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焼き芋

その年ーー慶応二年が師走を迎えた頃。
身を切らせるような寒さの中、私と千鶴は、ほうきを片手に境内の掃除をしていた。


「……こんな感じかな。」

『そうだね。』


境内が綺麗だと、なんか気分よく過ごせるなあ。


「お、境内を掃除してくれていたのか?助かるな。」

「あっ、近藤さん。」

『最近はだいぶ、風も冷たくなってきたよねえ。』

「うむ……。京に来てからずいぶん経つが、この寒さにはどうも慣れんな。」


近藤さんは両手をこすり合わせ、はあっ、と息を吐きかける仕草をする。


「せっかく落ち葉を集めたので、後で焼き芋をしようって千華ちゃんと話してたんです。よかったら、近藤さんも一緒にいかがですか?温まると思いますよ。」


すると近藤さんは、懐かしそうに苦笑した。


「焼き芋か……昔はよくやったもんだが。」

「あ……」


私と千鶴は恥ずかしそうに顔を見合わせた。
忙しい毎日を送っている近藤さんには、焼き芋をしている時間なんてないんだ。
局長である近藤さんは幕府の偉い方々とも、直接会ってお話しできる立場なんだし……。


『……最近、忙しいみたいだけど、身体の方、大丈夫なんですか?』

「ん?まあ、こういう時代だからな。忙しいってことは、それだけ、新選組が頼りにされてるってことだ。名誉なことさ。」

「そうですね……」


ここのところ、近藤さんや土方さんは、よく屯所の外に出かけ、幕府の偉い方と会談を重ねているみたい。

きっと、息をつく間もないくらい、忙しいんだろうな……。

そこへ、土方さんが通りかかる。


「おっ、近藤さん。こんな所にいたのか。」

「おお、トシ。どこに行ってたんだ?捜したぞ。次の将軍がだな、家茂将軍の後見人だった一橋慶喜公に決まったようだ。」

「……やっぱり、あの人に決まったか。他にやる人なんざいねえんだから、もったいぶらずにさっさと引き受けりゃいいのによ。」

「トシ、将軍公になられた方に向かってその言い方はないだろ。あの方は、東照神君家康公の再来と呼ばれるほど、英明な方なんだぞ。」

「まあ、いい。将軍が誰になろうが、俺たちはその将軍の元で戦うだけだ。」

「そうだな。俺たちが頑張れば、それだけ将軍公も徳川幕府も安泰ってわけだ。」


慶喜公が将軍に就任してから、僅か二十日後。
突如、天子様が崩御した。
前将軍の奥様、和宮様の兄にして、公武合体派の象徴ともいえる方が亡くなったことは、各方面に衝撃を与えた。
後を継ぐ親王様は、まだ十五才の少年。
攻め込んできた幕府を返り討ちにした長州藩の動向も見えないままーー。
日本という国が、急速に動き始めようとしていた。


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