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それから数日後の夜、意外な人が隠れ家を訪れた。


「……よう、しばらくぶりだな。」

『土方さん……!無事だったのね!』


久し振りに会えた彼に嬉しくて、顔を綻ばせながら駆け寄ると、土方さんは頬を緩ませて頭を撫でてくれた。


「総司の奴は、どうしてる?具合は良くねえって聞いたが。」

『今、眠ってるけど……呼ぼうか?』

「……いや、いい。あいつは俺の顔なんざ、見たくもねえだろうしな。」

『そんな……』

「今日来たのは、他でもねえんだ。今の江戸の状況は、おまえもよく知ってると思うが……おまえ、この先どうするつもりだ?新政府の奴らは、俺たちを恨んでる。これ以上関わり続けると、どんな目に遭わされるかわからねえぜ。」

『私は……、総司の傍にいるわ。今の総司を放っておくことなんて、できないから。』

「…………そうか。ありがとよ、礼を言っとくぜ。……俺たちはもう、あいつと一緒にゃいてやれねえからな。」

『……ってか、土方さん。新政府が新選組を恨んでるなら、私も危ないんじゃないの?』


私だって零番組組長として、何回も薩長側と刃を交らせてきたわけだし。


「おまえなら、大丈夫だろ。」

『え、何を根拠に言ってんの?』

「それじゃ、俺はもう行く。総司の奴によろしくな。」


無視か。


『待ってよ、外まで送るから。』


身を翻して玄関に向かう土方さんの背を、私は急いで追いかけた。

そして外へと見送る。


『あのさ……、一つ聞いてもいい?』

「ん?何だ。」

『……近藤さんが敵に捕まってしまったって、本当?』


その問いかけに、土方さんの目元が曇る。


「……ああ。」

『やっぱり、本当なんだ。どうしてそんなことにーー』

「流山に隠れてた時、敵に囲まれてな。俺たちを逃がす為、自分から新政府軍に投降したんだ。偽名を使うから、敵に気付かれることはねえだろうって言ってたが……」

『…………』


この口振りだと……。
土方さんも、近藤さんが無事でいられる公算は低いと思っているに違いない。


「総司のことだからどうせ、俺が近藤さんを見捨てて自分だけ逃げたとでも思ってやがるんだろ?」

『それはーー……総司には、私がきちんと説明するわ。』

「いや、やめとけ。あいつには何も言わねえ方がいい。幼なじみのおまえなら良くわかってるだろ?」

『…………』

「状況がどうあれ、近藤さんを見捨てたってのは嘘じゃねえからな。八つ当たり先がなくなっちまったら、あいつ、本当に生きる気力をなくしちまうだろ。」

『だけど……』


私が納得できずにいると、土方さんは目を細めて夜空に瞬く星々を見上げる。


「……この場であいつにぶった斬られて何もかも終わりにしちまえるんなら、楽なんだがな。」


その言葉に、私ははっとする。
近藤さんが投降したことで、生きる気力をなくしてしまっているのはーー。
きっと、土方さんも同じなのかもしれない。
やがて彼は、込み上げてきたものをぐっとこらえる表情になって……。


「俺たちはこれから、北へ向かう。……死ぬんじゃねえぞ、千華。」


短い別れの言葉の後、土方さんはその場を歩き去った。
少しずつ遠ざかる背中を見送った後、私は再び建物の中へと戻る。
玄関に戻った時、廊下の向こうに人影があることに気付く。


「……今、外で人と話してたでしょ?誰が来てたの?」

『それは、あの……』

「当ててあげようか、土方さん?」

『っ……』

「やっぱりそうだったんだ。あの人、何しにきたの?近藤さんを見捨てた言い訳でもしにきたのかな?」

『違うわよ。土方さんはーー』

「どうしてあんな人の肩を持つのさ?事情があったにせよ、近藤さんを助けずに自分だけ逃げたのは変わらないじゃない!近藤さんは今も、土方さんが助けにきてくれるって信じてるはずなのにーーうっ……!げほっ、ごほっ!がはっ、ごほっ!」


総司はその場にうずくまり、肺が壊れてしまいそうなほど激しく咳き込んだ。


『総司……お願いだから、自分を見失わないで。気をしっかり持ってよ……』


かける言葉が他に見つからなくて、私は総司の身体を強く抱きしめた。


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