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「総司ー!」

「千華様ー!寝すぎだよー!」


揺さぶられる身体と、子供特有の高い声に私は身をよじりながら薄く目を開けた。
視界に入るのは夕暮れ色の空と、こちらを覗き込む里の子供たちの顔。
そして愛する彼の穏やかな微笑みだった。


「おはよう、千華。」

『おはよう……』


まだ夢見心地で、私は小さくあくびをこぼしながら総司に手を引かれて、身体を起こした。
どうやら結構な時間外でお昼寝をしてしまったらしい。
空はもう茜色だ。


「千華様、総司様。頭領がお呼びですよ。」

『げっ。』


呼びに来た屋敷の女中の言葉に顔をしかめると、子供たちと女中が楽しそうにクスクスと笑った。

私が呼ばれるならサボリのことでだろうが、総司まで呼ばれるなんて何かあったのだろうか。

汐見の里に帰ってきてから、総司は結構里の者たちに気に入られていた。
特に子供たちからの人気は絶大である。
気のいい連中ばかりが集まるのが汐見の里なので、溶け込めないのではという心配は元からしていなかったのだが。


『とりあえず、行こうか。』

「そうだね。」


総司と二人手を繋いで歩き出すと、その後ろを子供たちが楽しそうについて来て、女中も微笑ましそうに眺めながらついて来た。
大勢を引き連れて私たちは屋敷へと向かうと、総司と二人、じい様の執務室へと入る。


『じい様、千華です。入ってもよろしいですか。』


言いながらふすまを開けると、すぐに銀狼が顔面めがけて飛んできた。


『あだっ!?』

「許可もしていないのに入るからじゃ。」


うるせえ、このクソ爺。

なんて面と向かって言うとすぐに汐見家現頭領の力強い拳が飛んでくるので大人しく並べられた座布団へと座る。


「大丈夫?千華。」

『何とか。』


鼻を擦る私の顔を覗き込みながら総司も隣へと座った。
そして本題に入ろうと、私はじい様の方へと視線を向ける。


『じい様……』

「何じゃ?」

『先に言っておきます。サボってごめんなさい!!』

「あははははっ!!」


両手を床について頭を下げると、総司は声を上げて笑い、じい様はため息をついた。


「そのことで呼び出したんじゃないわい。」

『何だ。そうならそうと早く言ってよ。』

「おまえが勝手に誤解したんじゃろ。」


私とじい様のやり取りにお茶を運んできた女中と総司が楽しそうに笑う。
私は女中にお礼を言って、お茶を一口飲んだ。
すると衝撃的なことをじい様は口にした。


「労咳を治す方法と、変若水を治す方法がわかったぞ。」

『ブゥぅぅう!!!』


私は思い切りお茶を吹いた。
そんな私に目に溜まった涙を拭いながら総司がまたもや笑い、女中もクスクスと笑う。


「少しは落ち着かんか。」

『じい様が急にすごいことを言いまくるから。』

「わしのせいじゃないじゃろうが。」

『あだだだだ。』


じい様の言葉に合わせるように銀狼が私の頭を鋭いくちばしでつついてくる。
これ滅茶苦茶痛い。


「それで、治るんですか?僕のこの病気と、変若水が。」

「ああ。労咳はわしが取り除いてやろう。」

『「は?」』


私たちが顔を見合わせて首を傾げると、じい様はニヤリと笑って、総司の額に人差し指を当てた。
そしてじい様が目を閉じると、総司の身体が淡く光りだし、彼の身体から光の玉みたいなものが出てきた。


『何これ……』


私の呟きにじい様がニヤリと微笑んだその時ーー。
パチンッとそれは弾け消えて、じい様は目を開けた。


「どうじゃ?」

「身体が軽い……」

『え、嘘お!?』


嘘、本当に?


「こんなのわしの力を持ってすれば簡単じゃ。」

『ならもっと早くやってよ。』

「わしも歳でな。ちと手間がかかったんじゃ。」


嘘つけ。
忘れてただけだろう。

なんてことは言えないので、黙っておく。
口の悪さは新選組の時と同じく健在です。


「っていうことは……」

「おぬしがもう病魔に身体を蝕まれることはない。治癒も完全にわしがしてやろう。」


私と総司は顔を見合わせた。
そして二人で笑顔を浮かべてじい様に頭を下げる。


「『ありがとうございます。』」

「うむ。」


じい様は満足したように頷いた。


「して、本題はここからじゃ。」


緊迫の雰囲気を醸し出すじい様に自然と私と総司の身体も背筋が伸びる。
そんな私たちにそんなに緊張することはないとじい様は豪快に笑った。


「変若水の毒を消す方法じゃが……有り余る千華の鬼の力を沖田君に流すというのはどうかと思っての。」

『鬼の力を流す?』

「千華の身体が変若水に変えられたとしても、強い鬼の力はまだ残っておる。それを呼び覚まし、その力の半分を彼に流すのじゃ。」

「えっと……」


よくわからないと総司が首を傾げる中、私はそんな方法が上手くいくのかと顔を険しくさせた。


『うまくいくとは思えないけど。』

「準備は万全に整える。心配するな。」

『もし仮に成功したとして、それで変若水の毒は消えるの?……まさか……!』


ハッとしたように目を見開いた私にじい様はニヤリと笑みを浮かべた。


「ちょっとどういうことなのさ、千華。僕にもわかるように説明してよ。」

『鬼の力で変若水の毒を消すってこと。』

「え、でも……」

『そう、そんなことができるなら私がすでにやってた。だけど、私の力は強すぎるあまりじい様に封じられてた分もあるの。だからそれを呼び覚まして、その力の半分を総司に渡す。だけどそうしたら総司の身体は……』

「鬼の身体へと作り変えられるかもしれん。」

「!」


私とじい様の説明に総司は目を見開いた。


「成功は必ずさせる。だが、鬼になる覚悟はあるかというのを聞きたくてな。」

『じい様、それは……』

「あります。」


私の言葉を遮って総司は強くそう言った。
即答なその解答に私ははあ!?と顔を向け、じい様は満足そうにニヤリと微笑む。


「よいのか?」

「鬼の身体になれば、千華の傍に長くいれるってことですよね?それなら、僕は戸惑いなんかありませんよ。彼女の傍にいれるのなら。」

「そうか……。本人が言うておるのじゃ、よいな?千華。」

『総司が言うなら……』


私はしぶしぶとその意見を呑んだ。


詳しいことは後日ということで、夕餉を食べて私たちは自室へと戻ってきた。
一つの布団に二人で入って抱きしめ合いながら総司の腕枕で眠る。
だけど、今回はやけに目が覚めていて、私は総司を見上げた。


『本当にいいの?』

「ん、何が?」


私の髪を梳きながら撫でていた総司が私を見下ろした。


『あの話。身体を作り変えられるって相当辛いのよ。総司も経験してるでしょ?』


変若水を飲んだ時に、彼は完全に人間には戻れなくなった。
変若水になって吸血衝動が出る鬼になったのに、次は私たちと同じ鬼になるなんて。
そんなうまくいくかもわからない話をとんとん拍子で進めていいものなのか。


「労咳なんて、一生治らないと思ってた。」

『え……?』

「治してくれただけでもうれしいのに、さらに君と長く過ごせる時間がもらえるなんて、こんなにうれしいことはないよね。」

『総司……』

「前に言ったよね?ほんの少しの未来はあげられてもその先まではわからないって。でも、その先の未来が目の前にあるなら、僕はそれを掴みたい。君とずっと長く一緒にいたいから。」


私を抱きしめて柔らかい微笑を浮かべる彼に、私は何も言えなくなって、彼の胸へとすり寄った。
ぐりぐりと彼の広い胸に頭を押し付けてため息を一つ。


『本当に総司は……』


そのまま私は微笑を浮かべて彼の腕へと身を任せた。
ともかく、これからは考えてた未来よりもっと長く一緒にいられるのだ。
じい様万々歳である。


「愛してるよ、千華。」

『私も……愛してる、総司。』


見つめ合ってひかれるように唇を押し付けて。
私たちは視線を合わせて笑みを浮かべた。



《溢れる想いを君にーー》

沖田編END


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