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- ナノ -
06


江戸に戻ってきた新選組は、とある旗本の方の屋敷を屯所として借り受けることになったのだが……。
私たち幹部隊士は、屯所を空けることが多くなった。
土方さんは怪我の治療中の近藤さんの代理で、幕府の重臣の方と連日話し合いをしているし……。
総司も体調が思うように回復せず、少し前から隊を離れて療養している。
新八さんや左之さんは、千鶴や新人の隊士を連れて呑みにいくことが多くなった。
私も土方さんに命じられて使い走りや、情報を集めに出かけることが多い。
皆が思い思いに屯所を空ける中ーー。
羅刹隊の人たちだけは屯所に押し込められ、外出もままならぬ日が続いていた。
仕方がないこととはいえ、不満が溜まってしまうのでは……。
内心心配していたのだが山南さんたち羅刹隊の人たちは今のところ大人しく指示に従っている様子だ。
だがこれは、今後起きる大嵐の前触れなのではないだろうか……。
そんな不安が、どうしても拭えなかった。

そんなある日のことーー。


「雪村君、少々よろしいですか?」

「……はい、何でしょう?」

「おや、汐見君もいたのですか。」

『こんにちは、山南さん。』


私と広間でお茶を飲んでいた時、突然声をかけられ、千鶴は恐縮しながら返事を返す。


「確か君の家は、江戸の外れにあるのでしたね?よろしければ、私を案内してはくれませんか?」

「私の家を……ですか?」

「綱道さんは江戸にいた頃から、幕府の密命で変若水の研究を行っていたと聞きます。……もしかすると君の家に、羅刹に関する資料が隠してあるかもしれませんからね。」

「あ、そういえばーー」


もし羅刹の吸血衝動を抑える方法や、羅刹を元の人間に戻す方法を見つけられるとしたらーー。
平助も、これ以上苦しい思いをしなくてもよくなるかもしれない。
だけど……。
果たして、山南さんの言葉を鵜呑みにしてしまってもいいのだろうか?
江戸に帰ってきてからというもの、彼は何だか様子がおかしい。
含みのある視線で私をじっと見つめていることもあるし……。


「汐見君、どうしたのです?」

『あ、いや、別に……』

「山南さん。外出するのでしたら、まず土方さんにお許しを頂かなくては……」

「本人がここにいれば、すぐに確認を取るのですがね。土方君は連日の会議で、なかなか屯所へ戻ってこないと聞いてます。それにーー変若水の毒を消す方法があるのなら、一刻も早く手に入れたいでしょう?……その方法を見つけ出せば、藤堂君を苦しみから解き放つことができるのですから。」

『……!』


確かに、山南さんの言う通りーー。
平助や羅刹となった隊士たちを苦しみから早く解き放ってあげたいというのは、本音だけど。
でも、山南さんと千鶴を二人きりで出かけさせるのは……ちょっとなあ。


「……どうかしましたか?悩むことではないと思いますが。」

「い、いえ、その……」

「……土方君のことで心配なら、汐見君も一緒についてきてもらいましょう。」

『え……?』

「汐見君が一緒なら、土方君も安心するでしょう。汐見君だって、情報集めに出かけてますから江戸の事には詳しいでしょうし。」


確かに、そうかもしれないけど……。
私と山南さんと千鶴、三人で行くのもなあ……。


「……どうしました?」

「……江戸に詳しいって言っても一部分だけだし、昔とは随分変わっちまったからな。途中で迷っちまうんじゃねえかって、不安がってるんだろ。」


この声はーー。


「だよな、千華?」

『平助!……いつからそこにいたのよ?』

「んー、そりゃ、ついさっきから。山南さんがやけに熱心に話してるから、出ていきにくくてさ。」


冗談めかした口調で言った後、平助は山南さんの方を振り返る。


「つうことで、オレも一緒に行っていいか?山南さん。」

「……君が、ですか?」

「オレ、この間江戸に来た時、綱道さんの診療所を訪ねてるから道案内できるしさ。」


そういえば、平助は隊士募集の為江戸に来た時、千鶴の家の様子も見てきてるんだっけ。
【この間】というほど最近の出来事ではないけど……。
おそらく、山南さんに納得してもらう為の方便だろう。


「……なるほど。ではせっかくですし、ご案内願いましょうか。」

「おう、任せてくれよ。そんじゃ行こうぜ、千華、千鶴。支度してこいよ。」

「うん、ありがとう平助君。」

『ありがとう。』


平助の優しい気遣いに、私は頬を緩めた。
そして千鶴と顔を見合わせて支度をしに、一旦自室へと戻るのだった。


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