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17


その日の夜遅くーー私は平助と共に、白河城下を発った。
人目を避けて山道を上り、会津藩と仙台藩の境にある森を通り抜けようとした時……。
私たちは、意外な人と再会した。


「……まさか、ここで貴様らと相まみえることになるとはな。」

「風間……!どうしてここに……」


すると彼は不快げな眼差しを、仙台城の方角へと向ける。


「目障りなまがい物共が仙台藩の領内を往来していると聞いて、足を向けてみたまでだ。」

『羅刹が……!?』


おそらく、山南さんの仕業に違いない。
仙台藩で起きている騒ぎが、事情を知らない風間の耳にまで届いているなんて。
今、仙台で何が起きているの?
そして山南さんはあの後……、どれだけの人を羅刹へと変えてしまったのだろう?


「もしや、貴様らの仕業ではあるまいな?八瀬の女鬼の言があるから、今まで貴様らに手出しをせずにおいてやったが……もしまがい物を増やしているのであれば、容赦はせんぞ。」

「馬鹿野郎、違うよ!早とちりも大概にしやがれ。」

『平助、落ち着いてよ。風間、気が長い人じゃないから、また戦いになっちゃうじゃない……!』

「……今、何が起きているのかを聞かせろ。なぜ貴様らは、新選組の連中と別行動を取っている?」

『…………』


風間に事情を明かしていいものか、迷ったけど……。
千姫からも言われているし、彼は私たちに危害を加えるつもりはないはずだ。
それに、少なくとも羅刹をこれ以上増やしてはいけないという考えは、私たちと一致している。
これは、賭けだけどーー。


『実は……』


私は風間に、先日の出来事を明かすことにした。


「希少な純血の女鬼を、まがい物に奪い去られただと?貴様らは、一体何をしていたのだ。この役立たずめが!」

「……油断してたんだよ。まさか山南さんが新選組を見限って、あんな真似をするなんて思わなかったし。」

「今、仙台でまがい物を次々に増やしているのは、その山南という男に間違いないのだな?」

『……多分、そうだと思う。』

「それだけわかれば、充分だ。」


風間はそう言った後、私たちに背を向けて歩き出す。


『ちょっと!風間はこれからどこに?』

「決まっている。まがい物の親玉を斬り、手下連中も全員葬り去る。」


風間が言い放った、その時ーー。


「……!」


平助が、何かに気付いた様子で顔を引き締める。


「……気付いたようだな。まがい物にしては、上出来だ。」

「そりゃあな。これだけの殺気に、気付かねえはずがねえだろ。」

『しかも、こんなに血の匂いをぷんぷんさせてるってことはーー』


平助と風間と私は、ほぼ同時に刀を抜き放った。
そしてーー。


「そこに隠れてんだろ!?見え見えなんだよ!」


言うが早いか、平助は草むらの中へと刺突を浴びせる。


「ぐうっ……!」

「まがい物ごときの血で、我が刀を汚すのは気が進まぬがーー貴様らをこのまま生かしておくわけにはいくまいな。仕方あるまい。」

「ぐぁあああっ……!」

『まったく、出て早々にこれとはね……!』

「ぎゃぁあああっ……!」


白い髪に赤い瞳の羅刹たちは、平助と風間と私に斬り捨てられてしまう。


「……こいつら多分、山南さんが放った刺客だよな?」

「だろうな。仙台領に立ち入ろうとする者は全員殺せとでも命じられているのだろう。」

『面倒くさっ……』


その時ーー。


「う、ぐぐ……!お……のれ……!」


先程、平助が斬り捨てた羅刹が身を起こし、再び彼に襲いかかろうとする。


『平助、危ない!後ろ!』

「……!」


平助は刀を構え直すが、羅刹の動きの方が早い。
その時ーー。
鋭い何かが風を切る音が聞こえてきた。


「ぐうっ……!」


羅刹が一瞬、動きを止める。
平助はその隙を見逃さずーー。


「うぉらっ!」

「ぐぁああああっ……!」


今度こそ地面に倒れ、動かなくなった。


「新選組の皆さんの剣の腕は、重々承知しておりますが……【勝って兜の緒を締めよ】という言葉もありますわ。くれぐれも油断なさらず。」

「この声は……」

『君菊さん……!来ていたんですね!』

「ご無沙汰しております、千華さん、藤堂さん。」


江戸を発つ間際、松本先生に、彼女宛の手紙を託したのだけど……。
その後は連絡を取る暇もなかった為、すっかり便りが途絶えてしまっていたのだ。


「仙台市中の状況を調べていたところ、羅刹たちがこちらへ向かうのを見かけたもので。もしやと思い追ってきたら、あなた方の姿をお見かけして……お二人共、ご無事で良かったですわ。」


君菊さんは、私たちの無事を喜んでくれている様子だけど……。
その様子を見ていると、申し訳なさが募る。


『あの……、君菊さん。以前、手紙にも書きましたけど、千姫は……』

「……存じております。ですが、あなた方だけの責任ではありませんわ。私が姫様のお傍を離れずにいれば、あんなことには……」

『そんな、君菊さん……!』

「おまえ一人が居合わせたところで、何ができるわけでもあるまい。分をわきまえろ。」

「っ……!」


風間の容赦ない言葉に、君菊さんは唇を噛む。


「おい風間、いくら何でもその言い方はねえだろ。」

「……お気遣いありがとうございます、藤堂さん。ですが、彼の言う通りですわ。口惜しいですが、私の力では、あの山南とかいう男が使役する羅刹には敵いませんから。」

『君菊さん……』

「貴様が知っている限りで構わぬ、仙台の状況を聞かせろ。」

「あの男……山南は藩主に取り入り、敵兵や、罪人として処刑される予定だった者に己の血を与えーーその者たちを羅刹に変えて、私兵としているようです。おそらく彼の手勢は、新選組にいた頃の数倍……いえ、数十倍に膨れ上がっているかと。」

『…………』


私たちの前から姿を消す時、山南さんは言っていた。
北の地に向かい、そこに羅刹の国を築き上げるつもりだと。
その時は、半信半疑だったけど……。
山南さんはまさか、本気でーー!?


『千姫は?山南さんにさらわれた彼女は、どうしてるんですか?』

「……姫様は今、仙台城に幽閉されているようです。お助けしようと思ったのですが、城は多くの羅刹に守られていて……近づくことすら叶いませんでした。」

『そんな……!』

「姫様は、数少ない純血の女鬼。変若水を飲まされたとはいえ、そう簡単に正気を失うとは思えませんが、体力と精神力がいつまで持つか……」

「……急ぐに越したことはない、というわけだな。薄汚いまがい物の分際で気高い純血の鬼をさらい、羅刹にするとは……山南という男は余程、早死にしたいと見える。」

「私はもう一度、城の様子を探ってきます。望みは薄いかもしれませんが……もしかすると、隠し通路などを見つけられるかもしれませんから。」

「まとまって動くと、また羅刹共に勘付かれちまうかもしれねえな。どうする?千華。」

『そうね……』

「仙台は、羅刹の町となっています。もし向かうつもりでしたら、くれぐれもご注意を。」

「ああ、わかってる。山南さんのことだから、二重三重の罠を仕掛けてあるんだろうしな。」

「何かわかりましたら、すぐにお知らせ致します。それでは、また。」


君菊さんは厳しい声音で言い残し、樹上へと飛び退った。
彼女の姿はあっという間に、黒い木々に隠れてしまう。
やがて風間は悠然とした足取りで、歩き始める。


『風間、どこに行くのよ?仙台の情勢を探るなら、君菊さんが戻ってくるまで待った方がいいんじゃない……?』


風間は、私の言葉など歯牙にもかけない様子で目をそらした後……。
ふと、思い出したように呟いた。


「……貴様らに、一つ教えてやろう。あの山南という男を始末するつもりならば、二日後が好機だ。」

『どういうこと?』

「……二日後の夜、月が中天にかかる刻限、天霧がこの仙台の藩境で騒動を起こす手筈になっている。まがい物共がそちらに気を取られている隙を突けば、城に忍び込むのも容易なはずだ。」


もしかして風間は、私たちに助言してくれている……のだろうか?


「それ、オレたちじゃなくて君菊さんに教えてやった方がよかったんじゃねえか?」

「早合点して勝手に姿を消したのはあの女鬼だ。それに俺は、同じ鬼だからとて慣れ合うつもりなどない。……利用できるものは、せいぜい利用させてもらうがな。」


そう言い捨てた後、風間は今度こそ私たちの前から姿を消してしまった。


「相変わらず、何考えてるかわからねえ奴だな。」

『でも、少なくとも今は風間と敵対する理由がないし。もし味方になってくれれば、すごく心強いと思うけど……』

「……気は許さねえ方がいいと思うぜ。今まであいつにされてきたことを、忘れちまったわけじゃねえだろ?」

『それは、わかってるけど……』

「とりあえず、仙台の町にもう少し近付いてみるか。日が出てからだと、動くのが辛くなっちまうからな。」

『……そうね。』


私たちは頷き合い、風間が姿を消した方角へと走り出したーー。


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