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大鳥さんから連絡が届いたのは、松前藩が陥落してすぐのことだった。
松前藩は、蝦夷地を治めている。
土方さんたちが蝦夷地で活動するなら、真っ先に平定しなくてはならない土地だ。
私は大鳥さんから受けた指示通り、ロシアの商船に乗って海を越えた。


「やあ、汐見君。」


箱館の町に辿り着いた私を、大鳥さんは自ら出迎えてくれた。


『このたびは便宜を図って頂き、本当にありがとうございました。』


私はぺこりと頭を下げる。


『それから……』


私は、船の中で聞いたばかりの言葉を口にした。


『蝦夷共和国の樹立、おめでとうございます。』

「共和国なんて、大げさな呼び名だけどね。」


旧幕府軍は、この蝦夷地に共和国を築いたのだ。


「細かな人事を決める選挙も終わったし、ようやく君を呼び寄せることができるようになったよ。」

『選挙……?』

「君は、初めて聞く言葉かな?選挙っていうのはね……」


【選挙】とは、アメリカなどで行われている政治の方法で……。
全員が一票ずつ入れ札を持ち、票の多さで誰が権限を持つべきかを決める仕組みらしい。


『将軍公を、皆で決めるんだ……!』


そんな政治の仕方があるなんて、今まで聞いたことがなかった。


「共和国の総裁は、榎本さんに決まったよ。皆を取りまとめられるのは彼しかいないしね。」


大鳥さんは陸軍奉行に就任して、土方さんも陸軍奉行並となるらしい。


「……待っているだけの三ヶ月間は、やっぱり長かったかな?」

『……まあ。』


しばらく里に戻って次期頭領としての仕事を片付けたり、何やかんやしてたからあっという間だったっていうのは言えない。
でも……。
三ヶ月で松前藩を降伏させたという事実は、旧幕府軍部隊の精強さを物語っている。
訃報続きのこの戦で、明るい知らせとも呼べるものだった。


「蝦夷に来てから、土方君は少し変わったよ。」

『えっ……?』

「部下たちにはとても優しくなったけど、自室に閉じこもっていることが多い。そういう時は、決まって物思いに沈んでいてね、傍に誰も寄せ付けようとはしない。」

『…………』


あの土方さんが……。

驚いて押し黙っていると、大鳥さんは不意に懐から一通の書状を差し出した。


「きっと、彼には君が必要なんだよ。」

『私が……?』


熱いものが、胸の奥から込み上げてくる。


「この書状は、僕からの辞令だよ。細かいことは土方君に渡せばわかるはずだから。」

『……ありがとうございます。』


私は彼から書状を受け取ると、もう一度、深々と頭を下げた。


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