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一話

元治元年七月ーー。
あの池田屋事件から一ヶ月が経っていた。
あれ以来、千鶴の外出を許可される日が、だんだんと増え始めた。
どうやら、土方さんは池田屋事件での千鶴の働きを認めてくれたみたいだ。
そんなに大したことはしていない……と本人は言っていたけれど……。
あの土方さんに認められるつつある、というのは凄いことだろう。

私は千鶴が十番組、左之さんの隊についていったのを見送り、自室で里からの文に明け暮れていた。


『どうするかなぁ。』


筆を片手にじっと見つめるのは汐見家現頭領、私のじい様からの文だ。
内容は、まぁ早く婿を見つけろだの、婚姻を結べだのというものだ。

そんなに早く孫の晴れ姿が見たいのだろうか。

というかこの見合いを勧めるような一言には、無視を貫いて、私は一旦筆をおいた。


『ん〜!』


天気も良く、風も気持ちがいいので開け放っていたふすまから心地よい風が通り抜けてくる。
ピュ〜ッと聞こえた鳴き声に目を向けると、ふすまから銀狼が入ってきて、私の肩に止まった。
スリスリと擦り寄ってくる銀狼の頭を撫でて、私は文机に頬杖をついた。


『最近の巡察も楽じゃないから、疲れる……』


京の町の人間は戦火に巻き込まれまいと引越しの準備をしている人も多い。
長州の奴らが京に集まってきているから、その関係で私たちも警備を強化している。
何せ、池田屋の件で長州を怒らせてしまったから。
あっちの仲間から犠牲が出たわけだし、黙っていないわけがないだろう。


『もしかしたら、近いうちに出動命令が出るかもしれないね。ね、銀狼。』


返事をするように一声鳴く銀狼に私はクスッと笑って、筆を動かした。
返事とお見合いはしないということを書いて、銀狼の足に括り付ける。
そして指笛を吹いて、銀狼を空へと飛ばした。

何か嫌な予感がする……。


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