04
「はあ……。また振られちゃったか。」
『……ごめん。せっかく誘ってくれたのに。』
「ううん、いいのよ。あなたがここにいたいって言うのなら、無理強いはできないもの……それより、教えて欲しいことがあるの。前にあなたが言ってた【気になる人】って、土方さんのことなの?」
『えっ?あ……』
千姫に改めて問われ、私は困惑してしまう。
『えっと、その……ほら、土方さんとは江戸にいた頃から一緒だったからさ……』
私は精一杯、私の目に映る土方さん像を語った。
『土方さんは【鬼の副長】なんて呼ばれてるくらいで、隊士たちに対してもすごく厳しいし、冷たいと思われてることも多いけど、でも……本当はすごく情け深い人だからさ。色んな物を背負ってるから、厳しくならざるを得ないだけで……私なんかに何ができるって言われたら幹部として動くぐらいだけど、でも、近くにいたい……、そう思うの。』
「それって……、完璧に捕まっちゃってるじゃない。」
『……え?』
何のことかと目を瞬く私に対して、千姫は微笑んで言葉を続ける。
「私のご先祖様に当たる鈴鹿御前も、坂上田村麻呂って人間の男に恋をして京までついて来たんだって……その子孫が、私。だからあなたの気持ちは、私にもわかるつもりよ。どんな事情も立場も、恋の前には無力だもんね。」
『えっ?えっ、えっ……!?いや、あの、千姫、恋って、そんな……!私は別にそういう意味で言ったわけじゃ……』
だけど千姫は、私の肩に手を添えながらこう言ってくれる。
「人と鬼っていう立場の違いはあるけど……うまくいかないって決まったわけじゃないもんね。頑張ってね、千華ちゃん。応援してるから。」
「……姫様、そろそろ参りませんと。」
「あっ、そうね。それじゃ千華ちゃん、元気でね。……風間は本当に手強い鬼だから、気を付けて。もし何かあれば、いつでも知らせてちょうだい。私と連絡を取りたい時は、角屋に手紙を届けてくれればいいわ。」
『うん、今日はありがとう。それじゃ……』
千姫と君菊さんは、足早に伏見奉行所の前を離れて行った。
……どんな事情も立場も、恋の前には無力、か。
でも、この気持ち……、土方さんの傍にいたいって気持ちは、本当に【恋】なんだろうか。
私自身にも、よくわからないけど……。
今はただ傍にいて、何か役に立てたらって思ってる。
……それに、土方さんにとって一番大切なのは、自分の手で作り上げてここまで大きくした新選組だもの。
これから薩長との戦が始まるかもしれないのだから、他のことなんて考える余裕はない筈。
だったら私も……新選組幹部として、できることはやらないと。
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