一話 -千鶴視点- 「……ん……?」 ……朝? 「ええと……」 私、どうしたんだろう…。 ……ああ。 「……そうだ。」 朝の光に目が慣れると、昨夜の出来事も一気に思い出された。 ……ここは、私の部屋じゃない。 ぐるぐると縄で縛り上げられた私は、芋虫のように寝転がりながらため息を吐く。 叶う事ならいつものように、温かい布団の中で目覚めたかった。 「全部、悪い夢なら良かったのに……」 昨日の夜、あの人たちと出会った私が、引きずられるようにして辿り着いたこの場所。 ーーそれが、【新選組】の本拠地だった。 「私、どうなるんだろう…」 私がもう一度ため息を吐いた、その時。 ゆっくりとふすまが開いて、人の良さそうなおじさんが顔を出した。 「ああ、目が覚めたかい?すまんなあ、こんな扱いで……。今、縄を緩めるから少し待ってくれ。」 「え……?」 彼は苦笑を浮かべながら、私をぐるぐる巻きにした縄を解いてくれる。 ……さすがに手を縛る縄までは、解いてくれなかったけど。 「あの、あなたは……」 「ああ、そうか。私は井上源三郎と言うんだ。」 「井上さん……ありがとうございます。」 「千華が言ってた通り、礼儀正しい子だねえ。」 千華さんって……昨日居たあの端正な顔立ちの人かな。 物腰柔らかい喋り方が井上さんと似てる。 ……怖がらせないように優しく喋ってくれていただけかもしれないけど。 「さて、ちょっと来てくれるかい。今朝から幹部連中で、あんたについて話し合っているんだが……。昨夜、あんたが何を見たのか、確かめておきたいってことになってね。」 「……わかりました。」 私は頷くと、よろけながらも立ち上がった。 ……井上さんは柔らかい言い方をしたけど、きっと私には断る権利なんてないだろう。 強張った私の顔を見て、井上さんは明るく言った。 「心配しなくても大丈夫さ。なりは怖いが、気のいい者たちばかりだよ。」 「…………」 人斬り新選組のうわさは、何度となく耳にしている。 その幹部たちがいい人だなんて、あんまり想像できないけれど……。 「一番歳の若い藤堂君と千華は、君よりちょっと年上くらいだよ。それに、永倉君と原田君という賑やかな二人組もいるから大丈夫。」 昨日居た人……新選組の中で一番若いんだ…。 大丈夫と言われても、それには素直に頷けなかった。 |