30日CPチャレンジ | ナノ
一日目【手をつなぐ】

小学生の頃、クロはよく手を繋いでくれた。おれが学校に行くのを渋った朝、バレーなんてせずに早く帰りたいと唇をとがらせた放課後、遅くまで遊んで真っ暗になった帰り道。
「研磨歩くのおせーんだもん!」なんて言って。繋ぐというよりはひっぱっているといった方が正しいのかもしれないけれど、クロは「遅い」と言いながらもおれを決して置いてきぼりにはしなかった。

真っ赤なジャージに身を包んだ、部活からの帰り道。歩行者用の信号が赤に変わり、おれたちは歩道の端に立ち止まる。するとクロがなんとなしにおれの指先を両の手のひらできゅっと包んだ。
「つめてーなあ」
高校生になった今、おれがどんなにだらだらしていても、液晶画面を見ながら歩いていても、昔みたいに手をひっぱってくれることはない。だけど時々、冷えやすいおれの手を握って温めてくれることがある。クロの手は昔から大きくて、あたたかい。
「やめてよ、恥ずかしい」
そう言っても、クロは絶対にやめてくれない。部室だろうが往来だろうが、寒くなるとところかまわずおれの手を握ってくる。
「だって、うちの大事なセッターの手だし」
と当たり前のように言い放ち、格好つけた笑みを浮かべてみせるクロに、おれは小さな苛立ちをおぼえた。
「じゃあ、」
「…何?」
「じゃあ、おれがセッターじゃなかったら、しないの?」
途端に手のひらの温度が離れていく。この言葉に他意はなかった。だけど、クロにはおれが意図したのと違う意味で届いてしまったようで、「えっ?」と顔をこわばらせ、「えー」とか「んー」とか言いながら何やら考えだしてしまった。
信号が青に変わり、聞き慣れたメロディーが流れる。そんなに大きな信号ではないから、あっというまに点滅し始める。ちょっと通してくだしゃんせ。おれはクロの手を握ると、早足で横断歩道を渡った。
横断歩道を過ぎてしまっても、クロはずいずい歩くおれにひっぱられていた。
「え、研磨、なにこれ」
「クロが、歩くの遅いから」
意味わかんねえとぼやきつつも決して手を振り払おうとしないところに、おれはまた苛立つ。クロがこんなに鈍感だなんて、思わなかった。


2015/10/01


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