07
それから数刻の時を経て、私たちは淀城へと辿り着いた。
土方さんはここを本陣とし、敵を迎え撃つつもりらしい。
だけどーー。
『……おかしい。どうして城門が閉まってるんだろう。もしかして、薩長との戦闘に備えてるとか?』
城下には人の気配が無く、不気味に静まり返っている。
「いや……」
源さんは口元に手をあてがい、しばらく考え込む。
だがやがて、意を決して顔を上げーー。
「我々は、幕命を受けて参った!御上に弓引く逆賊を迎え撃つ為、力を貸してもらいたい!」
源さんが、空を張り裂けんばかりの声で叫ぶが……。
いつまで待っても、城門は開こうとしない。
と、その時ーー。
窓の所に人がいるのが見えた。
何か光る物を持っているのを見て、私はとっさに叫んだ。
『危ない、伏せて!』
私は源さんの手をつかみ、その場に伏せさせる。
その矢先ーー。
城の各所から、銃声がこだました。
しかも、方々から続けざまに。
近くに、薩長の部隊は見当たらない。
ということは今の銃弾は、私たち新選組めがけて放たれたということ。
『どういうこと!?淀藩は、幕府の味方だったはずじゃ……!』
「薩長の勢いに気圧されたか、はたまた民を戦乱に巻き込みたくないとの深謀遠慮か……とりあえず、本隊に戻ろう。これ以上ここにいるのは危険だ。」
『けど……!淀藩から援軍を呼んで来いって、土方さんが。』
私は必死に食い下がるけど、源さんは厳しい表情で首を横に振る。
「……千華も、もうわかってるだろう。彼らは、私たちの味方じゃない。ここに長居すればするだけ、千華の身を危険にさらすことになる。」
『でも、そうしたら土方さんは……、新選組は、どうなるの!?もう一度話してみようよ!』
すると源さんは、私の目をまっすぐににらみつけーー。
「……いい加減にしなさい!トシさんの為に増援を呼びたいのは、私だって同じだ。だが私は淀藩に援軍を頼みに行くのと同時に千華を守る役目も仰せつかってるんだよ。もし千華の身に何かあれば、命令に背くことになる。千華、どれだけ皆が千華を大切に思ってるか、充分理解しているだろう?……さあ。」
『…………』
源さんの真剣な眼差しを目にして、私は何も言えなくなる。
土方さんを守りたいという気持ちは、源さんだって同じ。
そして皆が私のことをどれだけ大切に思ってくれているのかも理解しているつもりだ。
『……ごめん。私、何もできなくて……』
ひとりでににじんだ悔し涙を、私は手の甲で拭う。
「気にせんでいいよ。なに、トシさんのことだ。きっとこの状況を引っくり返すだけの奇策を考えてくれるさ。」
源さんはそう言いながら、私の肩を優しくぽんぽんと叩いた。
『……源さんの手って、温かいね。子供の頃に父上がよく頭を撫でてくれたのを思い出すわ。』
「はは……、父上、か。そうだな。私も本来は、あんたくらいの娘がいてもおかしくない年なんだよな……」
『あっ……ご、ごめん。もしかして、失礼なこと言っちゃった?』
「いやいや、そんなことないさ。こんな可愛い娘なら大歓迎だ。さ、戻ろうか。私たちがなかなか戻ってこなくて、隊士たちも心配しているだろう。」
『うん。』
私は源さんと共に、隊士の皆の所へ戻ることにした。
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