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15


その後も土方さんは激務をこなし、機会を見つけては幕府の方々との会談を重ねた。
その最中、新選組には旗本屋敷が屯所としてあてがわれ、全員がそこに移った。
土方さんは、羅刹の毒と忙しさで相当辛い思いをしているはずだったが……。
近藤さんを戦わせてあげたい。
その一心だけが、土方さんを突き動かしているみたいだった。
その思いが天に通じたのかーー。


「……皆、心配をかけてすまなかったな。」

「お帰りなさいませ、近藤局長!」

「俺たち、ずっとこの日が来るのを信じてましたよ!」


おお、一瞬相馬君と野村君に耳と尻尾が見えたよ。
犬みたいだなんて思ってない。


「大袈裟だな……だが、ありがとう。俺も、こうして皆と再び会うことができてうれしいよ。……さて、我々の今後の行動についてだが、まずは甲府へ向かい、そこで新政府軍を迎え撃つこととなった。御公儀からは既に、大砲二門、銃器、そして軍用金を頂戴している!是非とも手柄を立てねばな!」


今回の役目に当たって、近藤さんは若年寄格、土方さんは寄合席格、という身分を頂いたらしい。
だけど……。


「……なあ、近藤さん。その甲府を守れって話を持ってきたのは、どこの誰だ?」

「勝安房守殿だが……、それがどうかしたのか?」

「大の戦嫌いで有名らしいな。そんな人が、なんで俺たちに大砲やら軍資金を気前良く出してくれるんだ?」

「……そもそも徳川の殿様自体が、新政府軍に従う気満々らしいしな。勝なんとかさんも、同じ意向なんじゃねえのか。」


勝安房守様だよ。

新八さんと左之さんの言葉に、近藤さんは難しい顔になった。
そして腕組みをし、胸を反らせながら言い放つ。


「永倉君、原田君、これは幕府直々の命令なんだぞ。確かに戦況が芳しくない為、今は慶喜公も恭順なさっているがーーもし我々が甲府城を守りきれば幕府側に勝算ありとみて、戦に本腰を入れてくださるかもしれん。それに、勝てる勝てないの問題ではない。御上が我々を、甲府を守るに足る部隊だと認めてくれているんだぞ。ならば全力で応えるのが、武士の本懐というものだろう。そうじゃないかね、永倉君。」

「……その言い方、やめてくれねえか。俺は新選組幹部ではあるが、あんたの家来になったつもりはねえんだからな。」

『ちょっとやめなさいよ。』


場が険悪な雰囲気になり始める中、左之さんが、一君へ話をふる。


「……斎藤、おまえはどう思ってるんだ?」

「俺は、局長と副長の意見に従う。」


その言葉で、今度は土方さんの方に皆の視線が集まった。


「……とりあえず、新政府軍との戦いに備えて隊士を増やそう。甲府城を押さえたら、幕府からも増援が来るはずだ。それに、勝安房守殿の意向についてだが……、いくら戦嫌いとはいえ、避けられねえ局面があるってことぐらいはわかってるはずだぜ。何せ、この戦で幕府が負けちまえば、幕臣は全員、食い扶持を無くしちまうんだからな。俺たちを負かしゃしねえだろ。」

「……ま、確かにそれも一理あるけどよ。」


土方さんに言われると、新八さんもそれ以上反論できないらしい。


「では我々は、甲府の山に先回りし、夜襲の準備をしておいた方が良さそうですね。」

「今回は、羅刹隊は出動させねえ。ここで待機しててもらう。」

「……それは、何故です?」

「幕府からの増援が来た時、あんたらの姿を見られるのはまずい。それに甲府城には、他の藩の奴らも多く詰めてるからな。存在を公にしちまったら、隠密部隊の意味がねえだろ?」

「ですが……」

「まだ戦は始まったばっかりなんだし、功を焦る必要はねえって、山南さん。」


そう言った後、平助は土方さんへと目配せする。
おそらく、事前に話し合いの段取りをつけてあったのだろう。


「よし、それでは解散!出立までは間があるから、各自、体調を整えておいてくれ!」


その後、私たち幹部は各々の部屋へと戻り、部下の隊士たちに合議で決まった内容を伝えた。
残った土方さんは、部屋の中でおびただしい量の書類や地図を確かめている。
私は隊士たちに伝えた後、広間へと戻ってきた。
千鶴はすでにいなくて、どうやら他の仕事に行ったみたいだ。


『あのさ……、土方さん、よかったの?』

「ん?何がだ。」

『今回は、厳しい戦いになりそうなんだよね?羅刹隊を連れて行った方が、よかったんじゃない?』

「……ああ、それか。」


土方さんは地図から顔を上げ、こう説明してくれる。


「前に、千姫とかいう女が忠告に来ただろ?羅刹隊が、辻斬りをしてやがるって。」

『……うん。』

「俺も正直言って、山南さんの仕業じゃねえかとにらんでるんだ。」

『……!』

「今んとこ、羅刹隊は貴重な戦力だ。血を得る為に、江戸の人間を斬って回るなんて真似を許すわけにゃいかねえ。それに鳥羽伏見の時は敵方が銀の銃弾を使ってやがったせいで、羅刹隊が役立たずになっちまったからな。切り抜ける方法が見つかるまで、山南さんには留守番しててもらう。……平助は、その見張りだな。後は、再起の為の武器調達もしてもらわなきゃならねえ。」

『再起……?』


それってつまり……、土方さんはこの戦いに負けることをも想定してるってこと?


「……多分、次も苦しい戦いになる。本当なら、おまえを連れて行くわけにゃいかねえんだが。」

『何をいまさら。』


今まで数多の戦いを幹部として切り抜けてきた。
鳥羽伏見の時だって新八さんと一緒に帰ってきたのだ。
今更、私だけ安全な場所に残すなんてしないで欲しい。

土方さんは目を細めながらあきれた顔で言う私に苦笑をこぼす。


「ここに残しておけば、またあの風間とかいう野郎が乗り込んで来るだろうしな。おまえも連れて行くが、くれぐれも危険な真似はするんじゃねえぞ。必ず俺の指示に従え。いいな。」

『……了解。』


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