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- ナノ -
27


賑やかな子供の声や里の者たちの声が響く汐見の里。
澄んだ空気と、綺麗な清水。
じい様の癒しの力と草木に囲まれて生きるうちに、私たちの身体も少しずつ変わり始めた。
月や星が輝き始める頃に眠り、朝陽の気配で目を覚ます。
血を欲する狂気の発作も消え、ただ穏やかな日々を過ごすことができるようになった。
私たちの身体は羅刹のままだけど、物言わぬ草木から充分な恩恵を得た。
もちろん、変わらないこともある。
私たちは、私たちのままだ。
総司の労咳も、治ったわけじゃない。
病魔は着々と彼の身体を蝕んでいる。
そのことに関しては里の者たちやじい様が何か考えているみたいだけど。
だけど、まだこうして彼と一緒にいられる……。


『今日は本当に、いい天気だね……』


日差しに目を細めながら呟くと、総司は小さく笑った。


「そうだね。……君と二人きりで日向ぼっこなんて最高の贅沢だ。」

『……ええ。』


羅刹にとって禁忌であるはずの日差しも、今は私たちの身体を蝕むことはない。
ただほんの少し、眠くなるだけだ。
だからいつの間にか、こうしてお昼寝をするのが習いになった。

まあ、これが里の子供たちに見つかってじい様にチクられて後で、次期頭領としての仕事をさぼっていたことがばれて怒られるのだけど……。

寄り添う身体の熱と、日差しのぬくもりが気持ちよくて……。
私はつい、小さなあくびを漏らしてしまう。
そんな私を見つめ、総司が笑う。


「……寝ちゃ駄目だよ。僕はまだ眠くないから。」

『でも、私は少し眠いかな……』

「君が寝ちゃったら、退屈だし。もう少し、僕の相手をしてよ。」

『ええ……』


眠い目をこすりながら、そう答えると。


「……好きだよ、千華。」

『……え?』

「君のことが好きだよ。誰とも比べられないぐらい。」


優しく抱き寄せられて、耳元で甘くささやかれると……。
吐息のくすぐったさと突然の言葉に頬が熱っぽくなる。


『…………ずるいよ、それ。』

「ずるいって、何が?僕は、自分の気持ちを正直に言っただけだけど。」


少し意地悪で気まぐれなところは、相変わらずだ。


『もう……』


すねたふりをしても、結局は私も笑ってしまう。
それはきっと、この穏やかな時間があまりも幸福だからだろう。


「……君は?僕のこと、好き?」


秘め事めいた声音が、じっと見つめる瞳と共に私を誘ってくる。


『えっと、その………………うん。』

「【うん】じゃなくて、君の気持ちをちゃんと言葉で聞かせて。」


悪戯っぽい微笑と、甘えるような響きを乗せた言葉。
想いを告げた後、彼は必ず答えを求める。
そして、私の心を確かめようとする。
それがわかっていたから、私は素直に彼の望む答えを返す。


『……好きよ、総司。誰よりも。』


その言葉に、彼はうれしそうに頬を緩めた。


「……そっか。ありがとう、千華。」


指先を絡めるようにして、彼は私の手を握ってくる。
その力が思いのほか強くて、私は小さく首をかしげた。


『総司……?』

「……忘れないで。僕は、いつだって君の幸せを願ってる。」


その言葉はどこか切実な響きを含んで私の耳に届いた。


「君が寂しくないよう、僕はできる限りのことをするから。だから……、どうか……」


わずかでも離れたくなくて、私は自ら彼に身を寄せる。

……多分彼は、不安なのだろう。
二人の先にある未来は、ふとした瞬間に私たちを怯えさせる。


『……大丈夫よ。』


私は、そっと彼の手を握り返した。


『総司が、満たしてくれたから……』


愛しい人と、たくさんの思い出を重ねられたから。


『私は、とても幸せなの。……寂しくなんてないわ。』


彼は切なげに瞳を細めながらも、柔らかな微笑を浮かべてくれる。
やがて、その両腕が私を優しく包み込んできた。


「……君のことが、心から愛おしい。」


愛の言葉が、誓うように紡がれた。


「だから、信じて。たとえ、いつか離れる時が来ても、……僕の心は永遠に君のものだ。」


彼は安らかな笑みを浮かべ、そしてーー。
ゆっくりとその瞼を下ろした。
私を抱きしめている腕も、わずかばかり緩められる。


『……総司?』


私の呼びかけにも、答えは返らない。
想いを告げたことに満足したのか、眠ってしまったみたいだ。
陽だまりがくれた暖かさが、彼を眠りに誘い込んだのだろうか。


『まだ眠くないって言ってたのに……』


困った人だと、私は笑う。
そして小さく、ささやいた。


『……私も、同じだよ。』


幸せな夢を見ているのか、彼はとても穏やかな顔をしていた。


『たとえ、いつか離れる時が来ても……』


彼の心に、染み込ませるように。
ゆっくりと、私は告げた。


『私の心は、あなたのものよ。……永遠に。』


この温もりが消えてしまわないように。
抱き寄せる腕が、離れていかないように。
いくつもの祈りを捧げながら、私もそっと目を閉じる。

目覚めたら、今度はちゃんと聞かせてあげよう。
彼が不安にならないように、何度でも、何度でも、愛の言葉を。


『お休みなさい、総司……』


だからそれまではーー。
……どうか、安らかな眠りを。


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