16
そして、甲府に向かう朝。
私は土方さんに渡された服を取り出した。
洋装というものだ。
白いワイシャツの釦を留めて腕まくりして、黒色のスカートと言われるものをはく。
そして腰までで袖なしの黒と桜色の陣羽織を着て、薄桃色の桜が描かれている透けた腰巻きの着物。
そしてニーハイと言われる中世のヨーロッパなどで貴族が履いていた靴下と膝までのロングブーツを履く。
『うわ、着慣れない……』
さっき手伝いでチラッと見た時の平助の格好に似ている。
私のは平助の服に陣羽織を着せたのとズボンをスカートに変えただけだ。
あ、あと靴下ね。
そして、刀を差すための白い腰紐を巻けば完成。
『んー……なんか、合わないかも。』
高く結い上げていた髪を下ろす。
でも、切るには勿体なくて……迷った末、右耳の位置で一つに結んだ。
京にあがる前に皆からもらったお気に入りの結紐をつけて、私は自室を出て広間へと向かった。
「お、やっと来たか千華……って……」
私が入ってきたのに気づいた新八さんの言葉が途中で終わる。
私の姿を見た幹部隊士が目を見開いた。
「何だよ……誰かと思ったじゃねえか!」
「可愛いぜ、千華。」
ぐしゃぐしゃと左之さんに頭を撫でられて私はぶすっとしながら目を逸らした。
なんか、慣れない……。
腕組みしながら大人しく左之さんと新八さんに頭を撫で回されているといつもの格好の千鶴が入ってきた。
「皆さん、もう起きてらっしゃるんですか……あれっ?」
見慣れない服装の人たちが、広間に集めっているのに千鶴は首を傾げる。
「あれ、千鶴ちゃん。ずいぶん早いんだな。」
「その姿……、永倉さんですよね!?どうなさったんですか!」
「……副長の指示だ。今日から戦の時は洋装にすべし、とな。」
「……敵は全員洋装だからな。勝つ為には、こっちの方が都合が良さそうだ。」
「そうなんですか……」
千鶴は私の方へと視線を向けて目を見開いた。
「え、千華ちゃん!?」
『あのさ……なんで皆そんな反応するわけ?』
髪の毛を横に結んで服装が変わっただけなのに、この姿に皆が目を見開く。
どこかおかしい所でもあるのだろうか。
確かに今まで着ていた着物よりは女子らしいものだが。
「ご、ごめんね……見慣れなくて。何か一気に雰囲気が変わったね。」
『そうかな?』
確かに髪と服装だけで変わるかもしれない。
私はチラリと土方さんに視線を向けた。
土方さんの服は、黒を基調とした雅な雰囲気のもので……。
役者のような端正な風貌にとてもよく似合っていて、つい見とれてしまう。
女でも羨ましいと思う綺麗な髪もばっさり切ってしまったし。
「どうした?俺の着方に、どこかおかしなところでもあるか。」
『えっ?あ……、う、ううん、何でもないデス。』
「……おかしな奴だな。」
ふっと笑う土方さんに私は首裏に手をあてながら視線を逸らした。
そんな私の隣に来た千鶴が近藤さんを見る。
「そういえば、近藤さんは洋装じゃないんですね。」
「どうも異国の服は窮屈そうでな……。あの靴というのも、歩きにくくて仕方ない。それに、やはり武士というのは、袴に刀を差していないとしまらん気がしてな。」
「……あんたは、そのままでいいんだ。前線に出るわけじゃねえし、陣中にどっしり構えててくれりゃいい。あんたの存在自体が、隊士にとって支えになるんだからな。」
「そうか?そこまで言われると照れてしまうが……それでは、出かけるぞ!甲府城に、いざ!」
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