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二話

ーーそして。
彼女は再び、私たち幹部連中に囲まれていた。


「少年にしては華奢で可愛らしい顔をしていると思っていたんだが、まさか本当に女子だったとはなあ……」


近藤さんは妙に感じ入った様子でうんうんと何度も頷いている。


「ああ。女だって聞いてから見ると、女にしか見えなくなってくるんだよなあ。」

「しかし、女の子を一晩縄で縛っておくとは、悪いことをしたねえ。」

「でもよ、女だ女だって言うが、別に証拠はないんだろ?」

「しょ、証拠と言われても…」

「証拠も何も一目瞭然だろうが。千華もそう言ってるんだしよ。何なら脱がせてみるか?」


は……?


「許さん、許さんぞ!衆目の中、女子に肌をさらさせるなど言語道断!!」

「だがまあ、それが一番手っ取り早いとは思ったんだ……無理にとは言わないがな。」

『左之さん、最低。』


私が心底冷えた目で左之さんを見ると、彼は「悪い悪い。」と言いながら私の頭を撫でた。


「……でもよ、本当に女だって言うなら、殺しちまうのも忍びねえよな……」


出た、新八さんの女の子贔屓。


「何甘いこと言ってるんだ。男だろうが女だろうが、性別の違いは生かす理由にならねえだろ。」

「もっともです。ですが、女性に限らず、そもそも人を殺すのは忍びないことですよ。京の治安を守るために組織された私たちが、無益な殺生をするわけにはいきません。」

「結局、女の子だろうが男の子だろうが、京の治安を乱しかねないなら話は別ですよね。」


まぁ、確かに。
……もともと、新選組は評判がよくない。
その上、血に狂った隊士の存在が広まれば、大変なことになる。
新選組が今以上に京で活動しづらなくなる。
そうなると治安の守り手がいなくなって、結果的に京も都も乱れてしまう。


「……悪いが、おまえの荷物を改めさせてもらったぜ。どうやら江戸からここまで、一人で来たみてえだな。荷物はわずかな着替えと一月分の小銭、それと数通の手紙とこの小太刀。」


あ、ちなみに着替えはちゃんと私が確認しました。
さすがに男どもにやらせるわけにはいかない。


「手紙には、幕府御典医の松本良順の名前があった。おそらくそこを訪ねたんだろう……。おまえの目的は何だ?ーー雪村千鶴。」


彼女の名前が発せられた瞬間、部屋の空気が一瞬で変わった。
目を見開き、言葉を失って、私たちは彼女の顔に視線を向ける。


『土方さん……その名前は……』

「おいおい……偶然にしちゃできすぎだぜ。」

「まあ、待て。それを判断するためにも、まずは君の話を聞かせてくれるかな?」


近藤さんに促され、彼女は口を開いた。
私たちからの鋭い視線の中、彼女は正直に事情を話してくれた。

彼女の名前は雪村千鶴ちゃん。
もともとは江戸に住んでいて、連絡の途絶えた父上を探しに京へ来たらしい。


「そうか……出身も江戸だったのだな!父上を捜して遠路はるばる京へ来たのか!して、お父上は何という方かね?」


彼女の話を聞いていた私は、一つの仮説を思い浮かべた。
土方さんの方を見ると難しそうな顔をしていたため、もしかしてと思いながらも聞いてみる。


『もしかして、千鶴ちゃん。君のお父様は蘭方医の雪村綱道さんじゃないかな?』

「はい、そうです。」


頷く彼女に私は土方さんへと視線を向けた。


『土方さん。』

「ーー繋がったな。」

「え……?」

「あなたが持っていた手紙の筆跡、これはまさに綱道さんのものでしたが……。まさか本当に綱道さんのご息女とはね。」

「父を、知っているんですか……?」


その問いかけに、私たちは思わず複雑そうな顔をした。
戸惑うような沈黙は土方さんによって破られる。


「……何処まで知ってる?」

「……何処まで?」

「いいから洗いざらい全部吐け!何しに京に来やがった!」

「わ、私は……父を捜しに来ただけで、他には何も……」

「親父の綱道さんが、何をしてるか知っててここに来たんだろうが!」

「父はお医者様の仕事で京に来たはずです!去年の夏に連絡が途絶えて……そのままなんです!」


何も知らないような彼女の言動に土方さんは目を見開いて固まった。
私は彼女の目をじっと見つめて嘘ではないことを確認すると土方さんへと視線を向けた。


『土方さん……どうやら、本当に何も知らないみたいですよ。』

「あの……父の事をご存じなんですか?父はどこにいるんですか?教えてください!」


必死な千鶴ちゃんに対して一君が静かに口を開く。


「……綱道さんの行方は、現在、新選組でも捜している。」

「新選組が、父のことを……!?それってもしかして……」

「あ、勘違いしないでね。僕たちは綱道さんを狙ってるわけじゃないから。」

「……そう、ですか。」


千鶴ちゃんは思わず、ほっと胸をなでおろした。


「同じ幕府側の協力者なんだけど……。実は彼、夏から行方知れずなんだよね。」

「幕府を良く思わない者たちが、綱道さんに目をつけた可能性が高い。」

「!!!」


千鶴ちゃんが目を見開くのを見て、私は少しだけど言葉を足した。


『……生きてる公算も高いよ。蘭方医は利用価値がある存在だからね。』


彼女はぎこちない頷きだけを返した。
突然の事で心が乱れて、言葉にならないのだろう。


「……近藤さん、どうでしょうか。同じ人物を捜す者同士、彼女に手を貸してあげてはいかがかと。」

「手を貸すとは、どういうことかね?」

「綱道さんが見つかるまで、互いに強力し合うということです。彼女に強力してもらうことで、綱道さんが見つかる可能性は格段に上昇するでしょう。」

「……え?」

「私たちがいくら捜しても、姿形を変えられてしまっては見抜くことは難しい。」


確かに。


「ですが、綱道さんの娘である君ならば、身なりが変わっていようと看破できますね?」

「……もちろんです。」


千鶴ちゃんが頷くと、山南さんは笑みを浮かべる。


「それに……彼女が手中にあるというのは、何かと都合がいいと思います。」

「ふむ……どうだ、トシ。山南君の意見に俺は賛成だが。」

「こいつが本当に何も知らねえっていうんなら……」

『ええ〜、俺が間違ってるっていうの?』


この子が嘘をついていないと進言したのは私だ。
おどけたようにそう言うと土方さんは呆れ返ったため息を吐いた。


「……まあ、あの蘭方医の娘となりゃあ、殺しちまうわけにもいかねえか。」


面倒そうな口調でそう言うと、土方さんは千鶴ちゃんを見据えた。


「……昨夜の件は忘れるって言うんなら、父親が見つかるまでおまえを保護してやる。」

「うむ。君の父親を見つけるためならば、我ら新選組は強力は惜しまんとも!」

「あ……、ありがとうございます!」


嬉しそうな顔を浮かべる彼女に思わず私も笑みが零れる。


「殺されずに済んで良かったね。……とりあえずは、だけど。」

『総司。』


総司の面白がっているような笑顔に、私は咎めるように名前を呼んだが、千鶴ちゃんは素直に頷いた。


「はい……良かったです。」


色々あったけれど、千鶴ちゃんは私たち新選組という協力者を見つけることができたのだ。


「雪村君、良かったね。これからはよろしく頼むよ。」

「はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」

「不便があれば、千華に言うといい。その都度、千華が対処してくれるだろう。」


一君がそう言って私に視線を向けて来るので、私はニコリと笑って頷いた。
そしてガバリと千鶴ちゃんに抱き着く。


『良かったねえ、千鶴ちゃん!これから女の子同士、仲良くしようね!』

「え……女の子って……」

「言い忘れてたな。千華も女だ。ま、女の格好でいるわけにいかねえから男装してるがな。」

「僕たち以外知らないからね。」


土方さんと総司の言葉に千鶴ちゃんは目を見開いて私を見つめた。

もしかしてわからなかった……?

だけどすぐに嬉しそうに笑みを浮かべてコクリと頷いた。


「はい!よろしくお願いします!千華…さん?」


か、可愛い〜!


『千華でいいよ〜。よろしくね、千鶴!』


女の子が増えて私、嬉しい!

ニコニコ笑顔の私に皆が頬を緩める。

えへへ、なんだかんだ皆が私のこと大事にしてくれてるのわかってるから、皆が優しい眼差しをしてくれてるのがわかる。

すると新八さんが口を開いた。


「ま、まあ、女の子となりゃあ、手厚く持てなさんといかんよな!」

「新八っつぁん、女の子に弱いもんなあ……。でも、だからって手のひら返すの早過ぎ。」

「いいじゃねえか。これで屯所がもっと華やかになると思えば、新八に限らず、はしゃぎたくもなるだろ。千華も嬉しそうだしな。」


左之さんはそう言ってわしゃわしゃと私の頭を撫でた。

え、もっとってそれ、私も入ってるの?


「とはいえ、ここでは女性として扱うのは難しそうです。汐見君のように隊士として扱うのもまた問題ですし、彼女の処遇は少し考えなければなりませんね。」

「なら、誰かの小姓にすりゃいいだろ?近藤さんとか山南さんとかーー」


土方さんのその言葉に、私と総司の目が合わさった。
思ってることは同じだ。


「『やだなあ、土方さん。そういうときは、言いだしっぺが責任取らなくちゃ。』」

「ああ、そうだな。トシのそばなら安心だ!」

「そういうことで土方君。彼女のこと、よろしくお願いしますね。」

「……てめぇら、勝手に決めてるんじゃねえ!」


わいわいと勝手に盛り上がる私たちに土方さんの怒鳴る声が聞こえてくる。

まあ、私たちの押しに負けた土方さんによって千鶴は彼の小姓になるのだが。


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