30日CPチャレンジ | ナノ
五日目【キスをする】

「誕生日おめでとう」
研磨の家の玄関前。別れるまえに俺がそう言うと、研磨はふいと目をそらして「ありがと」と答えた。照れくさそうに黒髪を弄っているのが死ぬほど可愛い。しかし、俺が「やるよ」と差し出したプレゼントの包みは、なぜだか受け取ろうとしない。
「プレゼントなんだから受け取れよ」
研磨は左右に首を振る。
「いい。…いらない」
「なんだよ、別に金取ろうって言ってんじゃ、」
少しむっとした俺を見て、研磨はなにか言いながら抱き着いてきた。やわらかい女子のにおいが鼻腔に広がり、ちっちゃい…否、かわいいおっぱいがぎゅっと当たる。
「け、研磨、どうした急に」
「…がいい」
研磨は俺にしがみついたまま答える。だけど声が小さくてうまく聞き取れない。
「え? なんて?」
「ちゅーが、いい…」
頬をピンクにしてこちらを上目遣いで見る研磨に、そんなもんなんぼでもくれてやるわ!という気持ちになった。だけど、もう一声ほしい。
「もっかい言って。聞こえなかった」
「いじわる…」
そう言いつつも俺にまわされた腕はゆるむことがなくて、むしろ甘えるみたいに擦りついてくる。猫みたいでめちゃくちゃかわいい髪がくしゃってなっててかわいい死ぬ。
「…して、クロ。ちゅうして」
「――ッ!!」ちゅうって! ちゅうってアンタ!!
息を飲み、壊れそうな肩をつかんで身体を離した。フンフンと鼻息を荒くする俺を、研磨は白い頬を桃色に染めて見上げている。長いまつ毛で飾られた大きな瞳は期待と少しの不安とで揺れていた。大丈夫、優しくするからな…!
まずは深呼吸をひとつ。背中を丸め、ゆっくり顔を近付けていく。研磨はしばらく視線をさ迷わせていたが、ようやく覚悟ができたと見えてまぶたをそっと閉じ、少しだけ首をもたげた。どこからともなく「キーッス! キーッス!」と囃し立てる声が聞こえる。鉄朗、いっきまーす。
あとちょっとで唇が触れる! と薄くまぶたを閉じたときだった。
「ちょっとクロ、なにやってんの」
バン! とドアの開く音とともに、苛立った声がした。
「へっ!?」
俺を「クロ」と呼ぶのは研磨しかいないはずだ。つぶらな瞳をぱちぱちさせながら、開け放された玄関を見やる。そこにいたのはなんと、まさかの研磨だった。
しかし玄関前で不機嫌オーラを全開にしているのは、今俺がキスをしようとしていた研磨とは違う。どう見ても男だし、そんで金髪だし。顔は研磨だけど正直あんまりかわいくない。
「お前、研磨…?」
「そうだよ」
「男…?」
「はあ? 何言ってんの? おれ男じゃん」
んー、そう言われてみればそんな気がしなかったでもない。
「まあなんでもいいけど、今俺はこっちの研磨とよろしくやってんの」
俺の返答に苛立つ金髪の研磨を見て、かわいい黒髪の研磨が「あの人こわ〜い」としがみついてくる。かわいい。おっぱいちっちゃいけど。
それでも、「もう知らない」とふてくされられるとどうしても構いたくなってしまう。
「いじけんなって」
「べつに、いじけてない」
「ほら、こいよ」
おびえてふるふるする黒髪研磨を右手でやさしく抱いてやり、左手は金髪のほうに差し出した。金髪は眉を寄せながらもすすすと近付いてきて、すっぽり俺の胸におさまる。俺よりは小さいけど男だからごつごつしてるし、おっぱいもない。それでも俺を見上げる猫みたいな顔はちょっとだけかわいいかもしれない。
「プリン」「貞子」「…ブス」「同じ顔じゃん」と小声で言い合う二人をぎゅっと抱きしめた。多少ひっかかるところはあるが、両手に華である。もうこうなったら、どちらも大事にしてやる。そう思いながら、俺は二人分のねこっ毛に鼻を埋めた。

「クロ、遅刻するよ」
その声でがばりと身を起こすと、ベッドの脇に立った研磨が不機嫌そうに俺を見下ろしていた。金髪の、男の研磨だ。
「そうか、男か…」
俺は先までの甘酸っぱい出来事が夢だったことを知り、ふうとため息を吐いた。
「寝ぼけてんの? はやく起きなよ。おれより遅いってやばいよ」
「ああ、うん…」
ひとつ年下で俺のことを大好きなかわいい幼馴染なんて架空の生き物、妖怪みたいなものだ。この世に存在するはずがない。いないからフィクションとして方々で描かれる訳で。と考えながら枕もとのデジタル時計を見て、俺はあることに気が付いた。
「あ、そうだ」
「なに?」
今日は、十月十六日。
「研磨、誕生日おめでとう」
「ありがと」
面倒くさそうに研磨は答える。
そうして少し照れくさそうに金髪を弄るのを見て、俺は架空の生き物―ひとつ年下で俺のことを好きなかわいい幼馴染―の存在を少しだけ信じてやってもいいかもしれない、と思った。


2015/10/17

中外製薬のラジオCMで
「中外」にかけて「ちゅーがいい」って言うのがあって(調べてみたら限られた番組でしか聴けんようでした。分かる方は私と握手してください)それをいつかパk…パロディしたいなあと思っていました。んで、今回のお題がキスとお誂え向きだったので使った次第
こういうちょっと古くさいノリが大好きなのでめーっちゃ楽しかったです


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