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理科準備室の悪夢


幼少ギムナジウムパラレルです。グロ無理だから本編読めねーわという方向けに設定を簡単に。

 ・黒尾が初等科五年生、研磨が四年生
 ・ふたりは寮の二人部屋で一緒に暮らしてる
 ・研磨は図書室で上級生の話を盗み聞きするのが好き(色んなことを知れるから)

と言いつつ内容はないようという感じなのでゆるっとお楽しみ頂ければ幸いです。

・・・・・・・・


ある、休日のことでした。
図書室の、柔らかい絨毯に腰をおろした研磨は、いつものように近くの上級生の話に、聞き耳を立てていました。彼らは、何組の担任の先生が、別の組の先生と通じているだとか、低俗なうわさ話ばかりを、好んでしていました。研磨が聞きたいのは、本や、音楽や、映画の話です。そういう下品な話には、興味がありません。それでも、そのうちに、自分の好きな話が始まるかも、分かりません。本を読むついで、といったくらいの感じで、聞き流します。時々、研磨には分からない言葉が、飛び交います。しかし、調べればきっと、研磨のこの遊びの楽しさは、半減してしまうでしょう。そういうものは、自分の知識の範囲で、なんとなく意味を推測し、それっきり、おしまいにしてしまいます。

「そうそう、4組の、黒尾」
「ああ、あの背が高い」
「俺は、昔っからあいつのことが、気にくわないんだ」
「へえ…。でも彼は、なかなか気持ちの良いやつじゃないか」
「そう、決して悪い奴じゃない。俺は、そこが面白くないんだ。運動も、勉強もそれなりに出来て、友達が多くて、先生も時々、あいつを頼る。俺はそれが、面白くない」
「僻みってやつだね」
「分かってる。それも分かってる。だけどどうしても、気にくわない」
「きみも難儀だな。ぼくはうわさ話は好きだけど、悪口はきらいだよ」
話題が変わって、上級生の口から出たルームメイトの名に、研磨はどきりとしました。ただのルームメイトではなく、親友です。そしてきっと、好くない話が始まろうとしています。黙って聞くのは、気分の良いことではありません。また、僻みという、卑しい気持ちがあるとはいえ、大好きな鉄朗のことを、悪く言われて、自分のことのように、傷付きました。自分が悪く言われるほうが、まだ良かったかもしれません。
「まあ、聞けよ。俺はこれから、そのうわさ話をするんだからさ」
「ふうん。そう言ってただの悪口だったら、ぼくはもう聞かないからな」
研磨はそっと、その場を立ち去ろうとしました。今日は、本を持って、部屋に帰ろう。そうして、物語の世界に浸っていれば、この厭な気持も、忘れられる。そう思いました。
「うわさ話というよりは、メインは実体験だな。お前、"あの部屋"のこと、知ってるか?」
「あの部屋って…折檻部屋のことかい?」
「そうだ。俺は、黒尾が"あの部屋"に入って行くところを、そしてその中で、行われていたことも、しかと見たんだ」

"あの部屋"というのは、生徒の間で語り継がれる、学校の七不思議のような存在でした。ひとりでに音楽を奏でるピアノとか、踊り出すデッサン人形とか、そういった類の、ただのうわさ話です。
先生の言いつけを守らず、あまり好き勝手にしていると、その部屋へ閉じ込められ、最低でも二日は、出してもらえない。部屋の中では、改心するまで、部屋の主に、ひどい折檻をされる。というものです。
生徒たちが、その話をしていると、先生方は呆れた顔で、くだらない話はやめなさい。と言います。しかし、授業中に騒ぐものを注意するときに、"あの部屋"の話を持ち出して、皆を黙らせることも、ややあります。"あの部屋"とはそういう、一種便利な存在なのです。勿論、半分くらい本気にして、"あの部屋"を探す生徒もいます。この学校は随分と大きく、教室の数も多いですから、あるはずだと思ってしまうのも、子供であれば、仕方のない話です。それでも、実際に、"あの部屋"に入れられたと言う人は、少なくとも、研磨の周りにはいませんでしたし、そもそも誰かが入れられた、という話すらも、聞いたことがありませんでした。
もちろん、「"あの部屋"に、行きたいのですか?」と先生に言われれば、良い気分はしませんが、決して信じている訳では、ありませんでした。それでも、"あの部屋"に限らず、そういう不思議なものが、本当にあったら良いな、と思う気持ちは、持っています。
「"あの部屋"なんて、ただのおどかしだろう」
「まあ、話されてるのとは、ちょっと違うけどな。それでも、本当にあるんだ。うん。ちょうど、去年の今頃だったな――」
研磨はすっかり、その場から、動けなくなってしまいました。

「金曜日の、最後の授業が終わって…それは、理科の授業だった。そして、理科のエヌ先生が、教室から出て行こうとする黒尾を、そっと呼び止めたんだ。俺は、その頃もう既に、あいつが大嫌いだった。だから、叱られればいいなんて思って、心持ちにやにやしながら、横目で様子を窺っていたんだ。黒尾は、あのやけに先生受けのする顔をつくって「なんですか?」なんて言って、俺はそういう小さいことすらも、面白くなかった。そうして、先生は身体をかがめて、黒尾になにか、耳打ちをした。なにを言ったのかは、声が小さくて聞き取れなかった。あいつはただ黙って、頷いていた。その時は、それで終わった。教室に戻って、ホームルームをする間、あいつはなんだか、そわそわ落ち着かない様子だった。あいつはいつも、むかつくくらいしゃんとしてるから、ひどく目立っていた。背丈もあるからな。そうして、ホームルームが終わると、あいつは「用事がある」と言って、取り巻きを振り切って、一人で教室を出て行ったんだ。まったく、こんな学校で、用事もくそも、あったもんじゃない。それでも、取り巻きたちは、それを鵜呑みにして、へらへら笑っていた。俺だけが、様子のおかしさに、気付いていたんだ」
「ふうん。もう前置きはいいから、早く"あの部屋"の話をしてよ」
「うるせえ。話と言うのは、まくらが肝心なんだ。でもまあ、いいや。そうして俺が、黒尾の後をつけて行った、その先が、"あの部屋"だったという訳さ。その中では――」
「待ってくれ、その部屋自体は、どこにあるんだい」
「どこに?…理科室の奥の、理科準備室だよ。主はもちろん、エヌ先生だ」

理科室も、理科準備室も、研磨の大好きな場所です。窓際で、出番を待っている顕微鏡。つつけば心地いい音を立てるビーカー、フラスコ、試験管。整然と並べられた、薬瓶。壁に掲示された、カラフルで、不思議な表。それらが持つ独特のにおいや、暑い時期でも、どこかひんやりとした空気が、研磨は好きでした。理科という科目自体も、大好きです。理屈や数字で、説明のできることばかりなのに、どこかロマンチックで、夢みたいに不思議なことも、たくさんあるからです。研磨は特に、理科の授業を熱心に受けて、時々は、授業の終わった後に、質問をしに行くこともあり、そんな時、エヌ先生は、研磨の拙い言葉にも、とても丁寧に答えてくれました。理科が好き、というのもあるのですが、いつも白衣を着て、物静かで、博識なエヌ先生は、研磨が尊敬する、数少ない先生の一人でした。
準備室には、生徒は入ってはいけない決まりですが、研磨は一度だけ、特別に、入れてもらったことがあります。中には、綺麗な鉱石や、天球儀。ホルマリンに漬けられた生き物や、人体の模型など、珍しいものばかり、置いてありました。それらのひとつひとつを、はしゃいで眺める様子に、エヌ先生も喜んでいたのを、覚えています。
その、理科準備室が"あの部屋"で、エヌ先生が、その主だなんて。そして、その主に折檻されるのが、鉄朗だなんて、にわかに信じがたいことでした。
もう、聞きたくない。早く、部屋に帰りたい。だけど、からだが動かない。耳をふさぐことすらも、できない。上級生は、そんな研磨の事情は、全く知りませんから、ただただ楽しそうに、話を続けます。

「俺は、黒尾の後をつけて、それで理科室の前に行った。黒尾はきわめて用心深く、教室の扉を閉めてしまった。それがまるで泥棒みたいで、あんまりにも不自然だったから、ドアに耳をつけて、中の音を聞いたんだ。そうしたら、教室の中から、ドアの開く音が聞こえて、二、三話す声のした後、今度はドアが閉じる音がした。それっきり、教室はしんと静かになってしまった。だから俺は、あいつが準備室に入ったと、分かったんだ。それでこっそり、教室の扉を開けたのさ」
「ずい分、勇気があるね」
「ああ、俺はあいつが大嫌いだからな!あいつの醜聞が、手に入るのなら、多少のリスクは負ったって、かまわない。そう、それで教室に入ると、やっぱり誰もいなかった。もう放課後だから、教室は薄暗くって、だけど、準備室のドアからは、ランプの光が漏れていた。あいつはどうして、教室のドアはしっかりしめて、準備室のドアは、そうしないのだろう。だけど、準備室をドアの隙間から覗いてみて、その理由が、俺にはすっかり分かった」
「たしかに、どちらもすっかり閉めてしまえばいいのに。そうすれば、きみに醜聞を握られることだって、なかった」
「うん。あいつには、黒尾には、そんな悠長なことをしている余裕が、なかったのさ。俺が中を覗くと、ちょうど、あいつがソファに、突き飛ばされたところだった。もちろん、そうしたのは、エヌ先生だ。良い気味だ。そうして、先生はまず、「悪い子だ」とか「君は本当に、僕の手を煩わせるのが好きだね」とか言いながら、あいつの頬を平手でぶった。一度や二度じゃない。ぱちんぱちんと、乾いた音が何度もした。あいつはそうされても、一切抵抗しなかった。ソファに中途半端にもたれて、「ごめんなさい」と繰り返して、先生の顔を見上げていた。俺は、ぞっとしたね。顔が赤く腫れているのに、うっとりしてるんだから」
「どういうことだよ、折檻されてるんじゃ、なかったのか」
「俺にもよく、分からないんだ」
「はあ…」
「それで、腫れて無様になったあいつの頬を、先生は今度は、やさしく撫でた。あいつは変わらず、「ごめんなさい」と繰り返し、それでいてうっとりしていて、ぶたれたせいで、頭がおかしくなったんだと、俺は思った。ひとしきり撫でて、撫でられて、今度は指示されて、先生のデスクの前に、立たされた。俺はちょうど、二人を真横から見る格好になった。そうして、あいつの後ろに立った先生は、あいつのズボンと下着に手をかけて、足元まで、すっかり下ろしてしまった」
そこまで話して、上級生ははあとため息を吐き、額に手をあてました。
「なんだい、まだそんなに疲れるほど、話してないだろう」
「このことを思い出すと、流石の俺も、くたびれるんだ。ああ…。下が丸出しになったあいつは、至極慣れたように、デスクに両手をついた。「分かるだろう?」と言われて、尻を高く上げた。その情けなさに、ざまみろと思った。クラスの、いや、学年の人気者が、幼稚園児みたいに、尻を丸出しにしている。折檻とはいえ、その羞じらいのなさに、先生もすっかり、呆れているようで、はあ、と大きなため息をひとつ吐いた。もう、分かるだろう。先生は今度は、あいつの頬ではなく、尻を叩き始めたんだ。あいつは、ぶたれるごとに、からだを波打たせて、「一、二…」とその回数を律儀に口に出して、時々、ブレザーをたくし上げて、先生が自分の尻をぶつことに、ずい分協力的だった。先生は「僕がいなければ、君はきっと落第だ」「こんなみっともない所、いなかのお母さんが見たら、どう思うだろうね」と口々に罵りながら、罰を与えた。あいつの色気のない尻は、頬と一緒で、すっかり赤く腫れあがって、まるで猿みたいだった。見ただけで、俺の尻まで、ジンジンと痛むようだった。それでも尚、あいつは尻を叩くことを、罰を、自分から求めた。「先生、まだ、足りないんです」なんて。一体あいつが何をしでかしたのか、それは分からないが、よっぽど大変なことを、やったのだろう。とにかくひたすら、自分に罰を与えるように、頼んでいた。いや、せがんでいた。先生も、初めは一定の間隔で、パンパンと叩き続けていたが、次第に疲れて、ペースが落ちる。当然、威力も落ちる。回数は、細かく覚えていないけれど、100は優に、超えていたよ。そりゃあ、疲れてしまうさ。さすればあいつが「まだだめです。もっとして下さい」とせっつく。それでまたぶつ、徐々に弱まる、せがまれる。先生も、さすがに限界がきたとみえて、デスクの脇から物差しを取った。竹で出来た、長さ30センチの、細いやつだ。今度はその物差しで、尻をぶち始めた。腕を振り回すよりは、幾分か楽だろう。手のひらだって、痛まないし、それに、きっと威力も、物差しの方が強いだろうね。なにせ当たる面積が、ずい分小さくなるから。物差しが振り下ろされるごとに、人の手とは違う、ヒュッと空気を切る音がして、定規が尻にぶつかる時の音も、硬質な、ひどく冷たい、乾いた音だった。黒尾は「しぬ、しんじゃう」と繰り返したけど、変わらずデスクに両手をつけたままだし、ブレザーを時々まくることも、やめなかった。カウントは、どんどん数を増して、赤いだけだった尻は次第に、みみず腫れだらけになってしまった」

「黒尾は一体、何をやったんだろうな」聞き手の彼の顔は、引きつっていました。しかし話し手の彼は、興が乗ってしまったようで、構わず続けます。
「あいつは、先生のデスクをすっかりよだれで汚して、それでも構わず、ぶたれ続けた。先生が「内出血になると、いけない。もう、しない」とぴしゃりと言うまで、バチバチと、ぶたれ続けた。折檻される方が、する方を困らせるなんて、あいつの真っ直ぐさは、どうかしている。もうぶたない、と言われたあいつは、泣き出しそうな、哀しそうな顔をして、先生を見上げた。先生は、肩を揺らして笑っていたけど、その顔は、俺の方からは見えない。「まだ、満足していないようだね」と先生が言った。黒尾は「ぼくはもう、駄目になってしまいました」と返しながら、先生の手を掴み、デスクの下へと、持って行った」
「デスクの下?」
「"あれ"だよ。…そうして先生の腕がデスクの下に行くと、あいつははあと、ため息を吐いた。しかし先生は直ぐに、手を引いてしまった。「どうして…」とあいつが問えば「自分でしなさい」と強めに言われていて、俺も少し、気分が良かった。あいつはなんでも、自分の思い通りになると思っている。どんなものも、あの気の良い顔をすれば、容易く手に入ると思っているんだ。そうして先生は、あいつの背後にしゃがみ込んで、真っ赤に腫れて、みみず腫れの、みっともない尻を、両手で掴んだ。途端にあいつが、猫みたいな声を出す。ひざが、がくがくと震える。先生は気を好くして、尻を優しく触っていった。ぐねぐねと、揉んで、捏ねて、引っ張って、手を離せば、二つの丸い肉は、小さくふるふる揺れて、元に戻る。「これで、満足?」先生の手が離れれば、デスクに乗せた肩だけで、全身を支えているような格好で、あいつはまた、せがむ。「全然、駄目なんです。先生にされないと、ぼくはつらくて、…これだけじゃもう、駄目なんです」「僕は一体、何をすればいいの?」先生の問いに、あいつは少し躊躇って、自分の尻に手を伸ばした。あいつの指先は、ランプの灯を受けて、てらてら光っていた。そうして、二つの丸みが、ゆっくりと左右に、開かれていく。俺からは見えないそこを見て、先生は笑った。「はしたないね」そして、ふっと息を吹きかければ、あいつはまた猫撫で声を出す。本当に、猫みたいに鳴くんだ。背中を震わせて。そうして「でも、ぼくがこうするのは、先生だけです」と涙をひとつだけ、こぼした。先生はまた笑って、丸みの間にゆっくり、舌を伸ばしたんだ。俺は、その時の黒尾の様子を、一生忘れないだろう…」
「いやあ、まったく、ひどい話だね。ぼくには作り話としか、思えない」腕を顔の前で振り、もういい、と身振りで話を止めました。
「いくら俺でも、そこまで卑怯な真似はしないさ。こんな醜聞を、でっち上げようだなんて」
「しかしどうして、それを今更ぼくに話すんだい?機会なんて、幾らでもあっただろう」
「本当なら俺は、この話は一生、胸に秘める気でいたんだ。妄想だと思われたらたまらない。ただ、気が変わったんだ」
「一年経って?」
「いや、俺はお前にというよりは、そこの、チビに聞かせたかったんだ。おい、お前、黒尾のルームメイトだろう」
上級生の目が、愉しそうに、研磨を射抜きました。


研磨は散々な気持ちで、寮へ帰りました。立ち聞きしたのは自分ですが、ずい分厭な話を聞いて、更に盗み聞きを、話していた張本人に指摘され、自分があの上級生と同じように、覗き見などという、浅ましい行いをしているような、猛烈な罪悪感に、苛まれました。こんなことなら、鉄朗の誘いを断らずに、運動場へ遊びに行くべきだった。小さくため息を吐いて、部屋のドアを引きました。
「ああ研磨、おかえり」
「ただいま」
鉄朗は寝台の上に腹ばいになって、寛いでいました。なにやら大判の本を広げて、パンを齧っています。
「クロ、行儀悪いよ」いつものように、何気なく鉄朗の背を叩いて、そうすると、先ほどの上級生の声が、ゆっくり脳裏を、かすめてゆきました。上級生はあの後、研磨に向かって「お前もあいつのこと、ぶってやれよ」とにやけた顔で、言ったのです。それはふざけて言ったことだと、分かっていました。上級生のあの話も、信じている訳ではありません。きっと、研磨をからかい、ついでに、いけ好かない同級生を貶めるための、作り話なのです。そう、信じたい。しかし、下らない嘘であるという証拠は、今のところ、どこにもありません。
研磨は黙って、鉄朗のお尻に、やわらかい手のひらを、振り下ろしました。ふんわりした素材の部屋着で守られたそこは、ぽすんと気の抜けた音を立てるだけです。
「え、なに?」鉄朗が顔だけ上げて、研磨を見ます。その表情には、困惑しかありません。だけど、納得できません。まだ、この行為の意図を、解っていないだけかもしれない。もう一度、腕を振り上げます。二回、三回、と続けてみても、鉄朗はただただ、怪訝な顔をするだけです。
さっき見た・・クロの顔と、ちがう…。エヌ先生に折檻されているときのクロは、もっと――大好きだったエヌ先生の顔が浮かび、寂しいような、悔しいような気持ちになりました。
「なに?これ楽しいの?ちょっと、痛いんだけど」
「クロは…こうするのが好きって、聞いた」四回。
「はあ?」
「真っ赤になって、みみず腫れになっても、やめないで、もっと叩いてって」五回、六回。
「なにそれ、誰がそんなこと言ったんだよ」
「それは、言いたくない…」七回、八回。
「全然分かんねえ。なんかお前泣きそうだし、怒ってんの?ちょっと落ち着けよ」
「もう、うるさいよ」九回、十回。
「うるさいってそんな、勝手すぎるだろ。八つ当たりされるこっちの身にも…」
「数えろ」苛立ち始めた鉄朗に、冷たく吐き捨てれば、訳が分からないと言っていた目の色が、途端にすうっと変わりました。研磨が"見た"のは、見たかったのは、鉄朗のこういう顔です。エヌ先生が見ていたのも、きっとこの顔です。口の端がじりじり吊り上がっていくのが、分かりました。


空を裂く、鋭く、乾いた音。それから子供の、潜められた小さな声。その二つだけが、ちいさな部屋の中に、反響しています。学校の七不思議や、不思議なうわさ話はきっと、こうやって、作られていくのでしょう。
「ろくじゅうはち…。ろ、くじゅうきゅう…」


15/06/23
15/06/26



・・・・・・
本編の山猫冒険譚の中に萌えるからというそれだけの理由で折檻部屋というワードを入れたので、これは活かさねば!と思って書いたものです。ただタイトルの通りこれは夢です。夢オチの多用はよろしくない。でも"あの部屋"はどこかにあるのかも知れません。あって欲しい!
途中で『ぶってぶって姫』という禁じられたワードを思い出してしまいゲーってなりました。


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