小説 | ナノ
【サンプル】ふたりはおとなになりました


【注意事項】
展開自体はド王道BLですが、研磨が始終躁気味で全体的にチャカポコしています
また、過去と未来と家族を盛大に捏造しています
過去:かなりがっつり
未来:少なめ。職業や見た目などの具体的な描写はなし
家族:ほぼせりふのみ

そんな感じです。また、2016年1月24日までに原作で描かれていない試合の結果については触れていません




波乱に満ちた壮大な物語も、のほほんとお茶を飲んでいるような、ごく平々凡々とした場面から始まったりする。これはおれの初めての恋についての、波乱に満ち満ちた話。ひとりの人間の一生を揺るがす革命的なできごともやはり、幕開けはごくあっさりしたもので。

おれは小学校に上がるタイミングで引っ越しをした。同じ区内で学区がひとつずれる程度の、わずかな距離の引っ越しだった。がらんとした家から出ていくおれに「元気でね、お手紙書くね」と声をかけ、涙を流すひとはいなかった。そもそもおれには友達自体ひとりもいなかったのである。
それまで住んでいた集合住宅に対し引っ越し先はちいさいながらも一戸建てで、よくわかっていないなりに胸を躍らせていたのを覚えている。新天地に対する希望よりも集合住宅のわずらわしさから解放される喜びのほうがはるかに大きかった。エントランスや共有通路でご近所さんに出くわしたときの挨拶というナチュラルボーン人見知りっ子のおれを討ち果たさんとするイベントがなくなる嬉しさは到底六歳児のボキャブラリーで形容できるようなものではなく、また家族以外の立てる物音が聞こえない穏やかな空間はながらく求め続けてきたものだった。引っ越し前の集合住宅は上の階に住むちびっこのドタバタ走る音や、お隣夫婦のけたたましい笑い声がうるさくてかなわなかったのだ。それに新しい家には自分の部屋がある。これで寝かしつけられてからもこっそりゲームができると密かにガッツポーズをした六歳児のおれは、すでに今と変わらぬインドア根暗ゲーマーであった。
ベッドと学習机しかない殺風景な部屋でもそこは確かにおれを主とする城に違いなかった。引っ越し作業がひと段落し、新居での暮らしがスタートした最初の日の夜、「今日はママたちと寝ようか」と言われ、「もう小学生だからじぶんの部屋で寝る」と即答したおれはさぞ頼もしい顔をしていたことだろう。突如として男っぷりを上げた我が子に母さんはいたく感激していたが、まあそういうことなのである。
集合住宅から一戸建てへ移ったとはいえ、そこは決して石神井公園の雑木林の中などではなくどこにでもある住宅街の一画だ。両隣にもお向かいにもひとが住んでいて、ご近所付き合いはそれなりに必要である。またか、という気持ちはなかったでもないが、そのころのおれにはまだ石神井公園の雑木林で暮らす勇気はなかったためしばらくは耐える方向でみずからを納得させた。そんなおれが引っ越しの挨拶についていくことはなかった。「こんにちは」とたったひと言発するときでさえ母さんの尻に蝉のようにしがみつくのが通常運転だったのだ。両親は我が子がよそ様のお宅に訪問するのはまだ早いと判断し、ゲームさえ持たせておけば石のように動かないおれを新居に残し、ふたりで出かけて行った。
まだ木材のにおいの残る家でマップの攻略に励みながら、おれは考えていた。ようやく安住の地を手に入れたのだから、このままこの家でひっそり生きていきたい。起きて、ゲームして、寝る。友達はいらない。今までだっていなくて平気だった。ひとりで年を取っていくのだ。しかしそんなおれの人生計画はあっけなく覆されることとなった。



「お、俺、鉄朗。くろおてつろう」
「くろお……」
自分と同様にめずらしい苗字を、か細く、今にも消えてしまいそうな声で繰り返した。くろおてつろうもとい黒尾鉄朗もといクロは名乗ったことでいくらか気が楽になったのかふうと息を吐き、ふたたびガキ大将然とした笑みを浮かべた。
「うん、くろお。―で、おまえは?」
「えっと、なに、が」
「名前! おまえの」
突然話を振られると相手がなにを言っているのかわかっていてもフリーズしてしまうのがナチュラルボーンコミュ障の悲しき性である。「おまえじゃないでしょ」とクロの母親もといおばさんがツンツン頭に手刀を打ち落とした。
「いってえー」
クロは頭をさすりながら、突然の暴力事件におろおろするおれをじっと見る。
「なまえ……」
落ち着いて質問の内容を確認する。そう、名前を尋ねられているのだ。なんの名前かというと、おれの名前だ。しかしそのときのおれはみずからの名前すらも忘却の彼方へ追いやってしまうほどに緊張し、またいまだかつてないほど動揺してもいた。ただでさえコミュニケーション能力に障りがあるというのに、引っ越しを終えてからこっちまともに顔をつき合わせた相手は父さんと母さんくらいだったのだ。なんの心の準備もせずに見知らぬこども相手に自己紹介をするだなんてハードルが高すぎる。心の中で唸るおれを、クロは変わらず、時折まばたきをしながらじっと見ている。おばさんも、おれの母さんもおれを見ている。
六つの目玉がおれを追い詰めていく。名前、なんだっけ……。緊張は脳神経から全身へ伝わり、猛烈な拒否反応を示す。トレーナーを掴んでいる、力むあまり白くなった指がわなわなと震えだした。
「あ、え、えっと……」
薄暗い足元に目を落とすと、ひとまず視界は静かになった。とみせかけて新たな問題が浮上した。なんとねずみ色の靴下のつま先の部分が擦れて破れかけているのである。先ほどテレビを観ていたときには気がつかなかった。まったく、母さんももうちょっと気をつけておいてくれないと困る。初対面の相手に破れかけの靴下を履いたまま挨拶をするなど無礼千万ではないか。今日のところはお引き取りいただいて、後日新品の靴下をおろしてから出直そう。とがたがた震えながら逃走の算段を立てるおれを見、クロは「大丈夫?」と言いながらさらに距離を詰め、がちがちになったおれの両手をきゅっと握った。のどがひゅっと絞まり、意識がくらくらと遠のく。
「この子すごい人見知りなのよ。でも心配しなくていいからね。もうちょっとしたら慣れるから」
ひとを電化製品かなにかだと勘違いしている母さんの言葉に従い、クロは緊張で冷たくなったおれの手を握ったまま不具合の解決と再起動を静かにを待っていた。おれよりひとまわり大きく、あたたかく、やわらかい手のひらはふしぎと身体のこわばりをほぐしていった。しかし頭のほうは依然パニック状態で、こんなことは家族や保育園の先生にしかされたことがないためどう反応したらいいのかわからない。さらにおろおろするおれを覗きこみ、クロは心配そうに眉を寄せた。頭ひとつぶん大きな身体も切れ長の目も、やはり怖い。
「俺、よくこわいって言われるけど、ただでかいだけだから」
クロはほんのすこしの寂しさをにじませて笑った。きっとした目じりが下がった瞬間、身体に入っていた余分な力がふっと抜けた。
「……けんま」
無意識のうちに、記憶の奥深くに刻まれた己の名をぽつりと口にしていた。めずらしい名前であるというのを抜きにしても名乗るということはやけに気恥ずかしく、ふいと目をそらしてしまう。
「え? けんま?」
「……こづめ、けんま」
「そっか! けんまか!」
クロはおれの手を握ったまま両腕をぶんぶん振りまわした。よろこびに打ち震える腕力は凄まじく、おれのひょろひょろした腕を引きちぎらんとしているかのようだった。「手、いたい……」と訴えてみても全く聞こえていない様子。
「これからいっぱい遊ぼうな!」
にこっと笑う顔が陽の光にぽおっと照らされて、なんだかきらきらして見えた。これが、おれが恋に落ちた瞬間だった。
というのは嘘で、気付けばおれは母さんとふたりきりのリビングでからからに干からびていた。ディスコミュニケーション由来の発汗異常でトレーナーは不快に湿り、握りしめていた裾は手をはなしてもなおチーズもしくは餅のようにたゆんと伸びて、秘められし握力の可能性を感じさせる。だいいち、ナチュラルボーンコミュ障のおれがぐいぐい来る苦手なタイプの人間に突然恋してしまうなんてあまりにも現実感がないのである。疲れた。とにかく疲れた。元気な人間はおそらく他人のエネルギーを吸い取って自分のものに変換しながら生きている。そんな満身創痍のおれを見ても、母さんは「お友達できてよかったね」と呑気に笑うばかりだった。冗談じゃない、おれはひとりで生きていくと決めているのだ。少々むっとして「友だち、なってない」と返すと、「照れちゃって」と汗ばむ髪をくしゃくしゃにされた。勘弁してほしい。照れるようなことなんてひとつもないのだから。



顔を思い浮かべるだけでもじりじり痛くさせられていたのだから、本人を直視したらそれ以上に痛んでしまうのは自明の理である。なぜそんな簡単なことにも気がつかなかったのか。それは恋をしているからではなかろうか? いや、違う。勝手に決めないで頂きたい。勝手? 勝手なのはそっちでは?―延々と堂々巡りをつづけて極細の神経をすり減らした結果、おれの中にはふたつの勢力が生まれていた。これは恋である派と、恋ではない派である。じつにシンプルだ。本体であるただのおれはどちらにも属さずなるべく中立の立場にいなければと心掛けているものの、恋ではない派に偏りがちなのが実情である。
「べつに、なんでもない」
「でもおまえ、なんかぐったりしてない?」
それはほとんど眠れなかったせいである。つんつんと頬をつつかれ、ふたたびはしる痛みに顔が引きつった。そんなおれを見て、クロは視界の外でにやにやと笑っている。ああ、なんて意地の悪い男であろう。
「なんだ? 虫歯か?」
「だからなんにもないって」
「ふーん。まあ、そんなに言うならいいけど」
虫歯であればどんなによかったことか。歯みがき上手のおれにはあいにくご縁がない。胸痛と引きかえに意地が悪いという短所を見つけたが、幻滅するどころか苦しさは増すばかりであった。
薄々感づいてはいたがやはりおれはおかしくなっている。あの夢をきっかけに、昨日まではなんでもなかった仕草や表情のひとつひとつに心臓が握りつぶされるような痛みが走るようになっていた。それになんだか、いつもよりクロの顔がきらきらして見えるような気がする。夢の中できゅんとするだけならばともかく、現実においてもそうなってしまうことが決定的な証拠なのではなかろうか。そして、これは胸痛などという無味乾燥な名前の現象ではなく、恋する相手に胸がキュンとなるでおなじみの、俗にいう胸キュンというやつなのでは? と思い至った。―というのはこれは恋であると勘違いするおれの意見であり、今ここにいるおれの意見ではない。なにを言っているのか、もはや自分でもよくわかっていない。話がそれたが、心臓にも肺にも原因のない、くだんの胸キュンという疾病については昨晩ネットの海を泳ぐなかで知った。もし恋であるとするおれの推測が正しいのだとすれば、おれは胸痛の始まった中三のころすでに恋に落ちていたということになる。いつも半歩うしろをついてくる、幼馴染に。中三といえばゲームとバレーと受験勉強に明け暮れていたころであり、クロとは滅多に顔を合わせず恋に落ちるような機会はひとつもなかった。まったく勘違いも甚だしい。すぐになんでもかんでもこじつける。
「だから、勘違いじゃないって言ってるじゃん」
と呆れた声を出すのは、昨晩おれの頭のなかに出現した恋である派代表の、恋に恋するおれである。このおれはとにかくおれはクロに恋をしているのだと頑として言い張るのである。ひとには多種多様な面があるというがまさかこんな性質までおれの中に存在していたとは思いもよらなかった。悪趣味な夢をみてしまったのはきっとこいつのせいなのだろう。
「違う。勘違いだよ」と頭のなかで言い返せば「じゃあなんでそんなにクロのこと見てるの」とやや面白そうに返される。気付けば恋に恋するおれが言うとおり、おれの目はこっそり、だけど執拗にクロを追いかけていた。ゆるくまるまった背中、目にかかった前髪を鬱陶しそうによける仕草に言いようのない感情を覚える。はて、なんでだっけとしばらくぼんやりしてはっとした。そうだ、短所を探すのだ。
クロの短所。ひとつめは先ほど向けられた意地の悪さである。煽り上手と評されるように、他人の痛いところを突くのがごく得意である。飄々としているとみせかけて結構他人のことをよく見ている。「わくわく顔してる」とからかってきたり、「なんか元気ないじゃん」と絡んできてクロなりに気を遣ってくるときもある。ああ、これでは長所ではないか。気を取り直してふたつめ。それは背が高いことだ。上背があるというのは一般に長所であると思われがちであるが、長短は表裏一体と言われるように短所でもあるのだ。一八七センチの長身は、平均身長がおよそ一七〇センチであるこの島国で暮らすには少々不便である。天井が、ドアが低い。机も洗面台もあらゆるものが低く、また小さい。風呂が狭い。鴨居にぶつかる。駆け込み乗車をすればつり革にビンタを食らう。ぶつからなくてもひょいとのれんをくぐるようにしなければならないこと多数。そのスマートでない仕草におれは幻滅するだろう。洋服を買いに行けばサイズがなく、パンツは腰まわりはどうにかなっても丈が絶対に足りない。そしてなにより大きすぎてどこにいても目立つ。ひとの多いところにクロとふたりでいると、「背の高い子と金髪の子」として見知らぬひとの待ち合わせの目印にされたりする。せっかく目立たないように脱色したというのに良い迷惑である。そしてなにより、恋人たちの理想の身長差は十五センチなのだ。これも昨晩ネットの海において仕入れた知識である。おれとクロの身長差は現在およそ十八センチで、四捨五入すれば二十センチ。理想から五センチもずれてしまう。これは致命的である。クロがでかすぎるばかりにおれとクロは理想のふたりには断じてなれないのだ。ああまこと残念である。
「さっきからなにちらちら見てんだ?」
ふいに、ブロック塀の上の猫を眺めていたクロがこちらを向いた。目が合った瞬間心臓がドキュッとなる。すなわちドッと鳴りキュッと痛んだのである。おれはそれでもクロから視線を外すことができず、たまたまあったゴミ捨て場のコンテナにしたたかな蹴りをかました。胸とはまた異なったタイプの痛みをすねに感じながらも平静を装って反論する。
「なに言ってんの、見てないよ」
ガンガンに見つめながら繰り出す嘘にクロは吹き出した。
「俺がかっこよすぎて見惚れた?」
「意味わかんない。だから見てないってば」
「見てた」
「見てない」
「うそつき」
ぎゃっ。なぜ今、きゅんとなったのだ。早鐘を打つ心臓を落ち着けようとつま先を眺める。不意打ちを食らって狼狽するおれに、恋に恋するおれが熱弁をふるって追撃をする。
「えーっと……身長差など、取るに足らないささいな問題である。だいいちおれはまだ十七歳、育ちざかりだ。まさか一六九.二センチメートルで人生を終えるつもりなの、か? 若干の後ろめたさを隠しながら「身長は(四捨五入すれば)一七〇です……」とみみっちい嘘をつきつづけるつもりなのか? それに、クロと顔を合わせてからたった三十秒足らずでもう三度も、胸キュンの病気の……それもけっこう強めのやつにみまわれている。このペースでいけば、一分間に六回ということになる……けど、計算が面倒なので四捨五入し十回として、一時間で六百回、えー……半日で、七千二百回、そして……一日で……いちま、えっ、一万四千四百回?……におよぶキュンの責め苦にあう計算になる。見つめるどころか考えるだけで苦しくなっているのに、それでもあくまで勘違いだと言い張るのか? さっさと認めて、楽になるほうがいい、のではないか……」



クロが足を止めたのは、あたたかみのあるライトが陳列棚を照らす惣菜コーナーだった。閉店時間が近付いているため、揚げ物の半額セールをしている。
「研磨、コロッケ食うか?」
クロは嬉々としてパックとトングを手に取った。
「うーん、うん」
「牛肉? カニクリーム?」
「えー……かに、かな」
「そしたらサービスで牛肉も入れときますねー」
「うん」
「あれ、いらないって言うかと思った」
「ふーん」
「ふーん、って」
なんかこういうのやばいかも。と、またひどいキュンの病気にみまわれていた。小食なおれは揚げ物ばかりいくつも食べられないのだが、楽しそうにトングを鳴らすクロに見惚れてそんなことはすっかりどうでもよくなってしまっていた。もういくらでも詰めてくれといった心持ちである。気付けばいちばん大きなパックはギチギチになって、惣菜コーナーを買い占める勢いでふたつめのパックに手を伸ばしている。
「そんな顔すんなよ、俺も食うし」
「えクロ、家で食べてきたんじゃないの?」
「ああ、食ってきたよ。けど見たらまた腹減った」
絶句するおれを見てクロは「いや、さすがに一気に全部食おうって訳じゃないぞ? 明日のぶんも一緒」と得意気な顔をした。なるほど。とはいえこんなに揚げ物ばかりでいいのだろうか。きっといいのだろう。総菜売り場を離れてからもクロはやけにはしゃいでいて、一.五リットルのペットボトルやら菓子パンやらを気前よくかごにつっこんでいった。
「母ちゃん菓子パン系厳しいからなー」
「クロが食べすぎるからでしょ」
「ふつうじゃねえ?」
夢と希望とカロリーをいっぱいに詰めた買い物袋は、なんとかひとつにおさまったもののぱんぱんであった。クロは重たいそれをひょいと持ち上げ、「帰るか」と歩き出す。きっとおれがぼんやりしていてもこのまま文句ひとつなく家まで運んでくれることだろう。しかしこれではだめなのだと男気にあふれるおれが言う。
「持とうか。半分」
「お? ん、おお、じゃあ頼む」
半分だけかよ、とは言わない約束である。片方の持ち手を奪い取ると肩に衝撃がはしった。重い。おもにペットボトルとのせいである。決して耐えられない重量ではないがしかしクロに比べて可愛げのある身長であるためたくさん持ち上げなければならず、なけなしの上腕二頭筋に腕立て伏せの三倍に匹敵する負荷がかかる。明日の部活はだめかもしれない。これだから背の高い男は。
「いやー、だいぶ寒くなってきたなあ。こないだまではまだあったかかったのに」
「そうだね」
寒ければもうすこし近付いてくれてもかまわないとテレパシーを送ったが、あいにくおれはテレパスではないしあまり近付くと間にある買い物袋がプレスされてしまう。そういった理由からもどかしい距離を保ち、ビニールをがさがさ揺らして五分ぽっちの道のりを歩く。歩行速度が普段よりずっとゆっくりなのは買い物袋が重たいせいである。クロは歩幅を調整し、亀のようなおれの歩みに合わせてくれる。
こうして一緒に荷物を持っているときっかり並んで歩くことができる。いつもは半歩うしろを歩くクロが今はきっかりとなりにいる。街灯がコンクリートにうつす影はなんというか、あれのようだ。あれというのは―あれだ。となればこれはデートである。誰がなんと言おうと夕飯の買い物などではなくデートなのである。
斜め上にちらと目をやれば、クロもこちらを見た。
「重いなら、俺ひとりで持つけど」
「ううん。大丈夫」
「そっか。ありがとな」
「べつに?」
ビニールをつかむ手にぎゅっと力を込めると、くしゃっと爽快な音が鳴る。おれはまた密かに、キュンの病気を炸裂させていた。


2016/01/16
2016/01/17 差し替えました



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