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01


慶応三年十二月中旬ーー。
王政復古の大号令を切っ掛けに、薩摩と長州の軍が京に集まりだしていた。
それと同時に、徳川幕府に関わる人たちは朝廷や京から閉め出され始める。
それが不満だったのだろうか。
江戸から徳川幕府の大勢の軍勢が京に上がってきているらしい。
その軍勢を迎え撃つために、薩摩長州も軍勢を京に集め始め……幕府と関係は一触即発となっていた。
新選組は幕府の軍勢を補佐するため、京都守護職の要請により伏見奉行所に入ることになった。
いざという時の為、全ての人員や装備を伏見奉行所入りさせるということで、千鶴も私たちに同行した。
そんな矢先のある日のことーー。


「おい、大変だ!近藤局長が、何者かに狙撃されたぞ!」


その一報が、伏見奉行所へと届けられた。
目撃者はおらず、犯人の正体や目的も明らかになっていないらしい。


「ふざけんじゃねえ!誰が撃ちやがったんだ!行くぞ!手の空いてる奴は俺についてこい!千華、おまえも頼む!」

『うん!』


白い羽織の新八さんと私は多くの隊士を連れて近藤さんが狙撃されたという場所に向かった。

近藤さんが撃たれたのは右肩だった。
弾は貫通していたものの、骨は砕かれ、屯所での応急処置ではすまない有様だった。
私が広間で千鶴と一緒に片付けをしていると……。


「……おや、汐見君。ここにいたんですか。雪村君もまだ起きていたんですか?」

「あっ、山南さん……ここに、何かご用ですか?もしこの後ここをお使いになるのでしたら、空けますけど……」

「いいえ、構いませんよ。君にも同席してもらった方がいいでしょう。」

「えっ……?」

「汐見君、あなたも。捜していたんですよ。」

『え、何かあったの……?』


山南さんの言葉に、言い知れぬ不安を抱いたその時。
主立った幹部隊士が、続々と広間に入ってきた。

……これから、何を話し合うつもりなんだろう?

胸騒ぎが、次第に大きくなる。


「……皆、揃ってるみてえだな。」

「沖田君の姿が見当たらないようですが……」

「あいつにゃ、聞かせる必要はねえ。もし総司に渡しちまったら、身の危険を顧みずに近藤さんの仇を取りにいくに決まってるからな。」

「……それが彼の望みならば、そうさせてあげるべきなのでは?土方君は相変わらず、優しすぎますよ。」

「…………」


確かに総司なら行くかもね。


「俺たちに、一体何の用なんだ?いつ戦が始まるかもわからねえ今、わざわざ呼び出したってことは、まさかーー」

「その、まさかですよ。君たちに、どうしても渡しておかなくてはならない物がありまして。」


山南さんはそう言って、傍らにある風呂敷包みをほどいた。


「『……!』」


中から出てきた物を目にして、私と千鶴は思わず息を呑む。


「それは……、変若水ですか。」

「……その通りです。我々は新選組幹部としてこの薬の研究を受け入れーー今まで実験を続けてきたことについて、最後まで責任を取らなくてはなりません。何より、近藤さんのように怪我をして剣を振るえなくなったりーー最悪の場合、命を落とすことだってあり得るのです。この薬はそんな時、必ずや役に立ってくれる筈です。」

「……山南さん。あんた、俺たちを薬の実験道具にしようってのか?」

「今の状況で、幹部隊士の誰か一人でも欠けては困ると言っているだけですよ。」

「ふざけんじゃねえ!俺はこんな薬に頼ってまで、生き永らえたくはねえぜ!」


新八さんは憤慨した様子で言い捨てて、広間を後にした。


「……お守り代わり、ってところかね。この薬を飲むような状況にならないことを祈りたいが。」


源さんはそう言ってびいどろの小瓶を手に取った。


「……お借りします。」

「ま、使うことはねえと思うが、一応受け取っとくぜ。」


一君、左之さんも小瓶を懐へとしまい込む。


「……土方君。」


土方さんはそれまで無言のまま腕組みをしていたけど、やがて……。


「責任を取らなきゃならねえ、か。……ま、確かにその通りだよな。」


苦い表情で呟いた後、薬に手を伸ばし、それを着物の袂へと入れた。

私は……いらないか。
鬼だし。
致命傷を与えられない限りはそんな簡単に死なないし。

……と思っていたんだけど。


「汐見君、あなたも持っていた方がいいでしょう。いつかのために。」


山南さんにそう言われて、私は土方さんをチラリと見た。
苦い顔で頷く土方さんを見た後に、他の皆を見るとやっぱり苦い顔をしていた。

よほど私に持たせたくないのか。


「千華ちゃん……」

『……わかった。』


心配そうに私を見る千鶴に、曖昧な笑みを浮かべて薬へと手を伸ばし着物の袂へといれた。

使わないことを祈るしかないな。


「それでは、今夜はこれで解散とします……私の好意が無にならないよう、祈っていますよ。」


山南さんの言葉を聞き届けた後、幹部隊士たちは散り散りに広間を後にした。
やがて山南さんは、千鶴の方を振り返りーー。


「……雪村君。わかっていると思いますが、今夜のことは、他の隊士には決して口外しないように。いいですね。」


山南さんは最後に釘を刺した後、広間を後にした。
私はそれを見送って着物の袂に入っている薬を着物の上から握りしめる。

まさか、あの薬が幹部隊士の手に渡るなんて。
もし……もし彼らがあの薬を飲むことになってしまったら……!


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