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三月に入ってから十日程経った頃、一つの知らせがもたらされた。
新選組の皆が、甲府での新政府軍との戦に敗れたというのだ。
後に、それは誤報だということがわかったのだけど……。
それでも、厳しい戦いだというのは以前土方さんから聞かされていたから。
私たちは緊張しながら、隊士たちが戻ってくるのを待っていたのだった。
そして……。


「ふう……、ようやく着いたか。」

「今回ばかりは、さすがに死ぬかと思ったぜ。」

「新八っつぁん、左之さん!無事だったんだな!」

「ああ、見ての通りだぜ。」

『戻ってきたのは、二人だけ?他の隊士たちは……』

「撤退する時、ばらばらになっちまってな。他の隊士連中も、そのうち戻ってくるはずだぜ。……生きてりゃあな。」

「ってことは、やっぱり戦には……」

「……全部、近藤さんがいけねえんだよ。あの人がいなきゃ、負け戦にはならなかったはずなのにな。」

「……俺も、新八と同じ意見だ。今回ばかりは、さすがに頭抱えちまったぜ。千華があの場にいりゃ、どうにかなったのかもしれねえがな。」

『……え、私?』


新八さんも左之さんも、相当不満が溜まっている様子だけど……。
一体、甲府で何があったのだろうか?


「平助、土方さんはもう戻ってきてるのか?」

「まだだけど……甲府で何があったのか、一応、山南さんに知らせておいた方がいいんじゃねえかな。山南さんも、戦のことは気になってるはずだから。」

「……だな、そうするか。」


新八さんと左之さんは疲れたため息を吐き出しながら、山南さんの所へと向かった。


***


「……なるほど。状況はよくわかりました。」


新八さんや左之さんから明かされた甲府での戦の顛末はーー。
土方さんが出立前、予想していた以上に、悪い結果となってしまったようだ。
近藤さんが故郷の日野に留まって連日酒宴を開いていた為、行軍が遅れてしまい……。
新政府軍に、一足先に甲府城を押さえられてしまったらしい。
しかも敵方は、鳥羽伏見の戦で薩長軍が使っていたのと同じ新型の銃を使っていたという。
その為、新八さんや左之さんは撤退を進言したのだが……。
近藤さんは、その意見に耳を傾けようとはしなかったとのことだ。
その為、多くの隊士が命を落としてしまったらしい。


「もう、あの人とはやっていけねえよ。近藤さんは、大将の器じゃねえ。」

「ああ。あの調子で指揮を取られたんじゃ、命がいくつあっても足りねえぜ。」

「……別に、新選組にいなきゃ薩長と戦えねえってわけでもねえしな。」


その言葉に、私と平助は思わず顔を見合わせる。
もしかして、新八さんたちはーー。


「早まらないでください、と言いたいところですが……すでに心が離れている人を、無理に引き留めることもできませんね……お好きにどうぞ。ただ、無断でここを出て行くことだけは控えてくださいね。」


山南さんはそう言い残し、自分の部屋へと戻ってしまった。


「……なあ、新八っつぁん、本当に出て行くつもりなのか?」

「一応、近藤さんが戻ってきた後、話はするつもりだけどな。」

「左之さんも?」

「近藤さんたちには世話になったし、恩返ししてえ気持ちはあるんだが……これから先もあんなことを繰り返されたんじゃ、隊士連中にも申し訳ねえしな。」

『…………』


今後の近藤さんとの話し合い次第だと、言っているけれど……。
既に二人の心は、ほぼ決まってしまっているらしい。


「……平助、おまえも俺たちと一緒に来ねえか?」

「えっ……?」

「はっきり言っちまっていいんだぜ。飲みたくもねえ変若水を飲まされて、羅刹になんてされちまって……さすがにもう、あの人たちにゃ付き合いきれねえだろ?」

「……このままここにいたらどんな無茶を言いつけられるか、わかったもんじゃねえしな。」

「オレ……」


仲が良かった新八さんや左之さんの申し出に、平助は揺らいでいる様子だった。
少しの間、視線をさまよわせてたが、やがて唇を引き結んでーー。


「……気持ちだけ、受け取っとくよ。」

「平助、おまえ……」

「二人共、誤解してるみてえだけど、オレ、無理矢理変若水を飲まされたわけじゃねえから。死にそうになった時、山南さんに、どうしても生き延びてえかどうか聞かれて……あの薬を飲むって決めたのは、オレだから。近藤さんたちのせいじゃねえ。それに、羅刹になっちまったオレが新選組を離れるなんて、できるはずねえだろ。」

「そんなの、俺が土方さんに掛け合ってどうにでもしてやるって。」

「……いいんだ。あの時せっかく拾った命だから、この命で何ができるのか……ここでもう少し考えてみてえから。」


新八さんも左之さんも、納得いかない様子だったけれど……。


「ったくおまえは、頭が足りねえくせに妙に一本気っつうか……」

「それ、左之さんにだけは言われたくねえぞ!」

「何言ってやがんだよ。せっかく誘ってやったのに、俺たちの好意を足蹴にしやがって。」

「まあ、こんな薄情者のことはさっさと忘れちまおうぜ。勝手に一人でくたばりやがれってんだ。」

「ひっでえ言い草だな。何なんだよ、もう……!」


私は三人のやり取りを、ふすまに寄りかかって微笑をうかべて見つめていた。
肩にすり寄ってくる銀狼を撫でながら目を細める。


「ところで千華、何か食う物ねえか?ずっと歩き通しだったから、腹が減っちまってよ……」

『待っててね。夕飯の残りがあるから、用意してくるわ。』

「うはっ、気がきくじゃねえか!当然、酒もついてるんだよな?」

『……お酒は駄目よ。』

「何だよ、固いことは言いっこなしだろ。せっかく生きて帰ってこられたんだし。」

「そうそう。ちょっとぐらいならいいじゃねえか……こうやって新八っつぁんたちと呑めるのも、今のうちだけかもしれねえんだしさ。」


こんな風に頼まれると、私も断りきれなくて……。


『……少しだけだからね。皆、鬱憤が溜まってるみたいだし、騒ぎになったりしたら私が土方さんに怒られるんだから。』

「ありがとよ、千華!」


その夜、平助たちは遅くまで楽しそうにお酒を呑んでいた。
皆、明るく振る舞っていたけど……。
近いうちに訪れる別れを、予感している為だろうか。
時折、平助が寂しげな表情を浮かべているのが気にかかった。


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