小説 | ナノ
【サンプル】猫と人間と性


※注意事項
過去と家族を捏造しています。あと名無しモブが登場します(CP要素なし)
また研磨のクレイジー度は低めですが当社比での話なのでやっぱりちょっとチャカポコしています。
本編は全6話、12万字強です。


〜ここまでのあらすじ〜

とあるスケベハプニングがきっかけで、研磨はただの幼なじみだった鉄朗への恋心を自覚した。
研磨は「自分が鉄朗に恋するとき、鉄朗もまた自分に恋をする」といういささか乱暴な考えを持っている。そのため臆することなく鉄朗に気持ちを伝えられるのだが、鉄朗は気のない返事をするばかりで、身体の関係は持たせてくれるのに「好き」と返してくれる気配はない。
思い切ってどうしたら好きと言ってくれるのかと尋ねる研磨に、鉄朗は意地の悪い顔をしてこう言うのだった。
「俺に好きって言って欲しかったら、もっとそれっぽく振る舞ってみれば」


<本文三話目>

「ふー、終わった終わった」
一通り丸付けをし終え、鉄朗がくわっと伸びをして振り返る。ばちっと目が合い、今日は鉄朗のほうからしたいと言ってくる日なのなのだろうかと浅ましくも期待してしまう。仕掛けるのはいつも研磨のほうで、鉄朗から誘ってくる日はほとんどない。だけどそのぶん研磨がすり寄っていくときよりずっと濃厚な時間になる。何度もしつこく寸止めをされ、じっくり時間をかけて責められるのだ。鉄朗とするときに限っては時間や手間をかけることが苦にならない。我慢したあとの気持ちよさ、我慢させる楽しさが理解できるようになったからだ。しかし残念ながら研磨の思惑通りにはいかず、鉄朗はただひと言「明日ひま?」と尋ねてきただけだった。明日は大型連休の最終日。とはいえそんなものは関係なしにびっちり練習をするのだろうと思っていたところ、監督やコーチなど大人側の都合で急きょ丸一日オフということになったのだ。「明日は隣の区の学校へ出掛けるぞ」といった具合に突然練習試合の予定が組まれることはしばしばあるが、その反対でオフになるというのは珍しい。突然できた休日にすることなんてゲームくらいしかないのだけれど、正直に暇だと返したらバレー馬鹿の自主練相手として部屋から引きずり出されるような気がした。けれど予定があると嘘を吐いたところでばれるに決まっている。一か八か「ひまだけど」と素直に返してみると、鉄朗はどこかへ出かけないかと提案したのだった。
「どっか?」
休みの日に駆り出されるバレーの練習も大概であるが、せっかく家から出なくて済む日に外へ出るというのはばかげている。しかも連休でどこも混みあっているのだろう。大人しく家で過ごそう。そう言おうとすると、すいと手を上げて遮られた。
「したいだろ? デート。俺と」
「で、デート……」
デート、デート。と頭のなかで反芻してから、そういうことかと膝を打った。静かに口角を吊り上げている鉄朗は「好きだと言って欲しければそれらしく振る舞え」と言い放ったときと全く同じ目をしている。それらしい振る舞い。要するに、清い男女交際の段取りを踏襲しろということだったのかもしれない。デートをして、手をつないで、それから震える声で告白をし、互いにはにかみながらキスをする。というようなものだ。鉄朗はこう見えて純情なところがあるから、階段を一気に五段くらい飛ばしたような現状に不満があるというか、そういったロマンチックな恋愛に未練を残しているのかもしれない。
「あー、べつに、いいけど」
なんだその程度、自分にだってやってやれないことはないだろう。研磨はあっさり承諾した。本音を言えばわざわざ人の多いところへ出かけるよりも家でだらだらするほうが性に合っているし、そのあとのあれこれにも持ち込みやすい。鉄朗が拒まないせいで、下世話なことばかり考えてしまう。隣に座ってさりげなく距離を詰めれば、それだけでぐっと息を呑むのがわかる。肩を寄せ、研磨の腕をぎゅっと掴んでくる手はやけに熱い。なにが清い男女交際だ、自分だっていやらしいことばかり考えているくせに。それでも、やらねばならんのだ。えっちなことは好きと言い合いながらするほうが気持ちいいに決まっている。
その場面を思い浮かべひとりほこほことする研磨には気付かぬ様子で、デートといえば映画だろうとか、せっかくだからファストフード以外で飯が食べたいとか、ついでにスポーツショップをひやかすかとか、鉄朗は至極楽しそうに話し始めた。
「研磨、ちょっと映画どんなのやってるか調べてくんね」
「ん」
こうして年相応に笑うところなんて何度も見てきたはずなのに、初めて目にしたような新鮮な心持ちがした。慌てて目をそらしながら、適当なキーワードを検索バーに打ち込む。面倒くさいと思ったばかりなのに、鉄朗の態度につられてか、液晶をすべる指先はどこかうきうきしている。
「いまやってるの、こんな感じみたいだよ」
検索ボタンをタップし液晶画面にずらりと並んだ上映中作品のポスターを見せると、鉄朗は目を細めながら「これの宣伝、テレビで観た」とか「クラスの誰それが面白いって言ってた」と指さしながらコメントしていった。最盛期の活気を取り戻しつつある音駒高校男子バレー部に、今回のような丸一日のオフはほとんど訪れない。鉄朗に限らず皆が望んでやっていることではあるものの、たまの休暇には気がゆるむのだろう。いつになく弾んでいる声がほほえましい。
そんな鉄朗をどうやって乱れさせるかを考えながらもうんうんとそれらしい相槌を打っているうちに、少し離れた海沿いの繁華街で映画を観て昼食をとり、午後はそのまま街をぶらぶらするというデート然としたスケジュールが完成していた。
「じゃ、九時に駅な」
そう言われた瞬間、目的地までの所要時間、自分と鉄朗の買い物にかかる時間などからおおよその帰宅時間を算出する研磨である。大丈夫、帰ってからもえっちなことをする時間は充分ある。よし、と静かに拳を握ったところでひとつの疑問が浮かび上がった。
「え、家から一緒じゃないの」
何気なく尋ねる研磨に、切れ長の目がくわっと開かれる。
「やーっぱ聞いてなかった。家よりも駅で会ったほうがデートって感じするだろー?」
「……うん? うん」
たしかに玄関を出てすぐ顔を合わせるのでは、学校や部活へ行くのとそう変わらない。だけどどうせ同じ駅から同じ電車に乗るのだからあまり意味はないのではなかろうか。けれどそんな話をしたら今度は現地集合なんて事態になりかねない。目的地までは、乗換に必要な時間も含めれば一時間強かかる。研磨は電車の乗り方自体は熟知しているし、文明の利器に頼れば乗り換えもスマートにこなせるが、慣れない電車にひとりで長時間乗り続けるというのはなかなかに疲れるのだ。デートのセオリーというものも、鉄朗の思い描くデート像もさっぱりわからないから、とりあえずそれでいいのだと従っておくことにした。清い男女交際にはきっと相手をひっぱる頼もしさと、黙って頷く器の広さの両方が必要なのだ。
全てが決まったところで研磨は鉄朗の様子をちらと窺い、尻をもぞもぞ動かしてにじり寄った。肩口をシャツ越しの腕にこすりつけ、まだへらへらしている顔を見上げて言う。
「クロ、しよ」
「えー……このタイミングでそういうこと言うの?」
研磨に誘われた鉄朗が引いてみせるのはお約束のようなものだ。どうやら自分も乗り気であると思われるのが嫌なようである。あくまでしつこい研磨に押し切られ渋々。ということにしたいらしい。自分から誘うときもあるくせに。そんな鉄朗にもたれ、ぐーっとわざとらしく体重をかけて言う。
「嫌だったらさ、クロのは触んないから」
「本当に?」
「ほんとに本当」
──まあ、どうせ勃つだろうけど。
そんな研磨の予想通り、結局二人揃って下半身を晒すいつもの流れになった。このタイミングで? などと呆れたように言ってきた鉄朗だったが、いざ衣服を脱ぎ捨ててしまえばたわむれに研磨の研磨にどうもーと挨拶をするくらいにはこの行為に慣れてしまっている。デートの約束のおかげか鉄朗はやけに機嫌がよく、いつもより丁寧な手つきでペニスに触れてきた。
「はー……それ、気持ちいい」
両手を使い、研磨の弱いところばかりをねちっこく責めてくる。ぐっと反らせた手のひらで先端をぐりぐり撫でられ、研磨はたまらずくぐもった吐息を漏らした。
「んっ」
すると鉄朗はなにかひらめいたと悪戯っぽい視線を寄越す。鉄朗がこの表情をするときは大抵ろくなことにならない。なにを企んでいるのだと目を細めると、鉄朗はそのまま身を屈め、ちらちらと舌を出し、浮き出た蜜で光る先端をぬろーっと舐め上げた。
「っ、え、なにやっ、てんの」
ごく敏感な部分に感じる、あたたかく、ざらざらした感触に思わず腰を引く。それでも鉄朗の舌は天井を向くペニスをしつこく追いかけてきて、ミルクを掬う猫のような動作で赤く腫れた部分をぺろぺろと舐める。
「ふへ、ちんこ、なめへる」
「き、汚ないよ」
ふへ、なんてのん気に笑っている場合ではない。突然舐められて驚いたのもあるが、これはなんだかとても気持ちがよくて危険だ。きっとすぐに爆ぜてしまう。あまり恰好悪いところを見せるのは嫌なので、寝ぐせ頭をぐいと押して抵抗した。
「もうだめ、やだ。やめて」
努めて事務的に言うと、研磨の気持ちを知ってか知らずか仕方なさそうにくちびるが離れていった。熱くなったものは握ったまま、ふうとため息を吐かれる。
「汚いなんて、そんなの今更だろ」
「それは、そうだけど……」
「してやるっつってんだから、大人しく舐められとけよ」
な? と上目遣いで言う鉄朗にぐっときて、絆されそうになる。しかし、手指で触り合うのと、舐めたり口に含むのはまた別のことなのではないか。そんなサービスをしようという気持ちがあるならば一刻も早く好きと言ってほしいのだけれど。そう思いつつも快楽には抗えない。気持ちよくないよりは気持ち良いほうがいい。絶対に。本当に危なくなったらまた制止すればいいのだ。ふ、と逆立った髪に添えた手から力を抜いた。
「じゃあ……いいけど」
口を尖らせて言うと鉄朗はにいっと笑い、背中をぐっと丸め、今度はなんと勃ち上がったペニスを口のなかへぱっくりと迎え入れてみせた。
「──っ、ん! クロ!」
ただ舐められたときとは違う、ねっとりと纏わりつく熱が性器をやさしく包み込む。ざらついた舌が竿を、先端をくすぐり、思わずもっと奥へと腰を突き出してしまう。手でされるだけでも充分だったのに、これはもっとすごい。それに何度もキスしたくちびるを己のペニスが出入りする様は視覚的にもぐっとくるものがある。
「はふ、は、あむ、」
「ん……、クロっ」
敏感な部分を口内で慰められ、口からはみ出た根元とふぐりは指で弄られている。鼻から抜けていく息は自分でも恥ずかしくなるくらいに甘濡れていて、だけど堪えることなんてできない。
「ひもひい?」
「んっ! う、うん」
次第に頭のなかがかすんでくる。このままあたたかい口のなかを乱暴に出し挿れして、なんの遠慮もせずに射精してしまいたい。数えきれないほど味わってきた広い口内へ、何度も吸ってきた舌の上へ、いつもはティッシュや手のひらに吐き出すばかりの精液を無遠慮に注いでみたい。鉄朗はどんな顔をするだろう。大人しく受け止めてくれるのもいいし、睨みつけられるのもまた乙である。気持ちよく射精するイメージで頭がいっぱいになった研磨だが、はたと思い返された「がんばらなければ」という気持ちが欲求を押しとどめた。真っ黒な髪のすきまにふたたび指をさしこむと、鉄朗は研磨のペニスを握ったまま視線を寄越す。
「どした? 出そう?」
根元を擦りながら、息苦しさで潤んだ目をにっと歪めてみせる。
「っ、クロ、おれもやる」
余裕ぶって額を撫でながら言うと、鉄朗ははい? と素っ頓狂な声を上げた。
「研磨はしなくていいよ。お前、口小さいし……疲れるの嫌いだろ」
鉄朗の言う通り研磨の口は小さいし、対して鉄朗の鉄朗は全体的に大きい。扱くだけでもすごいなあと思ってしまうそれを迎え入れるところを想像し一瞬怯む。が、
「嫌いだけど、やりたい」
「いいってば」
「する」
「いい」
「でもこれ、すごい気持ちいいよ」
おれがしたいの。強い目で言うと鉄朗はぐっと息を呑んだ。押しに弱くてありがたい。だけどここまで弱いのもどうなのかと思う。しかしそれだけでは終わらず、いくらか思案してから「じゃあさ、一緒に……」とやけに恥ずかしそうに研磨のものをなぞってきたのだった。
「いっしょ……」
思い浮かぶのはとてつもなくいやらしい光景だ。まさか鉄朗がそんなことを言い出すとは思わず、研磨は言葉を失った。鉄朗はそれなりに気持ち良いことが好きなのだろうけれど、することはごくごくノーマルな、いわゆる普通の抜き合いばかりだった。突然咥えられただけでも衝撃を受けているのに、それを互いにしようと言い出すなんて。
「それ、本気で言ってる?」
「だって気になんねえ? どんな感じなのかなーって」
「なるは、なるけど」
「嫌だったら、やめればいいし」
他人からはどんなにしっかりしていると言われても、結局二人はただの高校生なのだ。思春期の好奇心には抗えない。研磨の部屋はすぐに、くぐもった声と甘い吐息とでいっぱいになった。

「ふう、ん、んむっ……」
静かにしようと努めても、ぬぽ、じゅる、と頭の悪い音が立ってしまう。ふたりともベッドに横寝をし、互いのペニスを口許へ運ぶ。舐めて、咥えて、指でいやらしく撫ぜる。液晶のなかでしか見たことのない過激な光景に、研磨はただ舐められるよりもずっと興奮していた。それに赤く腫れた先端を口に含んでみて初めて、研磨は一切の嫌悪感を抱いていないことに気付いた。ただの好奇心ではここまでできまい。やはり鉄朗は特別なのだと、塩辛い蜜を舐めとりながら改めて思った。下腹部に視線をおろすと研磨のペニスを咥える鉄朗の顔がよく見える。先ほどまでは至極あっさりした表情だったのに、間近で性器を見られることが恥ずかしいのか、いつもよりずっと赤らんだ顔に生唾を飲む。勃起したそれを目にしたのはもう数えきれないほどになるが、こんなに間近でじっくり眺めるのは初めてだ。重量感のあるふぐりがもきゅもきゅ動くのも、一定のルールを守って生える下の毛も、アングルが違っているだけで新鮮なものに見えるのだなあとひとり頷いてみたりする。扱きあうときとは違う甘く焦れるような声に胸をどきどきさせながら、割れた先端をちゅっと吸った。
「ふ、うっ」
引き締まった太ももがぎゅっと擦り合わされ、得意気に吊り上がった眉がたまらないといった風に寄せられる。そんな余裕のない表情を浮かべながら、健気にペニスを咥え続けているのがすごくいやらしい。いやらしくて──
「あ」
かわいいな、と思ったところで、研磨のそれは爆ぜていた。こういうことをするようになって気付いたが、鉄朗とするときはなかなか爆発事故が多い。鉄朗の放つ魅力は知識も予想も軽く飛び越えてくるのだ。今回もあられもない姿に意識を埋め尽くされ、すっかり油断していた。本当に、まったくもって予想外のタイミングだった。
「けほっ、おま、」
鉄朗は突然口内に出された精液に驚き、ペニスから顔を背けて咳き込んだ。とっさに吐き出したものと唾液で口の周りがべたべたに汚れている。
「ごめん、クロ」
飛び起きてティッシュを箱ごと差し出したら、うるんだ三白眼にじとっと睨まれた。ああ、その顔もぐっとくるものがある。どんなに怖い顔をしていても頬を真っ赤にしていては迫力なんてなく、ただ研磨を煽るだけだ。
「ごめんね」
健康的な色の肌と、それを汚す白濁のコントラストがやけにまぶしい。出してすぐだというのに、また下半身に熱が集まっていくのを感じる。
「びっ、くりしたわ、あほっ」
けほけほとひくつく背中をさすってやる最中も、申し訳ないという気持ちはあるのに、体温はどんどん上がっていく。うえ、とティッシュに唾液を吐き出す様にもむらむらしてしまう。今日はなんだか変だ。でも元はと言えば、いきなり普段と違うことをしようと誘ってきたほうが悪い。研磨はあっさり鉄朗に責任転嫁し、ねえ、とようよう落ち着いてきた肩を揺する。
「次は失敗しないように気を付けるから、もう一回しよ。クロ、まだ出してないし」
「えー……」
口に出されたことがよほど衝撃的だったようで、鉄朗は今日はもういいと本心から思っていそうな渋い顔をした。それでも研磨は粘る。粘れば勝てることを十二分に知っている。
「でも舐められるのはきもちかったでしょ?」
「それは、まあ」
という返事を聞くやいなや、研磨は萎えかけた鉄朗のペニスをぱくんと咥えた。ぎゃっと驚かれても気にせず続ける。名誉挽回のためだ。ぬこぬこと顔を上下させればすぐにまた芯を持ち、先の硬さへ戻っていく。咥えるだけで口をいっぱいにしてしまうそれを、頬をすぼめて思い切り吸った。
「うあっ」
じゅる、じゅる。そのまま、身体にすっかり染みついてしまった感じやすいところを舌で執拗に責める。内腿はひくひく痙攣し、喉元からは首を締められているような声が漏れる。
「ん、ん……だめ」
やめろと頭を掴んでくる手は言葉のわりに力が入っておらず、次第にただ添えられているだけになる。自分もせねばと律儀に研磨のペニスを握ってはくるものの、もたらされる刺激のせいで軽く扱いたり、ちらちらと舐めるだけで精一杯。鉄朗は快感にひどく弱い。
「くろ、ひもひい?」
そんな鉄朗に研磨がわかりきったことを尋ねるのは、「気持ちいい」「ここが感じる」というのをあらためて確認させられることで鉄朗が一層乱れるからだ。形の良いふたつの耳は恥ずかしい言葉のひとつひとつを丁寧に拾い上げ、すべて快楽へ変換してしまう。
「……っふ、は、きもちい、けんま、んっ」
がちがちになった研磨のペニスはついにただ手を添えられているだけになった。それでも不満はない。自分の行為でここまで好くなっている鉄朗がかわいくてたまらないから、なんでもいい。面倒くさがりな研磨であるが、くたびれてくる顎もぼんやりする頭も鉄朗のためと思えばなんのその。奉仕の心が生まれた瞬間である。きゅんきゅんと収縮するふぐりを舐めてやると太腿にぎゅっと力が入り、バランスよく筋肉の付いた腹は波打った。まぶたはぎゅっと閉ざされ、研磨から与えられる快楽をじっくり味わっている。そのまま忙しく口許を動かしていると、やがて心配になるほど呼吸が激しくなり、射精へ近づいていることを知らせてくる。
「やばい、研磨、出る、出る……」
ぼんやりする頭をどうにか働かせ、逃げようとする腰を捕まえ、舌先でぐりぐり撫ぜる。出るって、と訴えられても決して離さず、咥えきれない竿の根本は指の輪で絞るように扱いてやった。鉄朗の色々な表情が見たい。その欲求は日ごとに深くなっていく。
「ン、う、だめ、だ……あっ!」
心配になるほどの、荒い吐息。堪えきれない悲鳴とともにペニスが脈打ち、熱いものが口のなかへ勢いよく吐き出された。

「ああ……あっ」
射精を終えてからも、鉄朗はまぶたをきつく閉ざし、余韻に浸るように胸を上下させている。やはり鉄朗の精液は濃く、また量も多い。しかし喉に絡みつく白濁を研磨はすべて口で受け止めた。そうしてあげたいという気持ちと一緒に、これで先ほどの粗相をチャラにしてほしいという下心もわずかばかりあったのだ。初めて口にした精液は決して美味くはないが、死ぬほど不味いとも感じない。しかし総合的に見れば『美味しい』のかもしれない。残滓もすべて吸い出し、こくんと喉仏を上下させて飲み下した研磨を見、なにが起こったのかを察した瞬間の鉄朗の表情があまりに愉快だったからだ。
「え、おまえ」
「うん」
目を白黒させる鉄朗に、空になった口を目一杯開けてすべて飲んでしまったことを見せつける。鉄朗は「わ、わ、わあ」と間抜けな声を上げながら重い身体を持ち上げ、研磨の華奢な肩をむんずと掴み、首が折れそうなくらい激しく揺さぶってきた。
「うわー、うわー、うわーっ! なにやってんだばか! ばか! ぺっしろ、ぺっ!」
「おいしかったよ」
吐き出せなんて言われても今更無理な話だ。からかい甲斐があるなあとわざとらしく目を細めると、信じらんねえ! と目が見開かれる。しかしそんな風に騒いでいても、すぐにまた悶々とした気持ちを燃え上がらせていくのがわかった。まだ硬いままの研磨のペニスを、視界の端に映してしまったからだ。
「どうしちゃったんだろうね、今日は」
一度で満足することはあまりないものの、今日の鉄朗は一段とすごい。あっという間に硬くなってしまったものにはあえて触らず、荒く上下するわき腹をつうと撫ぜて静かに問いかける。鉄朗は深く息を吐き、研磨の手の甲へ色っぽい手つきで触れた。
「ごめん。もう一回だけしたい……」
「うん。しよ」
じいっと目を見て言うと鉄朗のうすいくちびるがきゅっと引き結ばれる。にやけてしまうのを隠しているのだ。そんな仕草に抱いた感想は胸の奥に秘め、シーツへゆっくり倒れ込んでいった。

しかしまだ若い二人だからもう一回どころでは済まず、互いに精も根も尽き果ててしまうまで一心不乱にむさぼり合うこととなった。口でも手でも、数えるのが面倒になるくらいした。
「ん、研磨、あと一回だけ」
「えっ」
「だめ?」
「……いや、いいよ」
今日の鉄朗は本当にすごい。半ば絶望的な気持ちになりながらも、大好きな鉄朗の痴態を眺めていれば研磨の身体はまた熱を持っていく。どこか壊れてしまったのではないかと心配になるほどに。
「いいけど、好きって言って」
「それはやだ」
そうやって幾度も繰り返される口淫のなかで、研磨は手のひらに出される精液をこっそり舐めとっていた。回数を重ねるごとに薄くなっていっても常に鉄朗の味がする。
「それ、嫌じゃねえの?」
こっそりしていたつもりでもばっちり見られていたようである。初めに飲んだときは引いていた鉄朗も、慣れてしまったのか実にあっけらかんとしている。
「全然。クロのだから嫌じゃない」
「変なの」
「変かな」
鉄朗は首をかしげる研磨に手を伸ばし、太ももへはねていた精液をすくってぺろりと舐めた。まばたきをし、研磨を見上げる。
「本当だ、全然嫌じゃない」
「嘘だ」
「さっきはびっくりしたんだって」
「じゃあ、次は口に出す?」
「んー、今日はやめとく」
そう言ってけらけら笑う鉄朗を見たら、研磨はとても安心した。やはり鉄朗は自分のことを想ってくれている。胸がいっぱいになり、目の前の身体にこてんともたれかかった。
「クロ、ちゅーしたい」
「いいけど、変な味するかも」
「平気。して?」
頬に手を添えて言えば、形のいいくちびるがやさしく押し当てられる。頬に、鼻の頭に、くちびるに、何度も何度も。

ようやく青い身体の熱が落ち着くころ、ゴミ箱は丸めたティッシュでいっぱいになり、時計を見やれば目玉が飛び出すほどの時間になっていた。
「ああー、疲れた。ねっむ」
 すっきり爽快大満足! といった様子の鉄朗に、研磨は軽く吹き出す。
「おじさんみたいな声」
「うっせ。っていうか、明日寝坊すんなよ」
「しないよ。ちゃんと時間前に着く」
「言ったな?」
「うん」
「期待してるー」
鉄朗は欠伸をしながらもごく普通に起き上がり、いくらか休んでから帰っていった。研磨は膝が笑ってうまく立てず、ベッドに伏せたままそれを見送った。平気かと聞かれて「ちょっと眠いだけ」と嘘を吐いたのは男の矜持を守るためである。変に膝と腰を曲げて風呂へ入り、どうにかベッドに戻ったようであるが、よく覚えていない。


<本文三話目>

目的の公園は住宅街のなかに突然現れた。小鳥のさえずり以外聞こえないくらいに静かで、先客はない。各々自販機で飲み物を買い、目についたベンチへ腰掛ける。ふうと身体を脱力させ、鉄朗はぐぐっと伸びをした。
「すっげー静か。こんなに家があるのに誰も住んでないみたい」
「静かなとこが、よかったから」
 ほとんど直感で選んだ公園が理想通りでよかった、と胸を撫で下ろす。心なしか鉄朗の口調もやわらかい。
「映画も飯屋も混んでたもんなあ。やっぱり疲れた?」
「ちょっとね。でもクロがいるから落ち着く」
今しがた買った缶ジュースは、蓋も開けられぬうちに傍らへ追いやられた。手についた水滴を拭い、鉄朗の指先へやさしく触れる。
「なにお前、手つなぐのそんなに気に入ったの?」
「うん、好き」
真顔で返すと、鉄朗は「甘ちゃんめ」と言いながら研磨の手を握ってくれた。さらさらした感触に、映画館での出来事が甦る。そうだ、この、甘酸っぱい感覚だ。研磨がこんなにときめいているのだから、鉄朗はもっとどきどきしているに違いない。
手を繋ぎ、ときどき無意味に足元の石ころを蹴りながら、今でなくともできるような話ばかりした。学校のこと、家でのこと、バレーのこと、バレーのこと、バレーのこと……。鉄朗は本当にバレーの話ばかりだ。こんな具合ではどれだけ好かれても「鉄朗ってば、バレーのことしか話さないんだもん」と飽きられてしまうだろう。しかし鉄朗を好いている研磨は偶然にもバレー部員なので、鉄朗の言っていることはきちんと理解できる。意見を求められればぽそぽそコメントしてもあげられる。やはり鉄朗は自分を好きになって正解だったなと心中で力強く頷いた。
「クロはさ、バレーとおれ、どっちが好き?」
ふと思い浮かんだので、バレー談義を打ち切って女子のような質問を投げかけてみる。のちのち頭を抱えることになろうとも構わない。映画のなかのような、胸のきゅんとする台詞を言ってみたくなったのだ。
「研磨のことは好きじゃないから、その質問は成立しない」
鉄朗は繋いだ手にぎゅっと力を込めて答えた。徹底した返しに研磨の胸は躍る。それでこそ研磨の惚れた男である。見たか! と得意気にする顔を目にしたら、なぜか唐突にキスしたくなった。好きじゃないとばっさり切り捨てられたあとの感情としてはおかしいのかもしれないけれど、とにかく今すぐキスしたいと思った。他の人間はいないし、公園はぐるりを生け垣に囲まれているため誰かに目撃されてしまう心配もなさそうだ。キスしたいキスしたいと念じ、喉仏を上下させてジュースを飲む横顔をじーっと見上げる。と、鉄朗はちょっと照れくさそうに口をへの字にした。かわいい。
「なんですか」
「ちゅーしたい」
「え、ここで?」
「うん。いま、ここでしたい。すごく」
冗談だろうという顔をする鉄朗に研磨は即答し、腕をぐいと引く。
「やだよ、誰が見てるかわかんねえもん」
「どうせ知り合いなんていないでしょ」
「そりゃ、いないとは思うけど……」でも、万が一ってことがあるだろ! 家だってこんなにいっぱいあるし! とかなんとかもごもごと理屈を並べてはいるが、要するに恥ずかしいのだなあと研磨は解釈した。いつももっと恥ずかしいところを散々見せているくせに何を今さら。とはいえ無理強いをする気はないので、後のお楽しみと諦めるつもりだった。のだが、欲と理性の間で揺らぐ鉄朗を見るのが面白い。研磨もデートという非日常に浮かれているようだ。ちょっとばかりからかってやろうと腕を甘ったるく絡ませ、肩にそっと寄り掛かる。ぎくりと逃げて行こうとするのを捕まえて、頬をカットソー越しの腕に擦りつけ、必要以上に慌てる顔を熱を込めた目でじーっと見上げた。そっぽを向かれても、首をかしげて覗きこむ。
「そんなに見てきても、だめなものはだめ」
「けち」
「けちとか、そういうんじゃないだろ」
そもそも常識的に考えてだな、とたしなめられても「ふーん、そう」と興味なさげに返して鉄朗を見つめ続ける。
「だめだって」
「なんで?」
手指はじっとり汗ばみ、触れ合った肩から伝わるどきどきはどんどん激しくなっていく。好きだと言ってほしければどうのこうのと高飛車な態度をとってはいるものの、結局この男は自分に頭が上がらないのではないかと内心ほくそ笑んだ。
「だめ、だから」
本当は、したいくせに。相変わらず他人の気配は感じない。キスをやめるのはやめて、このまま強引にいくのもありなのではないかと思い始めていた。なにせ今日のキーワードは能動とか積極性とか、そういった類のものなのだ。
「クロ」
腕を揺すって呼びかけると、鉄朗はゆっくり研磨を見た。黒目が揺らいでいる。キスしたいときの顔だ。
「けど、だって俺、部長だし」
「散々えっちなことしてるくせに」
突然出てきた部長という単語にこみ上げる笑いをこらえ、尻をずり動かしてぎゅっとくっつく。そうすると鉄朗も同じ動きで逃げるので、またくっつく。逃げられる。くっつく。コントのような動作を何度か繰り返し、ベンチの端へ追い詰めていった。なんだかんだと言って、鉄朗はこうやってごりごり押されるのが嫌いではない。
「けど……」
ただ繋ぐだけだった手を離し、少しずつ指を絡めていく。すると手汗のにじむ指先もそれに応えるよう握り返される。ちょろい、ちょろすぎる。
「ちょっと下向いて?」
軽く腕を引いて促すと鉄朗はそっと俯いた。ここまで流されやすくて大丈夫なのかと肩を竦めたのは、まだなにも言っていないのに瞼をそっと閉じたからだ。
「クロ」
しかし片手を頬に添え、ぐいと顔を近付けたところで研磨は躊躇した。自分と鉄朗が好き合っているという確信は決して揺るがないはずなのに、得体の知れない不安が襲ったのだ。
じっと研磨のキスを待つ鉄朗は、ときどき校内の女子が「あの先輩良いよね」と話しているのを耳にするくらいには人の目を惹いている。それはきっと長身で目立つから、ということだけではない。普段はしらーっとした目を向けることばかりだけれど、研磨は鉄朗のことをそれなりに尊敬している。小学生のころからバレーを続けているまっすぐなところもそうだし、主将としてチームの全体を見、しっかりまとめられるところ、他校の生徒とも人見知りをせず打ち解けられるところ、そしてさり気ない気遣いのできるところとか、研磨には難しいことを笑顔でこなしている。対して研磨は大抵の人からやる気がなさそうと言われるくらいにはぼんやりしているし、よく知らない人とは出来るだけ関わらずにいたい。個性のばらばらな集団をまとめるだなんてできっこないと思っている。それが自分なのだと理解しているから、悩むことはないのだけれど。
「……」
静かに呼吸を繰り返し、研磨のくちびるを待つ顔を見つめる。人に見られたらどうのと喚いていたくせにすっかり研磨に身を委ねている。やさしいキスをしたときの、くちびるとくちびるが離れてからはにかむ鉄朗を思い返すと胸がきゅんと苦しくなった。
ああ、幸せすぎて怖いのだ、と思った。だれかを恋しく思うのも、その相手から同じ気持ちが返ってくるのもまったく初めての経験だ。自分には関係ないことだと思っていたのに、気付けば鉄朗のことを考えずにいられなくなっている。どうしよう、好きだ、この幸せをずっと噛みしめていたい。研磨しか見ることのできないキス待ち顔を、ずっとずっと見つめていたい。ひとり胸を熱くして感慨にふけり、ぽーっと見惚れる。こんなに恋しい人に、本当にキスなどしていいのだろうか。このくちびるはもっと丁重に扱われるべきなのではなかろうか。


20160814



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