×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
11


江戸に戻って来た私たちは、品川にある旗本専用の宿【釜屋】に身を寄せることとなった。
肩に傷を負った近藤さんと、労咳を患っている総司は、松本先生のところで療養している。
鳥羽伏見での負け戦、大坂城撤退、そして幕軍の総大将たる慶喜公の恭順ーー。
どう見ても先行きが明るいとはいえぬ展開に、隊内にも不安げな雰囲気が立ち込めていた。


「近藤局長は、いつ戻られるんだ?」

「もしや慶喜公のように、我々を見捨てて逃げてしまうのではあるまいな?」

「そんなこと、あるはずないです。」


隊士たちの言葉に相馬君が答える。

本来、そんな隊士たちをいさめるのは、私たち幹部の役目なのだが……。


「てめえら、お喋りが過ぎるぜ。暇でしょうがねえんなら、刀の手入れでもしてたらどうだ?」

「はっ……!申し訳ございません!」


新八さんの一言によって、皆が慌てて席を外す。
そんな後ろ姿を見送った後、左之さんが深いため息をつく。


「……ま、あいつらの気持ちもわからなくはねえかな。戦になった途端、総大将が真っ先に逃げ出しちまうなんて前代未聞だ。」

「……しょうがねえさ。あの人は元々、尊攘派の急先鋒、水戸藩の生まれだろ?薩長の奴らが掲げた錦の御旗に、すくんじまったんだろうぜ。敵から見るとあんな御しやすい大将もねえよな。」

『尊攘派だろうが佐幕派だろうが関係ないよ。命懸けて戦ってる家来を見捨てて逃げ出すなんて、腰抜け以外の何者でもないね。』

「……この先、一体どうなってしまうんでしょうか。」

「近藤さんは怪我でふせってる、薩長と戦おうにも、刃物じゃ銃には敵わねえ。……八方塞がりだな。」


装備が旧式であっても、率いる者に戦う意向さえあれば、士気を高めることはできる。
でも当の慶喜公が、戦うことを望んでいないのであれば……。
自分たちは何の為に戦うのか、これからどうするべきなのか、見えなくなってしまうのも当然といえた。


「お先真っ暗だよな。あれこれ考えても落ち込むだけだし、吉原にでも遊びに行くか?」

「吉原……ですか?この時期に……」

「馬鹿野郎!この時期だからこそ、英気を養わなきゃならねえんじゃねえか!」

「そういえば、斎藤さんは一体どこに?最近、姿を見かけないんですけど。」


野村君が周囲を見渡しながら、聞いてくる。


「斎藤なら、怪我人や病人の様子を見る為、松本先生の所に出かけてるみたいだぜ。」

「なるほど……」


次の戦では、絶対に勝たなければいけない。
皆、その為に頑張っているのはわかるけど……。
京にいた頃のような賑やかな時間がほとんどなくなってしまったのは、やっぱり寂しい。


「千華も行くか?吉原。パァーッと呑もうぜ!」

『行かないよ馬鹿。』


[*prev] [next#]
[main]