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- ナノ -
25


日光に向かう途中の、森の中。
宇都宮まであと少しという所で、事件は起こった。


「まさか、宇都宮を新政府軍に押さえられてしまうとは……予想外だった。」


大鳥さんと土方さんが、陣の中で合議を重ねている。


「押さえられたっていっても、単に、錦の旗にびびって恭順した口だろ。奴ら以上の力を見せつけてやりゃ、すぐこっちに尻尾振ってくるさ。……節操のねえ連中だからな。新政府軍に寝返った奴らの城なんざ、落としちまって構わねえだろ?歩兵奉行さんよ。」

「僕は別に、戦うことに反対してるわけじゃない。ただ、小山で戦っていた中軍、後軍はまだ合流しきれていない。彼らが追いつくまで、待ってくれと言ってるんだ。城を落とすというのは、戦略的に愚の愚とされている。今はーー」

「……そりゃ、どこのありがてえ操典の孫引きだ?お得意の西洋砲術か?」

「これは、西洋だけの常識ではない。孫子の兵法にだって同じことが書かれている。上兵は謀を伐ち、その次は交を伐ち、その次は兵を伐ち、その下は城を攻む。つまり、やむを得ない時を除いて城を攻めるというのは愚かだと説いているんだよ。愚を犯すのであれば、せめて自軍を最良の状態にして、確実な勝利を目指さなくては……」


めちゃくちゃ居心地が悪い。
二人の会話にヒヤヒヤする。

すると土方さんは、大鳥さんの言葉をさえぎるように切り返す。


「兵は拙速を聞くも、未だこれを巧みにして久しくするを見ざるなり。戦ってのは時間をかけて上手くやるより、多少下手でも、素早くやれってことだ。……これも孫子の兵法に書かれている言葉だぜ。」

「……土方君、話を混ぜっ返さないでくれ。中軍、後軍が我々に追いつくのに、何十日もかかるわけじゃない。あと少しだけ待ってくれと……」

「のんびり後続部隊を待っているうちに、敵の援軍が来ちまったらどうするんだ?あの射程の長い化け物銃を持った薩長の連中がやって来やがったら、勝てる見込みはなくなっちまうぜ。」

「それは……」


土方さんの言葉に、大鳥さんは口ごもる。
それを好機と見て、彼は、さらにこう言い放った。


「機を逃すくらいなら、俺が先鋒軍だけで城を落としてやるさ。」

「それは……、危険だ!そんなの戦争ではない、ただの自滅だ!」


大鳥さんは声を荒げて反駁するが、土方さんは最初から、彼の意見を聞くつもりはないらしかった。


「ま、黙って見てろよ。明日、日が暮れるまでには宇都宮城を落としてやるさ。」


その瞳は好戦的な光をたたえ、ぎらついている。
……いや、好戦的というよりは、自暴自棄って言う方が正しいのかもしれない。
こんな状態で戦ってしまって、本当に大丈夫なのだろうか?

私の胸からは、不安が消えなかった。


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