30日CPチャレンジ | ナノ
八日目【ショッピング】

「あ、おれコンビニ寄ってくから」
「おー、じゃあな」
「うん」
というやり取りをして一度は研磨と別れた鉄朗であるが、数秒置いてからなんとなく踵を返した。薄暗いなかをひとりで帰るのがいやだとか研磨がひとりで買い物をできるのか心配だとかそんな女々しい理由ではなく、鉄朗にしか検知できない少々ご機嫌な様子がひっかかったのである。

「いらっしゃいませ〜」
明るい店員の声に迎えられて店内を見まわせば、研磨はちょうど、チケットの発券や諸々の料金の支払いなどにつかう端末の操作を終えたところだった。
「帰ってなかったの」
鉄朗を見とめた研磨が、長いレシートを片手に言う。鉄朗はなんと返したものか分からず、「ちょっと用事思い出した」と言ってお茶を濁した。
レジに向かう研磨を見送り、こぢんまりした店内を一周しても特にほしいものはない。それでも、「用事を思い出した」と言ってしまった手前なにも買わないのも変かなあ、とうろうろしていると、レジ前のケースに並んだ、湯気をたてるホットスナックのたぐいが目に入る。部活帰りである。腹にそっと手を当ててみれば、ぐうと間抜けな音がした。

そうして鉄朗が会計を終えても、研磨はもう一台のレジの前で携帯を弄っていた。カウンターを挟んだ向こうに店員の姿はない。
「なにやってんの」
「…荷物、届いたの、引き取り」
「ああ、なるほど」
ほどなくしてバックヤードから小さめの段ボール箱を持った店員があらわれると、ちいさな液晶画面からようやく顔を上げた研磨の目が一瞬だけ輝いたように思われた。
鉄朗は心の中でちいさく舌打ちした。予想通り、箱の中身はゲームソフトだろう。
研磨の愛するそれを、鉄朗は内心憎々しく思っている。もちろんそれを表に出しはしないし、わくわく顔の研磨を見るのは幸せでもあるのだけど、ものによっては結構な期間、邪魔者扱いを受けるのだ。「邪魔しないで」と言われればもっと邪魔したくなるし、鬱陶しい鉄朗に機嫌を悪くする研磨を見るとゲームに打ち勝ったような気がして満足する。
鉄朗は研磨にとってただの幼馴染だし、ゲームばっかりしてないでもっと俺に構え! なんてこどものようなことを言うような齢でもないのは分かっている。分かっているけど。
とひとり悶々とする鉄朗を尻目に、研磨はレジの店員に言った。
「…あと、肉まん、ふたつください」

店から出るなり、研磨は店の前に置かれたベンチに腰をおろした。荷物の整理でもするのかと立ったままそれを見下ろす鉄朗に、研磨はじとっとした目を向ける。
「なにしてんの」
「…なにしてんのって?」
「いっこあげる」
研磨がさし示したのは、たった今買ったばかりの肉まんだった。涙のにじむ想いで腰かける鉄朗には構わず、研磨はさっそく自分のぶんを手に取っている。
「あ、ちょっと待った」
「ん?」
「俺のもやるよ。ピザまん」
鉄朗がかかげたビニールのなかには、おなじくたった今買ったばかりのピザまんがふたつ入っている。
「…これ、用事のやつなんじゃないの?」
「あー、用事はなくなったからいいの」
「ふーん」

研磨はいったいどういう気持ちで肉まんをふたつ買ったのだろうか。もしかして研磨も…などと都合のいいことばかり考えながら、鉄朗はほんのり甘い肉まんをちまちまかじっていく。隣に座る研磨も、ほこほこのピザまんを黙って咀嚼している。鉄朗が「うめーな」と呟けば、「うん」と返ってくる。
立ちのぼる湯気と、ちいさく口を動かす研磨の横顔が鉄朗の胸を満たしていく。切れかけてチカチカする街灯も、行き交う車のヘッドライトも、いつもよりずっときらきらして見えた。
研磨の膝の上に大事そうに乗せられている段ボール箱はやはり面白くないけど、今はまあいいか、と思えた鉄朗であった。


2015/11/08

何日かあとに「この前肉まんおごったんだからゲームの邪魔しないで」ってそっけなく言われて、あれはそういう意味だったのか!?と撃沈する
でもその実、(あなたに構いたいのはやまやまですが)というのが省略されているだけなのでどうかがんばってほしい


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