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その後、土方さんたちは近藤さんの助命嘆願の為、寝る間を惜しんで、幕臣の方々の所を走り回った。
だが旧幕府側は新政府を刺激したくないらしく、土方さんの願いは、なかなか聞き入れられなかった。
しかも、ようやく出た助命嘆願の書類を届けに行った相馬君も、近藤さんと共に、囚われの身になったという。
そして、来る四月十一日ーー。
新政府の代表と旧幕府の全権大使との間で交渉が持たれ、江戸城は新政府軍に明け渡されることとなった。
だが、戦はまだ終わっていない。
私たちは、一足先に江戸を離れ、伝習隊を主体とした旧幕府軍と合流することになった。

土方さんはようやく私たちと合流し、旧幕府の方々と共に、北へと向かうことになった。
一君が率いる新選組本隊は、羅刹隊を監督する為、会津へ先行していた。
市川を出た私たちは、日光を経由し、会津を目指している最中なのだけど……。


『…………イライラする。』


せっかく、味方の軍と合流できたというのに……。
恐怖と好奇の視線を向けられ、居心地悪いことこの上ない。


「……あいつらが、人斬り新選組か。」

「ああ。気に入らなきゃ仲間さえ斬り殺す、狂犬の集まりってうわさだ。目を合わせないほうがいいぜ。どんな難癖つけられるか、わかったもんじゃねえ。」


近くを行軍している幕府兵たちが、ひそひそとうわさ話をしているのが耳に入る。


「……口さがない連中ですね。黙らせてきましょうか?」

「……やめておけ。言いたい奴には、言わせときゃいい。千華、おまえもいちいち反応してんじゃねえよ。」


土方さんは島田君の方を振り返ろうともせず、いつもより一際不機嫌な口ぶりで言った。


『だってさあ……!ってか土方さん、大丈夫?顔色が良くないみたいだけど。』

「……大したことはねえ。」


その顔面は蒼白で、今にも倒れてしまいそうに見えた。
羅刹と化した土方さんにとって、昼の行軍は何にも増して苦痛のはずだ。
近藤さんのこともあるし……、いつもより神経が尖って見せるのは仕方ないことかもしれない。


「あっと、ああ、そこ、通してくれる?悪いね。よっ、と……」


後ろを行軍していた人が他の幕軍兵を押しのけながら、こちらへとやって来る。


「初めまして、君が土方君かい?君たち新選組の名前は、僕たちの間でもずいぶん鳴り響いているよ。」

「……何だ、あんたは。」

「ああ、自己紹介がまだだったね。僕は、歩兵奉行の大鳥圭介。伝習隊の指揮を任されている。新選組の皆さんには今後、色々と世話になると思う。よろしく頼むよ。」


彼は人懐こく笑いながら、右手を差し出す。
歩兵奉行と名乗っているけど……。
武士というよりは、豪商の子息とでもいった方がしっくりくる、愛想のいい人だ。

土方さんとは大違いだね!

私の考えていることがわかったのか土方さんは私を睨みつけてから、冷ややかな眼差しのまま、差し出された手を見つめた。


「あっ、と……、手袋を外すのを忘れていたな。」


大鳥さんは慌てて右の手袋を外し、再度、手を差し出した。


「……何だ?金でも恵んでくれってのか。」

「シェイクハンド、だよ。知らないのかい?欧米での、挨拶のようなものだよ。」


大鳥さんは愛想笑いを浮かべたまま答えるが、土方さんは興味なさそうに視線をそらす。
彼はしばらく右手を差し伸べていたけど、やがて無言で手袋をはめ直した。


「大鳥さん。副長に、何かお話があったんじゃないですか?」

「ああ。是非、新選組の副長から直々に、京での、とくに鳥羽伏見の話を聞かせてもらいたいと思ってね。」

「俺から聞くより、尾ひれのついたうわさでも追っかけた方が楽しいんじゃねえか。……お喋りな連中が多いみてえだしな。」

「いやぁ、これは申しわけない。軍備は整えたんだが、軍紀の方はまだ末端の兵にまで行き届いていなくて。……とりあえず、この軍の編成について説明しよう。旧幕府軍脱走隊の約三千人が、先鋒・中軍・後軍に別れている。僕は、その総督を任されているんだが……」

「総督?つまり、あんたが総大将ってことか。」

「一応、そういうことになるね。」


大鳥さんの言葉に、土方さんは、尚更うんざりした表情になる。
大鳥さんを近藤さんの代役に考えるには、あまりにも落差が大き過ぎると思っているのだろうけど……。
だけど大鳥さんはそんな反応も予想していた様子で、平然と話を続ける。


「先鋒は、桑名藩、会津藩を主体とした部隊。そして中軍は、僕たち伝習隊が主体としている。後軍は、旧幕府回天隊が中心だ。僕は、この先鋒軍の参謀に土方君を推薦しようと思っている。どうですか?」

「……どうして、俺なんだ?」

「僕は実戦経験があまりないから、優れた先達に従おうかと思ってね。それに、新選組の土方君の名前は、敵にも味方にも知らない者はいない。先鋒軍には、うってつけの指揮官だ。」


大鳥さんの得意げな言葉にも、土方さんは無言のままだ。
とにかく反りが合わないらしく、目の前の相手が煙たくて仕方ないという内心が、あからさまににじみ出ている。


「では、僕はこれで失礼するよ。詳しい作戦については、また後日話し合うことにしよう。」


結局会話がかみ合わないまま、大鳥さんは幕軍兵たちの中へ姿を消してしまった。


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