30日CPチャレンジ | ナノ
三日目【ゲームをする】

東京は池袋。欲望と魑魅魍魎の跋扈する街を、一人の少年が歩いていた。名は孤爪研磨。池袋に匹敵する大都会・練馬で暮らす男子高校生である。
根元が黒くなった金髪に真っ赤なジャージという、ハイソな池袋をうろつくための出で立ち。背を丸め、牛もモーと憤るペースで歩く。とにかくのろのろ歩く。その右手にはダメ押しのスマートフォン。歩きスマホというやつだ。案の定視界不良に陥り定期的に肩パンを喰らったり喰らわせたりしている。

そんな新旧ハイブリッド型DQNである孤爪少年を人ごみの向こうから見つめる者があった。名も無きティッシュ配りの青年である。彼が配るティッシュは携帯電話会社の広告が挟まれたもので、ターゲットが定められている飲食店のものに比べ、無差別に配ることができる。
ティッシュ配りの仕事は厳しい。生活に役立つアイテムといえど、差し出せば全ての人がもらってくれる訳ではないのだ。幸いノルマはさほど厳しくないが、それでも何人も連続して無視されれば心が折れそうになる。彼には、そんなつらさを乗り切るために時々行うゲームがある。
「今日はあの子にしよう」
青年は目標を孤爪少年に絞ると、彼の辿るであろうルートを予測し、ポケットティッシュの詰まったダンボールから少し離れた位置に移動した。

かくして、金髪プリンの孤爪少年は青年の目の前にやって来た。
「どうぞ〜」と少年の目の前にティッシュを差し出す。
「…」
孤爪少年は手に持ったスマートフォンに目をやったまま軽く会釈をし、そのまま通り過ぎようとした。失敗か? と思われたが否、ここで引き下がるのは素人である。
「どうぞ〜」
少年とともにゆっくり歩き、再びティッシュを差し出す。すると金髪赤ジャージは鬱陶しそうに青年を見た。「勝った」と男は思った。
ふいに、孤爪少年が立ち止まる。そして、「っ…へくしゅ!」と大いなるくしゃみをした。小ぶりな鼻から大量の鼻水が噴き出す。あまりの勢いに大地はぐらりと揺らぎ、爆風が渦巻いた…かのように思われたが、その実、地下鉄の通気口から風がタイミングよく吹き上げただけであった。
青年がにやりと笑み「どうぞ」とティッシュを二つ差し出すと、孤爪少年は小さく頷きながら受け取り、鼻をかみかみ雑踏に吸い込まれていった。

青年の行うゲーム、それは今どきのディスコミュニケーション系DQN少年にティッシュを受け取らせることである。そして彼にはこのゲームにうってつけの特殊な能力がある。目を合わせた相手にくしゃみをさせることができるのだ。効果はおよそ三分。その間、こよりでくすぐられているような感覚がひっきりなしに対象を襲う。
まったく、恐ろしい能力を持ってしまった。しかしあの金髪少年には自分の渡したティッシュがある。きっと足りるだろう。足りてほしい。
人を呪わばティッシュ二つ。青年は心中で唱えながら、元の立ち位置へ戻っていった。


2015/10/10


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