「甘えても、いいんでしょう?」

「当たり前だろ!」


先輩がそうはにかみながら腕を広げて言うものだから、それに負けたように僕も木吉先輩の腕の中にすっぽりと身を収まらせる。

倒れ込むようにしてもたれかかったその体は、誰よりも大きくて暖かくてどこか安心した。


気づけば再び瞳からぽろぽろと何かがこぼれ落ちていて、制御がきかず流れ出すそれの感覚を僕は知らなかった。

まるで、初めて経験するような。

木吉先輩はベンチに落ちた僕の雫を指で掬いとると、どこか落ち着きのない顔つきで僕を見つめた。


「ど、どうした黒子。…まだ何か辛いのか?」

「…い、いえそういうわけじゃないんですけど…。何だかいきなり…」


僕は、はたと固まりそこまで言ってああ、これは。と唐突に理解した。

「…嬉し涙です。嬉しいんです、僕。…嬉しいんです」


そう呟くように言って、木吉先輩の背中に腕を回し握りしめるように抱き締めて言えば
木吉先輩も「そうか」とへにゃりとだらしない表情で笑った。


「そうか。黒子は、嬉しいのか」

「……?木吉先輩、何で泣いてるんですか?」

「…え?マジで?俺泣いてるのか?」

「はい。泣いてます」


そう頷いて、先ほど先輩がやってみせたように木吉先輩の頬をつたる涙を指で掬いとって見せれば
ほんとだ、と言って笑った。


「きっとこれも嬉し涙だ」

「…嬉し涙?」

「ああ。黒子が笑ってくれることが、何より嬉しい」


そう言って涙を拭うと僕をぎゅう、と更に強く抱き締めた。

凄く苦しくて、初めの涙を流しているような息苦しさを感じたけれど、
そう感じられるほど先輩の愛を受けられてる、と思うと嬉しくなった。



「僕も、僕も嬉しいです。木吉先輩にこうして抱き締められてることが」


そう木吉先輩と視線を交わえると、二人同じように涙を流しながら笑った。











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初の木黒です…!
あるサイト様に触発されました







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