×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
44


二股口から箱館に戻った後、土方さんは弁天台場を訪れた。
弁天台場は、海を埋め立てて作った要塞だという。
元々は外国船の襲来に備え、幕府が設置していた砲台らしい。
土方さんが今日こうして、ここに足を運んだのは……。


「お久し振りです、土方局長!」

「よう、調子はどうだ?」

「変わりありません。いつ新政府軍が来ても、返り討ちにしてやりますよ!」

『……皆、無事でよかったよ。』

「何言ってやがるんだ。まだ戦いは始まってねえんだから、無事に決まってるだろうが。なあ?」

「そんな……心配してくださって、ありがたいです。」


相馬君優しい…!
出来た子だわ、本当に!


「汐見君も、元気そうでほっとしましたよ。どうですか?調子の方は。」

『……うん。変わらず、傍に置いてもらってるかな。島田君にはかなわないけど、私も頑張って土方さんを助けてるから。』

「……いや、君には誰もかないませんよ。」

「確かに。土方さんに勝てるのは、汐見先輩だけですからね。」

『えっ……そうかなあ?』

「おまえら、その辺にしておけよ。こいつがこれ以上調子に乗ったら、どうするんだ。」

『ちょ、調子に乗るって何よ……!』

「これは、申し訳ありません。つい……」


ひとしきり笑いが起こった後、土方さんは不意に相馬君へと視線を移す。


「……相馬。」

「はい、何でしょう?」

「例の絵、ありがとよ。」

「礼には及びません。井吹もきっと、喜んでると思います。」

「……そろそろ俺も、背負った荷物を下ろす頃合いなのかもしれねえな。後のことは、よろしく頼むぜ。」


その言葉に、相馬君の表情がこわばった。
土方さんの言葉にただならぬ気配を感じたのか、彼はぎこちない表情で問い返す。


「あの……、それは一体、どういう……」


だけど土方さんは優しい眼差しで、相馬君を見つめているだけ。
そんな彼の様子から、何かを読み取ったのか……。


「……わかりました、お任せください。」


相馬君の言葉に、土方さんは満足げに頷いた。


「島田。大鳥さんを呼んできてくれるか?話がある。」

「わかりました。少々お待ちください。」


島田君が大きな身体を揺らして立ち去った後、空からピュ〜ッと聞き慣れた鳴き声が聞こえた瞬間。

バシッ!


『いだ!?』


私の顔面に何かが叩きつけられた。
前にも似たような事があったな…と思いながらそれを見ると見慣れた文で、私は上空を見上げた。
いつものように里からの文を銀狼が届けてくれたようだ。


『こんな遠いところまでご苦労さん。』


私がそう声をかけると、銀狼は私の肩に降りてきて、ブスブスとくちばしで私の頭をつついてきた。

言おう。
めちゃくちゃ痛い。


『いだだだだ。ごめんって、本当にありがとう。』


その背を撫でると銀狼はピェ〜と鳴いて私の頭にすり寄ってきた。
それを見ながら文を懐へとしまう。


「里からか?」

『うん。いつものことだよ。次期頭領は忙しいからね。』

「……そうか。」

『何その疑いの目は!』


私と土方さんのやり取りを相馬君が笑ってみている。
そんなことをしていると、島田君は、大鳥さんと共に再び姿を現す。


「……すまない、土方君。松前口を落とされてしまったのは、僕の力が及ばなかったせいだ……」

「勝敗は兵家の常、ってな。過ぎたことを言っても始まらねえよ。あれは、兵を分散させたのが悪かったんだ。数に勝る新政府軍を迎え撃つなら、台場と五稜郭に戦力を集中させるべきだろ?」

「弁天台場は、我々にお任せください。この命をかけて守り抜きます!」

「そうです!【誠】の旗がある限り、俺たちは土方さんと共に戦い続けます!」

「……馬鹿なことを言ってんじゃねえよ。ここの指揮官は大鳥さんだってことを忘れるな。」

「今回は、僕も【誠】の旗を掲げるよ。……それなら、何の問題も無いだろう?この旗が折れてしまわない限り、僕らも負けないような気がするんだ。僕は負け続きだけど……、志は、最後まで折りたくないからね。」


大鳥さんの覚悟に、私の肩にいた銀狼はピュ〜ッと鳴いた。


「陸軍奉行が縁起をかつぐのか?しっかりしてくれよ、大鳥さん。」


ふと気づけばいつの間にか、その場の皆が笑顔になっていた。
ただ言葉を交わしているだけで、不思議と心が通い合うようだ。


「大鳥さん、島田、そして相馬。弁天台場を頼む。」


土方さんは静かに笑むと、踵を返して歩き始めた。


『……ご武運を。』


私も彼らに頭を下げ、銀狼を連れて土方さんの後を追おうとした。
その時ーー。


「汐見君!土方さんを頼みます!」


慌てて後ろを振り返ると、島田君の真剣な表情が目に入る。
この戦が始まってから……私は幾度となく、この言葉をかけられた。


『……ええ。できる限りのことはするわ。散っていった皆の分も、命をかけて。』

「身体を張る必要はありません。君には、土方さんの心を守ってほしいんです。」

『心を……?』

「土方さんは強い方ですが……、その強さの裏で、一人苦しむ方でもあります。傍で支える人間が必要です。……俺は、それが汐見君だと思っています。」


土方さんを、傍で支えたい。
それは私自身の望みでもある。
でも……。


『私に、できるかな……』


差し迫った戦いの凄絶さを思うと、不安になってしまう。


「何を言ってるんですか!汐見先輩以外に、できるはずがありませんよ。」

「相馬君の言う通りです。あの人が誰より心を許しているのは、君ですから。」

『……うん。』


私が、土方さんの心を支えよう。
土方さんの傍にいられるのは、今はもう私だけなのだから……。

決意を込めて、私は大きく頷いた。


[*prev] [next#]
[main]