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一話

元治元年八月ーー。
池田屋や御所の事件など……大きな事件が相次いだせいで、市中には不穏な空気が漂っている。
新選組は、ますます務めに励んでいるのだけど……。
新選組が幕府に認められて、公の仕事が増えていくにつれ、隊士の不足が問題となっていた。
京と大坂で隊士を募集したけれど、それでもまだ人手が足りない。
新選組は考えた末に、江戸でも隊士を募ることに決める。
その先触れとして平助が、江戸に発つことになったある日ーー。

夏の鋭い陽光が、私たちに降り注ぐ。
すっかり旅支度を整えた平助は、近藤さんと共に見送りに出てきた私を見て、いつものように笑ってみせた。


「さて、んじゃ行ってくるとすっか。オレがいない間、皆のことよろしくな。」

『わかってるわよ。できる限りのことは手伝うつもりだしね。』

「隊士募集の件、頼むぞ平助。俺も来月には江戸に行くからな。」


これから平助は江戸に向かい、新選組隊士の募集をすることになる。
でも実際に入隊させるか決めるのは近藤さんが着いてからになるから……。
実際は、勧誘の下準備ということになるらしい。


『平助は何かあてがあるらしいけど、入隊してくれそうな人がいるの?』

「む、千華はまだ聞いていなかったか?確か名は伊東さんと言ってだな、北辰一刀流の剣客で学もある人らしい。」

「……まあ、正直言うと、伊東さんとはそこまで親しいわけじゃないけどさ。たぶん話は聞いてくれると思う。」

「うむ、それで充分だ。伊東さんは尊王派と聞いているが、義を持って話をすれば、必ずや力を貸してくれるに違いない。」


歯切れの悪い平助に、近藤さんはうんうんと頷いてみせる。
私は二人の言葉を聞きながら眉を寄せた。

大丈夫かなあ……。


「……よし、それじゃそろそろ行ってくる!綱道さんのこともできるだけ調べとくから期待して待っててくれって千鶴に伝えておいてくれよ!」

『わかった。平助も気をつけてね。江戸への道中も暑いと思うし、ちゃんと水分取りなさいよ。』


平助の姿が遠ざかると、一抹の寂しさが胸をよぎる。
ふと近藤さんの姿を振り仰いで、私は何とはなしに問いかけた。


『近藤さん、なんだかうれしそうですね。新しい隊士のことを考えてるんですか?』

「ああ。やはり隊士が増えるのはうれしいものだ。それが有能な人材なら尚更だよ。」


にこにこと笑う近藤さんは、本当にうれしそうだった。

きっと新選組の未来を、真剣に案じているからこその喜びなんだろう……。

私はそんなことを考えながら、彼の笑顔を見つめるのだった。


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