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おいかけっこ



その後、警部たちが手配したクルーザーに乗って島を出る。
佐木君と真壁君と美雪が船尾の上の方で腰掛けて島を見送るのを尻目に、あたしは船尾でずっと島を見詰め続けているはじめちゃんの隣に立った。
そして手すりに両腕を置く。



『あれが······全てお芝居の中の出来事だったらよかったのにね···』



あたしがそう言うとはじめちゃんはあたしの横顔をじっと見つめてから体を反転させて船尾の柵に寄りかかった。



「ただのお芝居じゃねぇか···」



いつもの明るいはじめちゃんの声ではなく、意気消沈したような声でそう言う。



「もっと大事な物があるのにな···」



あたしは彼の顔をただ見つめるだけだった。


何と言っていいのかわからない。


だけど···何か言わなければいけなくて、あたしははじめちゃんの言葉に頷いた。



『はじめちゃん···オペラ座の怪人のラスト知ってる?』



多分知らないだろうけど。


はじめちゃんがあたしの方へと顔を向けたので、あたしはそれから視線を逸らして再度島を見つめた。



『最後怪人はね······誰も恨まないでクリスティーヌを愛しながら死んでいくの···。きっと怪人は天国へ行けたのよ』



あたしはそう言って持っていた一本の赤いバラをはじめちゃんに笑顔で見せると、はじめちゃんが見守る中、海へと投げた。


感動のフィナーレへ。


それをじっと見つめるはじめちゃんを見て、あたしは笑みを浮かべると、



『はじめちゃん···元気出して』



そう言ってはじめちゃんに抱き着いた。
その瞬間はじめちゃんは「わおっ!」と声を上げてあたしの腕から抜け出すと、船尾の瀬戸際···来た時にサーフィンをしていた場所に下りると、そこを横に移動したりしながら逃げ出した。
さすがに危ないので止めようとあたしははじめちゃんに手を差しだすが、はじめちゃんはそれからも逃げる。



『ちょ、はじめちゃん危ないよ!』
「やめなさい!やめなさいっ!」
『やめなさいじゃなくて!』



そんなあたしたちの様子を見ていた美雪と真壁君と佐木君から笑いが零れる。



「まったくもう···ゆづちゃんもはじめちゃんも何時になったらくっつくのかしら」
「あの様子じゃまだ先だろうな」
「ですね」





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