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「#エロ」のBL小説を読む
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24


仙台から戻った私と平助を、土方さんは真っ先に出迎えてくれた。
はっきりと口には出さなかったけど……。
きっと、私たちのことを心配してくれたんだと思う。
事のあらましを報告する私たちを見つめる瞳は、いつもより優しかったから。


「……平助、千華、大義だった。辛い役目を負わせちまったな。」

「いや……、あれはきっと、オレがやらなきゃならねえことだったんだ。……オレも、一歩間違えれば、山南さんと同じ道を歩んでたかもしれねえから。」


平助はそう言って、私を見つめてくれる。
【狂わずに済んだのは、おまえのおかげだーー】
彼の瞳が、そう語ってくれている。
やがて土方さんは、声をわずかに落としながら尋ねてきた。


「……山南さんは最期、どうだった?」

『……最期はきっと人に戻れたんだと思う。【人であるときのことを思い出した】……そう言ってたから。』

「…………そうか……」


土方さんの伏せられた瞳には、悲しげな陰が宿る。
山南さんは、新選組と近藤さんの名を世に出す為に戦い続けていたと言っていた。
その同志を失った土方さんの心痛は、私たちには想像できない程だと思う。
しかもこの後、私たちはーー。
さらに大きな決断をしなくてはならない。


「それでさ、土方さん。オレたちが別行動取ってた間、戦況はどうなってたんだ?」

「それがな……」


土方さんから聞かされた話によると、戦況はかなり厳しいらしい。
一君や島田君をはじめ、隊士たちは期待以上の働きを見せてくれているけれど……。
他の隊は、敗北を重ねているという。


『じゃあ、この後、どうするつもりなの?』

「戦ってるのは、俺たちだけじゃねえからな。
……今は、何とも言えねえ。」

『…………』


おそらく今は、一人でも戦力が欲しい状況なのだと思う。
たとえ、後一度二度の戦いで、身が朽ちてしまう羅刹だとしても。


『…………』


でも私たちはーー、もう決めたんだ。


『土方さん、話があるの。実はーー』

「待てよ、千華。その先を話すのはオレの役目だ。……そうだろ?」


彼はまっすぐに土方さんを見て、きっぱりと告げる。


「土方さん、今、新選組を取り巻く状況がどれだけ厳しいのかは、オレもわかってるつもりだ。」

「…………」

「……だけど、それでも言わせてくれ。ーーオレは新選組を抜ける。こいつと一緒に。」


その言葉を聞いても、土方さんは、動揺一つ見せなかった。
近藤さん、総司、山崎君、源さん、左之さんに新八さん……。
短い間に多くの仲間と別れてきた彼は、平助に静かに問いかける。


「…………新選組を抜ける、か。刀を捨てるつもりか、平助?」

「ああ。オレはずっと、戦い続けてきた。この国のために戦って死ぬのが、武士だって思ってたから。羅刹になってからは、もっとそうだった。戦うこと自体が、オレの生きる意味みてえな気さえしてたよ。オレは戦うために生き返ったんだ、戦うためだけに存在してるんだってさ。」


平助は、今まで歩き続けてきた道を振り返るように瞳を閉じる。
そして再び目を開けて、私を振り返り……。


「……でも、こいつと一緒にいて、わかったんだ。オレは人間じゃなくなったけど……、戦う以外にもできることはあるんだって。」

「…………そうか。そう言うからには、何か目的でもあるんだな、おまえら。」

『うん。私たちはこれから、私の故郷、汐見の里を目指すつもり。その地の水には、羅刹の狂気を抑える力があるかもしれないの。私のじい様の力でも、もしかしたらどうにかなるかもしれない。』

「オレが生き延びる方法があるかもしれねえんなら……全部試してみてえんだ。今のオレは戦って死ぬんじゃなく、生きたいんだ。こいつと一緒に……」

「…………」


土方さんは、静かに目を閉じたまま、考え事をしている様子だった。
きっと、彼の胸の中には、今までの多くの出来事が去来しているのだと思う。
長い沈黙の後、土方さんは、私に問いかけてきた。


「……千華、おまえもそれで納得してるのか?」

『ええ、迷いはないわ。』


私はしっかりと頷いてから、まっすぐに土方さんを見返す。


『今だから言えることだけど……最初はね、ただ傍にいたいだけで皆についてきた。でも、過ごしていくうちに思ったの。皆と泣いて笑って……一緒にいれるこの新選組が、大切なんだって。』

「…………」

『だけど……、平助はもっともっと大切な人なの。そんな彼と、これからもずっと一緒にいたいから……平助が生きる道を、二人で探したい。』

「オレもーー」


口を開こうとした平助の言葉を、土方さんは遮った。


「平助、千華。さっきの報告に間違いがねえんなら、鬼どもがこの戦に関わることはねえんだな?」

『うん。本来なら鬼は、人間の戦いには関わることはないから。』

「鬼は手を引いて、羅刹隊は滅んだか。……じゃあこれ以上、おまえらがこの戦に関わる必要なんてねえよ。平助は油小路で死んだことになってる。鬼の千華も、これ以上戦いに関わる必要もねえ。……好きなように、どこへでも行っちまえ。」


そう言って、柔らかく瞳を細めたその顔こそがーー。
不器用な土方さんの送り出し方なのだと思う。
これから先も、厳しい戦いが待ち受けているというのに……。
彼はこうして、私たちを快く送り出してくれる。
その気持ちを言葉にするとーー。


「土方さん……。今まで、ありがとうございました……!」

『ありがとうございました……!』


ーーこの言葉にしか、ならなかった。


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