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08


十二月二十日、私は総司と共に大坂城へ移った。
私たちの護衛として、山崎君も一緒に来ることになった。
松本先生にも診ていただいたけど、総司の傷の具合はなかなか良くならず、眠れない日が続いた。
それから、年が明けてすぐの一月三日。
とうとう、幕府軍と薩長軍の間で戦いが始まったという知らせが、ここ大坂城にももたらされた。
そして……。
大坂城にいた私は、新選組の誰よりも先に、この戦の結末を知ってしまったのだった。


『……総司、身体の具合はどう?って何してんの!』

「何って……、決まってるじゃない。これから、ここで戦いが始まるんでしょ?なら、僕も行かないと……」

『駄目よ!寝てなさい!まだ起き上がれる状態じゃないんだから!それに……、今から行っても、できることはないと思うわよ。』

「どういう意味?僕なんかじゃ、役に立たないって言いたいの?」

『そういうことじゃなくてさあ……』


ここ数日の間の出来事を総司に知らせるのは、勇気が必要だった。
でも、たとえごまかしても……。
勘のいい総司には、きっと見抜かれてしまうだろう。


『……落ち着いて、聞いてね。新選組が守っていた伏見奉行所は、落ちたわ。源さんも……、その時に亡くなったそうよ。』

「源さんが……?」

『…………うん。そして、今回の戦の総大将の慶喜公は、既に江戸に戻ってるとのことで……私たちも、これから船で江戸に戻ることになりそうなの。』

「…………」


明かされた事実のあまりの重さに、総司は絶句している様子だった。
彼は布団の上に力なく座り込む。


「……そっか。源さん、亡くなったんだ。近藤さん、すごく悲しんでたでしょ?」

『……ええ、とても。』


総司はうなだれたまま、独り言のように呟く。


「……僕は、新選組の剣だった筈なのに。」


【新選組の剣】ーー。
彼は事あるごとに、この言葉を口にする。
それは、口癖というよりは一種の呪縛のような響きを帯びているように感じられた。


「もう一度刀を取って戦う為に、変若水まで飲んだのに……結局、肝心な時に役に立たないまま、江戸に戻らなきゃならないなんてーー」

『だけどーー!』


総司の様子があまりに痛々しくて、私は言葉を発せずにいられなかった。
この言葉が彼の心に届いてくれるかはわからないけど……。


『だけど……、総司は私を守ってくれた。幼なじみのこの私を、身を挺して庇ってくれた。私は本当に、総司に感謝してる。あの時、総司がいなければ……私は死んでいたから。』

「千華……」

『それにまだ、土方さんも隊士たちも諦めてないわ。江戸に戻って再起を図るって言ってたし、その頃になれば、近藤さんの傷も良くなっている筈よ。』


総司はしばらくの間、俯いたまま黙り込んでいたけど、やがて……。


「……そうだよね。あれだけ性格も諦めも悪い土方さんが、このままやられっ放しの筈がないし。何より、近藤さんから新選組を預かってるんだから、それぐらいはしてもらわないと。」


総司の表情にようやく余裕が戻ってきた、その時。


「千華。僕の刀を、取ってくれるかな?」


彼の瞳から、投げやりな色が消えたのを確かめて……。


『……わかった。』


私は、刀掛けに掛けてあった刀を取り、総司へと手渡す。
彼は、己の分身たるその刀を大切そうに握り締めながら尋ねてくる。


「ねえ、千華……。僕はまだ、新選組の剣でいられるかな?」


先程も紡がれたその言葉は、私に鈍い痛みをもたらした。
総司の目に映っているのは、近藤さんと……。
近藤さんが作り上げた新選組、ただそれだけ。
それに比べればきっと、彼自身の存在すら取るに足らないものだと思っているに違いない。
そのことは、わかっているけど……。


『……ええ。だから今は、休んでね。戦うべきその時に、刀を取ることができるように。』

「……わかった。千華がそう言うんなら、江戸に戻るまでは大人しく養生するよ。江戸に戻った時、心おきなく刀を振るって、振るってーー近藤さんの邪魔になる奴を、敵を……一人でも多く、斬り殺せるように。」


総司が斬ろうとしているのは本当に、近藤さんの敵、ただそれだけだろうか。
いざという時に動かない己の身体ーー。
あるいは人としての生をも、この刀で切り刻んでしまうつもりではないだろうか。
それが総司の望みであることはわかっているけど……。


『…………』


どうしようもなく胸が痛くて、私は涙をこらえることができなかった。

そしてーー私は総司と共に、江戸へ向かうことになった。









慶応四年一月ーー
鳥羽伏見の戦いが薩長側の勝利で終わり、幕府軍が撤退すると共に
新選組も江戸に向かうことになる。


江戸からあがって皆とずっと一緒にいた場所ーー
彼らと共に日々を過ごした京の町を後にする。

彼が己の生き方に決心をし、私は共に行く道を選んだのだ。



私たちは江戸の地を目指す。
この先の運命がどうなるかわからぬままーー


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